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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第9章 ~精霊契約と入学試験~
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第87話 王都へ

 




 扉を開けると、エルフィアとラフィーはこの部屋の探索をしているようだった。3人部屋なのでそこそこの広さがある。



「はは、確かに子供みたいだな」



 その光景を見て、あの受付嬢の言葉を思い出すと、俺はふっと微笑を零した。



 そう言えば、本当にあの受付嬢はなんのつもりであんなこと言ってきたのだろうか。



『そういう目的のために設計されてはいないので』とは一体どう意味なのか。 今更になって気になりだして、少し考えてみると、はっと気づいた。



「───うわぁ、まじかあの受付嬢。 絶対に変な誤解されたなぁ……」



 俺はそのことに気づいた瞬間、ため息を着いて、頭を抱えた。


 つまり、あの受付嬢は俺が、男一人女二人という状況にもかかわらず、1つの部屋を取ったということで、あらぬ誤解をしてしまったのだ。


 そう、今から俺達が(みだ)らな行為をするのではないかという誤解を。



 不覚だった。


 普通に考えたら、こんないたいけな少女2人を連れて、同じ部屋で寝泊まりしようなどという男なんて、どう考えても(ただ)れた厄介な客としか思えないだろう。



 俺はきつく歯噛みして、気づけなかった事を悔やむ。


 今更後悔してももう遅いとは思うが、今からでも誤解を解きに行くか。



 そうやって考え悶えていると「どうしたの?」という声が耳に入った。



「───いや、なんでもないよ。 ちょっと宿代が予算オーバーしただけ。 誤差の範囲だから問題ないよ」



 俺は呼びかけてくれたエルフィアに咄嗟にそう答えた。



 まぁ、仕方ないか。 タイミングがあればこっそりと誤解を解いておこう。 そう決心した。



 そのあとは、食事をとり、風呂に入ると、直ぐに睡魔が襲ってきた。


 大きな欠伸をしながら自分のベッドに潜り込む。



「ふぁー、俺はもう寝るよ。 2人ともあんまり夜更かしするなよ。 明日は早いからな。 じゃあおやすみ」

 


 俺は睡魔で朦朧とする意識の中、ラフィーとエルフィアに向かってそう言った。



「おやすみなさい、マスター」



「おやすみ、ユウ」



 それが辛うじて聞こえてきた途端、俺の意識は睡魔の海へと誘われた。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆





