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01.召喚したかったのは精霊なのですが

確かに、彼女は縁結びを頼もうとした。


だが、それは自分のためのものではない。



エスメラルダは呆然と目の前の魔法陣を見つめた。


そこには、自分が召喚した精霊がいる。はずだ。


なのに、どう見ても、これは”神”だ。しかも古代の神。いたずら好きで恋愛を司る神、クピド。


しかし、お世辞にも自分に神様を呼べる力量があるとは思えない。なにかの間違いだ。自分はただ、想いを運んでくれる精霊に、友達の恋を叶えて欲しいと伝えたかっただけなのに。


「えへ。きちゃった」


きちゃったじゃないんですけど。


エスメラルダは可愛らしく笑うクピドに困惑しながら、恐る恐る話しかけた。


「あのう・・・何をしにいらしたんでしょうか・・・」

「あ、お呼びでないよねー 知ってたぁ」


こちらの困惑など気にも留めない様子で、楽しそうに彼は笑う。いや、彼女かもしれない。目の前の神は幼い容姿で、性別もあやふやだ。だって神だから、そんなもの必要ないのだ。


「僕ねぇ、ちょっとヘマしちゃってね。めっちゃ怒られたの。今月中に、あと二組、まとめ上げないと、追放されちゃう。想いの精霊を呼んだんだもの、君も誰かに恋してるんだよね? くっつけてあげるよ、さぁ、相手を教えて」


こんなに簡単に手口を晒していいものだろうか。神が。


「精霊のふわっとした約束より、僕のほうがいいとも思わない? 確実だよぉ」


「・・・そう言われましても・・・私のことではないので・・・」

「えっ 違うの」

「友人です。両思いなのにお互い遠慮してなかなか言えないので、勇気を持って互いに思いを伝え合って欲しいと思いまして・・・」

「僕を呼んだの?」

「呼んでません」

「あ、そうだった」

「なので、私は関係ありません。彼女たちをまとめてくれるなら嬉しいですが」


エスメラルダが言うと、クピドはウキウキで手もみをした。


「一組は確実ってことだね! それは助かる。じゃ、もう一組は君ってことで」

「相手がおりません」

「誰かいるって。ね、そこら辺歩いてる人でもいいよ」


クピドは窓から外を覗こうとする。エスメラルダは慌ててそれを止めた。


「ダメです!」

「君は誰でもいいんでしょ?」

「お相手の方に申し訳ないです」

「大丈夫大丈夫。君、よくみるとそこそこ可愛いし、頭も良さそうだし、魔力も充分だし、お相手もきっと満足するよ!」

「しません! というか、もともと好き合ってる間柄ならともかく、その人が別の方と思い合っていたらどうするんです?」

「知らなーい。大丈夫、そっちも適当に僕がなんとかする」

「それなら、私とではなく、そっちとどうにかしてください」

「でも、君が召喚してくれたんだし・・・」

「ダメです」

「君を好きならいいの?」


そんな人はいない、とエスメラルダが口を開こうとしたその時、研究室の扉が開いた。



「エスメラルダ? 何して・・・いったい何を召喚したんだ?」


ぎょっとした声かけに、エスメラルダは頭を抱えた。


今日は誰もいないはずだったのに、よりによってこの男が来るなんて。


エスメラルダの同期で上司、完全無欠の男、ミカ・サイノス。


魔法庁にトップ入庁したミカは、その優秀さからあれよあれよと出世し、今では第三班の班長、エスメラルダの上司になってしまった。勤勉さもさることながら、風貌も優雅で綺麗め。それでいて真面目でストイックときてるから、女性から人気が高く、同僚からの人望も厚い。羨ましい限りだ。


エスメラルダはなかなか仕事を覚えられず、頭を抱えながらミカに補習を受けているというのに。


「・・・精霊を・・・呼ぼうと思って・・・」


エスメラルダが視線をそらしながら言うと、ミカはクピドに丁寧に挨拶していた。顔を上げたミカが首をかしげる。


「精霊? 何の」

「草笛の・・・精霊」

「想いを伝えるっていう? 何のために?」

「ちょっと・・・でももう必要なくなったわ」


クピドをちらりと見ると、輝く笑顔で思い切りエスメラルダに頷いている。


「ふーん・・・精霊の代わりに、クピド様を呼んだからか? そんなに高度な召喚魔法が使えるとは思ってなかったけどな」


ミカが不満そうに私を睥睨する。


「呼んでない。勝手に来た・・・いらっしゃったの。なんでも、仕事をお探しなんですって。見つかったようだから、もう私は用無しになったけど」


とりあえず、ルルとアチェロは喜ぶだろう。・・・多分。誕生日祝いに精霊からのささやかな贈り物だったはずなのに、仰々しくなってしまった。お互いに、ほんの少しの勇気があれば通じ合える相手だ、クピドの力で一押ししてもらえば、簡単に思いを伝え合えるだろう。ああよかった。


あとは早く、クピドが仕事に行って、ミカがどこかへ行ってくれれば。


「相手は誰だよ?」


いきなり、ミカの鋭い声が響いた。


「は?」

「お前が思いを伝えたい相手って、誰なんだ?」


エスメラルダは驚いて目を見張った。


いつも冷静沈着で、動揺もしない代わりに怒りもせず、覚えの遅いエスメラルダを冷たく一瞥するだけのミカが、焦りと怒りを同時に発するような、毒気のあるオーラをまとっていた。


クピドって、まんまなんですけど、違う名前にしたかった・・・某神話とは違う神の存在と思ってください。


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