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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第9章 ~精霊契約と入学試験~
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第86話 サナンヘ

 




「それじゃあ、そろそろ出発するぞ」



 15分程度の休憩を終え、再び森の中を歩き出す。



 1時間ほど歩いたところで、ついに森林地帯を抜け、少し先には小さな町が窺える。



 サナンだ。


 見たところ、数軒建物が増えている気がする。


 何せ、最後にここに来たのは2年も前のことだ。 色々と変わっていることもあるだろう。


 しかし、久しぶりに人間の町を眺めて、なぜだかとても懐かしく感じた。


 本当に、戻ってきたのだという実感が改めて湧いてくる。



 俺達はひとまず、この町で宿を取り1晩を過ごし翌朝出発することにした。



「さて、この宿でいいとしても。 部屋割はどうするかなぁ」



 俺はとある宿屋の前で頭を捻る。



 ラフィーに関してははあまり悩むことはないのだが、エルフィアについては、果たしてどうしたらいいものだろうか。



 ラフィーが俺と同じ部屋だというのに、彼女だけを1人部屋にするというのも仲間としては少し不憫な気がするが、さすがに男と同じ部屋で寝るのは彼女も遠慮したいだろう。



 ラフィーはいつもの様に俺と同じ部屋で、エルフィアは別に1部屋借りて、そこで休んでもらうということで2部屋取るか。



 初めは3部屋を取ってそれぞれ別々に泊まるということにしようと思ったのだが、節約できる状況で、サイオスがくれたお金を無駄遣いするのはさすがに出来ない。



 学園の入学費用とかもいるだろうし、出来ればこのお金に手をつけるのは最小限に抑えたいのだ。



「宿、入らないんですか、マスター?」



 そうやって悩んでいると、不思議そうに首を傾げながらラフィーは俺の袖を引っ張ってきた。



「いや、部屋割りとかどうしようかと思ってな」



「3人部屋をひとつ借りるんじゃないの?」



 エルフィアは、宿の壁に備え付けられている案内用看板を指さしながら言ってくる。



 俺はどれどれと、その看板に視線をやると、部屋の紹介の部分にはこう書かれていた。



『1人部屋から3人部屋までの各種の部屋からお選び頂けます』



「ね、3人部屋もあるって書かれてるでしょ?」



「いや、確かにそうなんだが……。 その、エルフィアはいいのか?」



「いいのかって?」



「だから、男の俺なんかと一緒の部屋でいいのかと思って……」



 するとエルフィアは何かに気づいたようで、はっと目を見開くと、突然もじもじとしだした。



 どうやら男と同じ部屋に泊まるということがどういう事なのかに気づいたようだ。


 頬が薄らと紅潮しだした。



 この様子だと、やっぱり部屋は分けた方がいいか。 節約でないのは少し惜しいが、エルフィアが嫌がることは絶対に出来ない。



「……それじゃあ、2部屋に分けるか───」



「一部屋でいい……」



「え?」



 視線を泳がせながら、気恥ずかしそうに頬を赤らめるエルフィアのその言葉に、思わず間の抜けた声が出た。



「……本当にいいのか?」



「ユウだったら……平気」



「────お、おう。 わかった」



 エルフィアがそう言ってくれることに安心するのと同時に、妙に気恥ずかしくなって頬を指で掻きながら目を逸らしてしまった。



「それじゃあ入りましょう!」



 既に扉の前で待機していたラフィーは、踏ん切りがついたのを見計らうと、待ちかねたと言うように呼びかけてきた。



「ああ、そうだな」



 そう返して、俺達3人は宿に入った。



 入ると直ぐに受付所があり、受付嬢らしき若い女の子が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれる。



 茶髪が良く似合う、女の子。 年齢は俺達と同じくらいだろうに、ちゃんと仕事をしているなんて偉いな。



「お部屋はどうなさいますか?」



「あ、一泊で3人部屋を1部屋お願い出来るか?」



「え───」



 受付嬢はその短い「え」から、しばらくの間、完全に停止していた。



「どうした? もしかして部屋余ってなかったか?」



 そう呼びかけると、受付嬢は、はっと我に返り、あわあわと慌てふためきながら受付を始めた。



「あ、あぁ、だ、だ、大丈夫ですよ! え、えっと、一泊で、さ、3人部屋を、ひ、1つですね。 しょ、承知しました! だ、代金は、えっと、銅貨52枚になります。 お、お食事はお付けしますか?」



 なんでこの人、こんなにキョドってるんだろう?


 目もさっきから泳ぎっぱなしだ。


 最初の接客は全然問題なかったから、素人だとか、あがり症だとかは恐らくないと思うのだが。



 俺は疑問に思い、首をひねりつつも「じゃあ夕食を」と応えた。



「で、では、銅貨62枚になります。 お部屋は、に、2階の204号室になります」



 そう言って、階段の方に手を向けて案内してくれた。



「わかった。 ラフィーとエルフィアは先に行っててくれ。 俺は代金払ってから行くから」



「わかりました! いこ、フィア」



「うん」



 そう言って2人で階段の方へ向かい、登って行く。



「えっと、銅貨62枚ね」



 俺は財布から銀貨を1枚取り出して手渡す。



 動揺している受付嬢はお釣りを計算する作業だけは手早く済ませ、さっと手渡してくる。



 お釣りの金額を確かめ、部屋に向かおうとした時。



「あのぅ」



 受付嬢が席から立ち上がって、俺の方に寄ってきた。



「ん、なんだ?」



 俺が振り返ると、恐る恐る受付嬢が耳打ちしてくる。



「えっと、うちの宿、そ、その、そういう目的のためには設計されていないので、べ、ベッドもあまり頑丈ではないですし、お風呂も小さな浴場が一つあるだけです。 なので、む、無茶なことだけはご控えください」



 どういう意味かよくわからないが、とりあえず、宿の中ではあまり騒いだり暴れたりするなってことだろうか。


 そこまで子供じゃないんだから、そんなことしないとは思うが。


 まあ、3人も同じ部屋だったら少し心配にもなるのかもしれないな。



「? ああ、分かった。 そこら辺はちゃんと配慮するよ」



 俺はそう応えて、部屋に向かった。







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