4 朝顔
ちょっと真面目に考えてみることにした。
自分は空子ちゃんのことが好きなのだろうか。いや、好きか嫌いかと考えれば好きに決まっているのだが、その好きの種類が一体なんなんだろう。
親愛ではない。でも遊びに行くとしたら、一政よりは空子ちゃんを選ぶかもしれない。ごめん、親友。しかし、空子ちゃんを親友のポジションにしたいかと考えてみるとそれはなんだか違う気がする。
「っていうことで相談に乗って欲しいんだけど」
「…気になる女がいて、他の男と仲いいのが見せ付けられて嫉妬したっつーのは、お前それって恋じゃねぇの」
一政に相談すればすぐにバレそうな気がしたので、普段講義の時に隣の席に座るだけの顔見知りに相談してみた。
名前は覚えていないけれど、確か世話好きだという噂があった。口も堅いとのことで、白羽の矢を立てて見たのだ。友人Aは話を聞き終えてあっさりと言うけれど、どうも僕は納得いかない。
「そうなのかなぁ、ただの子供じみた独占欲って感じもしない?」
鞄を机の上に枕代わりにして置き、寄りかかったままとなりの友人Aを見上げて僕は首を傾げた。
あくまでも、空子ちゃんに『恋』している、なんて認めたくないのかもしれない。ロリコンだなんて、法的に問題があるということは別にして、年下を好きになる事に偏見はないけれど、実際自分だといわれると抵抗がある。いまいち飲み込みの遅い僕にじれたのか、友人Aは何か打開策はないかと少し考え込むように眉を寄せ、ぽん、と手を叩いた。
「あー。あれだ。友情か愛情かハッキリ簡単にわかる方法があるぞ」
「何?」
「ソイツとセックスできるか想像すんだよ」
自信満々に言い切られて、僕はため息を吐いた。聞いた自分の馬鹿さ加減に涙が出てきそうだ。しかし、友人Aは自信満々そうにさらに続ける。
「お前、これは結構確実なんだからな!だってお前、男とどんなに仲良くなってもセックスなんかしたくねぇだろ?だからそれは友情なんだよ。で、女とは仲良くなったらセックスして、それが恋人に発展すんじゃん? できないってことはそういう対象じゃねぇってことじゃん。じゃあ友情でって」
「バカでしょう、キミ……」
いつも空子ちゃんにいわれる言葉を自分で使ってみた。自分で紡いでも、空子ちゃんみたいにかわいらしい感じがしない気がする。
一応考えてみる。空子ちゃんとヤれるかどうか……っていうか、犯罪だ。
相手はまだランドセル背負ってるじゃないか。見たことないけど。自分の現状が現実にはどう見えるのかを思いついて自己嫌悪に陥る。
「ん?どうした?大悟」
「やっぱり聞いた僕が馬鹿だったよ」
はぁ、ともう一度ため息を吐いて、僕は鞄を引っつかんで教室を出て行く。友人が何か叫んだような気がするが聞こえないふりをした。大学と駅に続く坂を降りてバスターミナルに向かう。途中、やっぱりというか空子ちゃんに遭遇した。
嬉しくて声をかけると空子ちゃんも気付いて振り返った。
先ほどの友人Aの言葉を一瞬思い出す。
僕は空子ちゃんが好きなのだろうか。
いや、たぶん好きなんだろう。
一緒にバス停まで歩いて、僕は空子ちゃんを食事に誘ってみた。けれど、今日は用事があるから、と断られてしまう。
残念だったけれど確かに毎回毎回成功するわけもない。バスが来たので二人でバスに乗った。駅から五つ目のバス停で空子ちゃんはバスを降りる。
「それではさようなら、大悟さん」
いつものようにあいさつをしてステップを降りていくその白い姿を見送って僕は手を振った。
「うん。またね」
にっこりと笑うと、空子ちゃんも笑い返してきてくれた。白いワンピースの裾の紅梅が揺れる。僕は一瞬驚く。空子ちゃんは明らかに機嫌がよかった。どうしたのだろう、と少し興味が沸いて僕は気付いた。そういえば今日は父の日だったっけ。