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9.精霊殺しの石





「見習いから外れたお前達はこれから騎士として正式に働いてもらう」


「「「はっ!!」」」


「今回は本隊の騎士30名と精霊騎士隊の3名、リアム、ルーカス、ジェットでセントラルで開かれる舞踏会内部の警護に当たってもらう。そこまで難しくはない任務だが、見習いの時とは違いお前たちの行動には騎士としての責任が伸し掛かる。気を引き締めて行くように」

精霊騎士はそもそもの人数が少ないが、その力は騎士十人分だとも言われている。


「「「御意!!!」」」

そう言って私達は敬礼をすると、そのまま会場に向かうべく部屋を後にした。


「貴族の舞踏会なんて初めて行くよ」

呑気にそう言うルーカスは見習いを卒業する試験で三位だった。人選を見る限り、今年の試験合格者の上位3名を選んだという訳か。


「会場内ではあまりキョロキョロするなよ」

そう言うジェットはクレア様とのあの一件以降全く私に関わらなくなった。それどころか2年程は私を見つけると顔を蒼白にして逃げていた程だ。最近ようやく落ち着いたようで仲良くは無いが必要であれば言葉を交わすようになっていた。

そんなジェットは試験で私に続き二位だった。


「それより、舞踏会に合わせてるのか知らないけど今日の騎士服は装飾品が多くて邪魔だな」

白と青の生地を使った騎士服は動きやすい素材だが、ジャラジャラと揺れる装飾品は邪魔でしかない。

引き千切ってやりたい。


「引き千切るなよ」

焦げ茶の瞳を細めて私を見るジェットに気付いて持っていた装飾品からぱっと手を離した。


「やらねぇよ」

私達はそのまま馬に乗って舞踏会の会場へと向かった。





会場に着くと既に本隊の騎士たちが持ち場に着いていた。

私も今回の任務の指揮官を探しているととても見覚えのある人が騎士たちに支持を出していた。


「げっ」

私の声に気づいたその騎士は私達3人のもとに近付いてきた。


「なんだその“嬉しそうな”顔は」

意地悪に笑う兄に溜息をつく。

今日の上官は兄さんかよ…ヘンリー隊長わざと黙っていたな…。


「あ、リアムの兄貴だ」


「副団長と呼べ」

ギロリと睨む兄に軽く謝るルーカスは大物かもしれない。

対してジェットはなぜか震え上がり、顔面を蒼白にして固まっていた。


「お前達精霊騎士は出入り口で警護だ」


「「「御意」」」

そう言うと私達は持ち場へと向かった。



『リアム今日私達は何をしていたらいいの?』

『何でも言って!主様!!』

『今日は遊べるかなぁ』

思い思いに話す精霊達は私の周りで舞っていた。


「今日はここに来る人達の警護だよ。しんどそうな人や怪しい動きをする人が居たら教えてね」


『わかったわ!リアム!!任せて!!』

『僕も行ってくるね!!』

『あぁ〜待ってよぉ』

そう言った精霊達は光を放ちながら消えて行った。


「相変わらずお前の所の精霊は賑やかだな」

土の精霊を連れたルーカスは少し楽しそうに声をかけてきた。

ルーカスは土精霊を使役し、肉体や武器を硬化させて強度を上げるため常に精霊を近くに置いている。


「そう言うルーカスの方も仲が良いよね」


「まぁな!なぁ、相棒」

ルーカスはそう言うと精霊とハイタッチをした。


「そろそろ参加者が集まってきそうだぞ」


「あぁ、わかった」

少しして、綺麗に着飾った男女が会場に入ってきた。

それと同時に使用人達はテーブルに軽食を並べ出す。

テーブルに用意されたサンドイッチを見て昔クレア様が作ってくれたものを思い出す。


今日は貴族達が集まる舞踏会だ。

もしかしたら…会えるかもしれない。

…いや、会えたとしても逃げられるかも…私の顔なんて見たくないかもしれない。


あぁ…遠目で良いから推しを見たい。






「見て…あちらの騎士様…なんて美しいのかしら」

舞踏会に参加しているご令嬢達の視線はリアムに集まっていた。