「寝ちゃいましたね」



 青髪の小柄な少女、ラファエルは、向かいのベッドでぐっすりと眠る少年の寝顔を、うっとりと見つめながら呟いた。



「そうみたい。 本当にすぐに寝ちゃったのね」



 それに反応して、ラファエル同様にその少年を頬を緩ませて眺めているのは、白髪の少女、エルフィアだった。



「マスターも疲労が溜まっていたんでしょう。 今日も一日歩きっぱなしでしたし」



「ここ1週間は色々あってばたばただったから、今日はぐっすりと眠れているみたいで良かったわ」



「でも、少し前までは、マスターがこんな風に誰かの前でぐっすりと眠ることってあんまりなかったんですよ」



 ラファエルは何か悲しい事を思い出したような声色で、エルフィアにそう言った。



「やっぱりユウは……」



 ラファエルにつられてエルフィアまでもが悲しげにユウを見つめる。



「フィアも知っている通り、マスターはとても酷い仕打ちを受けてきたんです。 それも本当に見ていられないほど」



 ラファエルは静かに話した。 自分が実際に見た彼の悲痛で壮絶な過去のことを……。




「───そいつら絶対に許せない! なんで、なんでユウが、そんな仕打ちを受けなきゃならなかったのよぉ……」



 目を伏せて、唇をぎゅっと噤んで聞いていたエルフィアは今にも泣きだしそうに声を震わせて呟いた。



「本当ですよね。 マスターはこんなにも優しい人なのに……。 でも、だからあたしは、絶対に守りたいと思って、マスターをあたしのマスターに選んだんです」



 ラファエルは頬を薄らと染めながら、そっとそう言った。



「そうだったのね……」



 エルフィアはラファエルの顔とユウの寝顔を交互に見つめるて、うっそりと呟いた。



「というわけで、あたしはマスターとずっとそばに居なければならないのです!」



 するとラファエルが突然、しんみりとした雰囲気が嘘のように、ぱっと立ち上がった。



「───え、ちょ、ラフィー!?」



 エルフィアは、そう言って立ち上がり、ラファエルがユウのベッドの中に飛び込んでいくのを見て、目を見開いた。



「ふふ、マスターとあたしは一心同体。 いついかなる時も、離れられないんです!」



 既にユウのベッドの中に潜り込んでいたラファエルは目をキラっと輝かせて、ユウの腕にしがみつく。



「そ、そんなことしたら、ユウが起きちゃうわ───って、あれ?」



 しかし、ユウはまるで起きる気配を見せず、すやすやと眠ったままだった。



「大丈夫ですよ。 マスターはこの通りぐっすりですから」



 そういうラファエルを見て、エルフィアは口をぽかんと開けて呆然とする。


 しかし、直ぐに立ち直り、エルフィアもユウのベッドに直行し、恐る恐る、彼を起こさないよう静かにかつ速やかに潜り込んだ。



 そして、彼女も負けじと顔を真っ赤に染めながら、ユウの袖口をちょこんと摘んで。



「わ、私も、ユウのことを手助けするって約束したから……。 だから私もユウと常に一緒にいる義務があるわ!」



 その時ユウが「……んぅ」と呻き、起きそうになったので、2人は人差し指を口元に当てて「しぃー」というジェスチャーをとった。



 そしてお互いにくすくすと笑いあって、エルフィアとラファエルがユウを間に挟む形で2人も眠りについた。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆





 翌朝───



「…………うぅ」



 体に重圧がかかる感覚とともに俺は目を覚ました。


 睡眠はしっかりと取れていたはずだ。 疲労感もそこまで無い。 ならば何故こんなに体が重いのか。


 この感覚はもしやと思い、慌てて体を起こし、目を擦る。



「やっぱりか……」



 左腕の方を見下ろすと、鮮明になった視界の中には、俺の体にしがみつき、ぐっすりと眠るラフィーの姿があった。



 まあ、ラフィーについてはいつもののことだから、何となくは予想出来ていたし、こっちの方が自然なのだが、何かおかしい。



 普段からラフィーは俺の左側にしがみついて眠っていることが多いので、習慣のように左側に視点を向ける。



 当然のようにラフィーはそこに眠っていたのだが、しかし、何故か右側にも同じような感覚があったのだ。



 俺は、まさかと思ってそっと視界を右側に移していく。



「────どぇ!?」



 そこに寝ている人影を見て、思わずそんな声が漏れでる。



「な、なんでエルフィアまで……」



 そこに居たのは、すやすやと静かな寝息を立てて眠っているエルフィアだった。


 無防備に眠る彼女の寝巻きから露出する白肌がうっかり視界に入ってしまい、無意識にさっと目をそらす。



───これは、かなりやばい



心臓が跳ね上がり、心拍数が尋常じゃないくらい急上昇している。



 さすがにこれは、俺のキャパシティの天井など、軽々と突き破っている。



───いや、おちつけ、俺。 深呼吸だ。 気持ちを落ち着かせるんだ。



 しかし、この動揺に慌てるまいと、俺は自分にそう言い聞かせ、深く深呼吸をすると、次第に急激に上昇した心拍数も収まっていき、なんとか気持ちを落ち着かせることに成功した。




 というか、せっかく3つベッドがあるのだから、わざわざ俺のところに集まらなくてもいいというのに。



 内心そう思いながらも、彼女達の安心しきった寝顔を見ていると、自分が信頼されているのだと改めて実感出来て、何だか嬉しくなった。



「でもこれじゃあ、せっかく3人部屋にした意味がないじゃないか」



 俺は、暖かい日差しがカーテンからこぼれる中で、そう呟いてひっそりと苦笑いした。



 その時、コンコンと扉がノックされる音が聞こえた。


 それに遅れて、扉の奥から聞き覚えのある声が聞こえてくる。



「お、お客様。 起きておられますか? 1階ロビーにてお客様をお待ちの方がおられますよ」



 そう言ってきたのは、よりにもよってあの受付嬢だった。



「あ、ああ、起きてる。 すぐに支度をして、降りるから、そう伝えておいてくれ」



 俺は慌てて返事をし、頼むから入ってき来ないでくれよ、と内心で強く懇願しながら耳をすませていると、だんだんと足音が遠ざかっていくのが聞こえる。



 俺はあの受付嬢が戻ったのことを確認すると、ほっと胸をなで下ろした。


 この状況を見られれば、間違いなく誤解を解く機会は失われる。



 俺は再び安堵の吐息を零すと、すぐさま2人を起こして、支度し、1階へ降りる。



 そしてチェックアウトを済ませ、その時に、あの受付嬢に一応昨日の誤解を解いておくと、なんとか、彼女は納得してくれたようだった。



 何はともあれ、誤解が解けてよかった。 ご飯も美味しかったし。



 こうして、俺達はこの宿を後にした。



 俺達を待っていたのは、とある商人だ。



 ちょうど今日王都へ引き返す予定の商人が、同じ宿に滞在していたので、礼金を払うと約束して、同行させてもらうことにしたのだ。



 手早く準備を済ませると、馬車に乗り込み王都へ出発した。



 道中、乗せてくれた商人の商いの手伝いをしたり、他にもいろいろとありながらも、予定通り1週間の馬車の旅を無事終え、ロッドハンス王国王都、『ストルボン』に到着したのだ。





「ここまで乗せて頂きありがとうございました」



 王都南門付近の馬車の停留所で俺達は降ろしてもらった。



 俺は降りる際に礼金を払い、お礼を口にする。

 それに続くように、ラフィーとエルフィアもちょこんと頭を下げた。



 そして俺達は、商人と別れた。






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