第88話 試験勉強
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王都は広大な面積を持つ領内に、多くの都市が広がっており、西区、北区、東区、南区の四つに分けられている。
西区は居住区画で、そこに暮らしているのは一般市民が大半だ。
彼らのほとんどは王都で働いている者たちである。
次に東区。 ここはロッドハンス王国の王城がそびえ立つ区画であり、王家と公爵の爵位を持った貴族のみが住むことを許されている地区だ。
北区はスラム街。 ここも一応は王都内ということにはなっているが、実質的にはほぼ隔離された場所だと言っていい。
そう言われているのも、このスラム街が王都の中心部から20キロメートル以上も離れたところに置かれている街だからである。
王都の領内には入っているが、あまりに王都の中心部から離れているために不便さから普通の人はここには住みつかない。
しかし、土地の安さと減税の制度もあって、貧困者などはここに住み、王都に出稼ぎに行って生計を立てているという。
南区は商業区画。 商いを生業としている商人達の殆どがここにある『商業ギルド』という所を拠点にして仕事をしている。
そして、王都ストルボンの四区の中で最も面積が大きく広がっている区画でもある。
一般に繁華街とも言われており、宿からさまざまな商品店、カジノなどの娯楽施設まで全てが充実している。
王都の中心部であり、王国の中で最も発展している場所ということだ。
昼夜多くの人で賑わい、王都に住む者のほとんどはこの場所で仕事をしている。
人間の国の中でもここまで充実した場所がある国は少なく、別の国からも多くの人が訪れるそうだ。
俺たちをここまで乗せてくれたあの行商人も『商業ギルド』の所属商人で、別れる際も、彼はその商業ギルドの本部へと向かうと言っていた。
王立ミシェド学園は、東区寄りの南区にあり、南区の約10分の1もの広大な面積を駆使し、寄宿舎から食堂、訓練場、様々な店まで立ち並ぶ、もはやそこだけでも1つの都市と呼べるレベルの規模だ。
今手元にあるこの情報と先程商人から受け取った、新しい地図があれば、学園には迷うことなくつけるだろう。
まだ試験までは10日程余裕があるが、その時間はとりあえずエルフィアの学識をあげたいところだ。
ミシェドの試験は一次選考にステータスからの選抜。 二次選考に実技・実力試験、三次選考に筆記試験という構成になっている。
さすがに人の通う学園の中でも、最難関と呼ばれるだけあって、筆記試験もかなり難しいと聞く。
エルフィアには、別にレイアースで待っていてもいいと進言したのだが、自分もその学園に通いたいと言って聞かなかったのだ。
そんなこんなで、試験を受けるのは俺とエルフィアということになった。
ラフィーは、書類上俺の持ち物ということになるだろうから試験を受ける必要は無い。
そもそも人間しか受けることの出来ない試験を、天使であるラフィーが受けることなど出来ないのだが。
エルフィアは半分精霊とは言っても、ステータス上では、種族『人種』となっていたので心配ないだろう。
俺は下積みがあるから、筆記試験は特に問題ないとは思うが、2年間も引きこもっていたエルフィアがなんの準備もなしに試験を受けるというのはやはり無理がある。
といってもまあ、10日でどうこうするのもかなりハードではあるが。
そんなことを考えていると「ははっ」と苦笑いが漏れ出る。
そして俺は決心し、エルフィアに呼びかけた。
「よし、エルフィア」
自分の名前を呼ばれたことに気づき、彼女はピクッと俺の方に向き直す。
「ん、なに?」
「勉強するか」
こうして、10日間の修行もとい、猛勉強の日々が始まったのだった。
書店では厚さ10センチほどの参考書を数冊買い込み、宿をとって勉強をする。
俺の方も復習になって一石二鳥だ。
その間予想外だったことが2つあった。
1つ目は、ラフィーが天才的に教えるのが上手いこと。
1時間ほどで全ての参考書を読み、異常な吸収率で内容を全て覚え、ラフィーなりの解釈でエルフィアに伝授する。
もはや俺が解説する機会は後半5日間はほとんどなかった。
むしろ俺の方もラフィーの分かり易すぎる解説に耳を傾けて、感動していたほどだ。
2つ目は、エルフィアの理解力だ。
確かにラフィーの説明・解説も良かったのだが、それを速やかに理解していくエルフィアの方もすごかった。
2年間も引きこもりをやっていたとは思えない。
そして、たった10日足らずで彼女は、あの量の参考書のほぼ全てを理解していた。
一体どんな頭の構造をしていたら、そんな芸当が可能になるのか、まるで検討もつかない。
もしも地球にエルフィアが行けば、間違いなく最難関大学をいくつも卒業できるだろう。
───そしてついに今日から、王立ミシェド学園の第一次選考試験が始まる。