当の本人の頭の中は推しの事しか考えていないが、その真面目そうな表情に少女達は胸を躍らせていた。


「ほんと…あの容姿…もしかしたらあの方がリアム・ネルソン様ではなくて?」

ご令嬢達は少し癖がついた柔らかそうなミルクティー色の髪と深い青色の瞳の母性本能を擽る可愛い少年のようなリアムを口元を扇子で隠しながらチラチラとと盗み見る。


「まぁ!!あの最年少で騎士団に入団して高位精霊と契約したあの…?でしたらルーク様の弟君ですわよね…お兄様とはまた違った美しさをお持ちですわ」

顔の整ったルークもご令嬢達の間で人気が高かった。その弟だと言うリアムにも注目が集まるのは無理もない。


遠目からきゃあきゃあとリアムを盗み見ていると、リアムのすぐ隣で配膳をしようと料理を運んでいたメイドが躓いて転びそうになった。それを見たリアムはとっさにメイドとメイドが運んでいたトレーを支えると優しく微笑んだ。


「まぁ!!なんて愛らしい笑顔なのかしらっ!!」


「私もリアム様に抱きしめられたい…!!」


「メイドっその場所を変わりなさいっ」


「あぁ、メイドにも優しいなんて…」


少女達がうっとりとリアムを見ていることに気付いたルーカスはご令嬢達が自分の事で騒いでいると気付いていない鈍感な同期にやれやれと思うのであった。






舞踏会が始まってからは何の問題もなく警護に当たっていた。

不思議と視線を感じるが、気のせいだろうか。

もしかしたらやはりこの装飾品が多すぎる騎士服が駄目だったのかもしれない。私も好きで着ているわけじゃないんだけどな…。


クレア様はやはり、いらっしゃらないのだろうか…嬉しいような…悲しいような…。

私が隠れて溜息をついていると頬を撫でる風に気がついた。


『リアムっ!!』


「ウィンディどうした?」

ぱっと目の前に現れたウィンディは少し慌てた様子だった。


『会場から少し離れた休憩室の個室で…!!』

その言葉を聞いた私はすぐに高位精霊であるアクアージュを呼び戻して自分の持ち場に残すと、ウィンディと一緒にその個室へと向かった。


「ここか…」

締め切られた扉に失礼だと自覚しながらも聞き耳を立てる。


「やめてっ!!」

「大人しくしろ!!」

その言葉を聞いた瞬間私はウィンディに扉を破らせると、中へと駆け込んだ。


休憩室の中のソファに少女を押し倒すかのように男が乗っていた。男の顔は少し赤く、酒に酔って少女を組み敷こうとしているのだろう。少女のドレスは乱れて、恐怖で震えながら涙を流していた。


「下衆が」

私が男を吹き飛ばそうと手を上げると男は慌てて立ち上がった。


「まっまて!!俺は侯爵だぞ?」


「だから何だ」

私はゆっくりと男に歩み寄った。

男は警戒して私と一定の距離を開けている。


「この女は男爵だ…!私がやっている事は咎められることではない!!私よりも下位の者に私を拒否する権利はないんだ」


「…馬鹿馬鹿しい」


「なっ!?爵位もない騎士のくせに!!生意気だぞ!!」

これが貴族か…反吐が出る。

私は一瞬で男に距離を詰めると腕を掴んで壁に押し付けた。

丁度そのタイミングで呼んでいたメイドが現れた。


「すみません。彼女の保護をお願いします」

私は暴れる男を押さえつけながらもメイドと少女を安心させる様に笑顔を向けた。メイドはドレスが乱れた少女に上着をかけると、部屋を出て行った。


「くそっ邪魔しやがって…!!」


「モブキャラみたいな言葉がスラスラと出てくるんだなお前は」

少女たちに向けていた笑顔を消すと見下すような視線を男に向けた。女性を襲うなんて許さない。こういう男が一番嫌いだ。


「くそっ、この野郎!!」


「なっ!?」

男は持っていた何かを隣に居たウィンディに投げ付けた。


『きゃあっ!?』


「ウィンディ!!」

精霊で、実態がないウィンディに当たるはずがないそれはウィンディに当たると光を発しながら弾け飛んだ。その瞬間、私は胸に刺すような痛みを感じて思わず男の手を離してしまった。


契約した精霊と人間はお互いの心臓に契約印を結ぶ。

互いに何かあるとその反動で胸が傷んだり、悪い時には死に至る場合もある。精霊と契約するという事はそれほどリスキーな事なのだ。


男は私の手が離れた瞬間に今度は私に馬乗りになって私を押さえつけた。


「お前の精霊は封じた。男だが…顔はイケるから良いだろう…あの女の代わりにお前に相手をしてもらおう」

男は気持ち悪い笑みを浮かべながら私の騎士服に手を掛けた。

ウィンディはさっきので目を回している。アクアージュを呼ぼうにも胸を指す痛みのせいか上手く精霊を呼ぶことができない。


「やめっ…」


「はっお前みたいな生意気な奴相手にするのは久々だ…ってお前…」

見られた…そう思ったのと同時に男は吹っ飛んで行った。

飛ばされた拍子に頭を売ったのか、男は伸びた。


「はぁ…はぁ…おい、大丈夫か」

ジェットは肩で息をしながら私の隣に立っていた。


「ジェット…?…なんでここに…?」

私はぐるぐると回る頭を抑えながら体を起こした。


「まさか…精霊殺しの石を持っている奴がいるなんて…」


「精霊殺し…?あぁ…だからか…」

精霊殺しの石はその名の通り精霊を殺す事ができる石だ。

並の精霊だと石を投げつけられた時点で消えるが、高位精霊はダメージはあるものの、消えることはない。


「…ジェット?」

何も言わないジェットを不思議に思い、痛む頭を抑えながら顔を上げる。

そこには顔を真っ赤にさせながら口をパクパクするジェットがいて、その視線は私の胸元に向けられていた。


あぁ、これか。


「…見るな。変態」

騎士服の下のさらしが見えているだけで胸自体は見えていない。少し谷間が見える程度だし女とバレたことは面倒だがジェット相手なら別に困ることでもない。


「わっ悪い!!…って、え!?」

明らかに混乱しているジェットを放って私は目を回すウィンディの近くに寄った。


「ウィンディ大丈夫か?」


『ふぇええ不覚だわ…まだ目が回っているもの』


「今日はもう休め」


『ごめんなさいリアム…そうするわ』

ウィンディはそう言うと光の粒となって私の胸元に入って行った。契約精霊は契約者の体で寝起きする。精霊使いは精霊の力を借りる代わりに自身の心臓を宿として提供するのがこの世界の常識だ。


「そんなに見るなと言っただろ、さてはお前童貞だな」

乙女ゲームのヒロインはこんなこと言わないだろうな…尽くキャラを崩壊させて行ってる気がする。


「はっ!?馬鹿っ!!ちげぇよ!!」

顔を真っ赤にするジェットは手早く男を縛り上げると部屋を後にした。


私も乱れた服を簡単に整えるとジェットの後を追って行った。









「…何があった」


「はい、これ。あまり精霊に近づけないでよ」

私は眉間にシワを寄せる兄に精霊殺しの石を渡す。

それを受け取った兄の顔は更に険しくなる。


「精霊殺しの石か」


「そう、あとは宜しく」


「待て」

持ち場に戻ろうとした私を兄さんは呼び止めた。


「ん?って、わっ!!」


「着ておけ」

兄さんは自分が着ていた騎士服の上着を脱ぐと私に投げつけてきた。


「えぇ、大きさが全然違…」


「着ろ」


「はい…」

私は大人しく一回り以上大きな騎士服を着て持ち場に戻った。

その後、ブカブカの服を着たリアムを見て悶えたご令嬢は少なくなかった。






「ジェット」


「!?」ビクッ

ジェットは機械人形のように自分の名前を呼んだ副団長に顔を向ける。


「…話を聞かせてもらおうか」


「…はい……」




その後ジェットがリアムを再び避けるようになったのは言うまでもない。






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