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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第9章 ~精霊契約と入学試験~
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第84話 国境を渡って

 




 エルフの兵士は俺達を、あの国境の河川へ連れて行く。


 深い森林の中に悠々と涼しい音を立てながら流れる美しい川だ。


 あの時は目隠しをされていたのでここに到達するまでのルートは初めて見る景色だった。


 しかし、どことなく懐かしさが感じられる。


 川のせせらぎが聞こえてきて数十秒後、ついに目的地である国境が見えてきた。



「着きました」



 道を先導するエルフの兵士が俺達の方へ振り向いて言ってくる。



 それはちょうど森を抜け、あの河岸が顕になった時だ。



 ここは、人間の国と隣接している場所なので橋など向こう岸へ渡る手段はない。


 また、エルフの兵士達が魔法で結界を張り侵入者が来ないか見張っている。


 そのために、人間はもちろん入ってくることは出来ないし、エルフ達も決してこの川を越えようとはしない。



 この国境線は言わば種族間の垣根の象徴と言えるだろう。



「なんだか懐かしいですね」



 隣に立つラフィーが俺の顔を見上げて呟く。


 俺は「そうだな」と応えて、目線を向こう岸に向けた。


 この景色は見覚えがある、と言っても2年前に見たきりここには来ていなかったが、何となく「戻ってきた」という感覚はあった。



「ここから先が人間の国なのね……」



 向こう側にそびえる森林を眺めながらエルフィアはそう零した。


 確かに、彼女にとっては色々と思うことがあるだろう。



「大丈夫か?」



 俺は心配になり声を掛けてみるが、エルフィアは以外にも平然として応える。



「ええ、平気。 その……隣に、ユウがいてくれるから……」



 もじもじしながら言わないでくれ、と言いたくなるところをぐっと堪えた。


 もしそれをわざとやっているのだとしたら男を落とす才能があると言ってやりたいところだが、わざとではないということをわかっているからこそ、余計にエルフィアが可愛く見えて仕方がない。


 もちろん、彼女が俺のことを憎からず思っており、慕ってくれていることは重々に理解できている。


 けれどエルフィアが俺に抱く感情は恋心ではなく、敬愛の類だ。


 分かっている。 これは俺の勝手な妄想なのだということくらい。


 けれどどうしても、彼女のあどけない言動ひとつひとつが俺の胸を高鳴らせてやまない。



 いや、落ち着け俺。



 いくら考えたって今すぐどうこうできる問題じゃない。


 それよりも、こういったことでいちいち心臓を跳ね上がらせないように慣れていかなきゃ、今後支障が出かねない。



 そう自分に言い聞かせ、気づかれぬように深呼吸して気持ちを整える。



「そ、それなら良かったよ」



 落ち着けたつもりが、まだ不完全だったようでややぎこちない口調で返事をしてしまった。



「それでマスター、今度はどうやって渡りますか?」



 不意に袖を引っ張られる感覚とともに、幼い甲高い声でラフィーが訊ねてくる。



「んー、そうだなぁ」



 俺は再び川に目をやり、顎をさする。


 たしかに今の最重要事項はこの川をどう渡るかだ。


 もし今回もスキルを使うとすれば、2人を俺が抱えるかたちでわたるということになるのだろうが、果たしてレベル1の『跳躍力補正』で事足りるだろうか。



 もしくは、俺がラフィーかエルフィアのどちらかを先に向こうに渡らせた後、戻ってきてもう1人運ぶという手もあるか。



 しかし、どちらも難しい気はするが。



 そう頭を悩ませていると、エルフの兵士の1人がそれに気づき「そのことなら」と口を開いた。



「我々が魔法であちらまでお送りいたしますよ」



「え、本当ですか?」



 俺はその提案に目を見開いて食いつく。



「はい。 おーい、みんな準備してくれ」



 先導していたエルフの兵士が後方に構えるほかの兵士達に呼びかけ、俺たちの後ろに隊列を組み、両手を広げて胸のあたりまであげる。



 俺たちが何をするのかと首をひねっていると、エルフ達が魔法の詠唱を始めた。



 そして、短めの詠唱を終えると、集まった魔力を一斉に解き放つ。



「「リリース・ウィドアルゴ!」」



 俺は使う機会がないのだが、魔法を使用するとき、外せない手順が、呪文詠唱と『リリース』に続く魔法名の発言だ。


 この過程により、イメージとして形作った魔力をそのまま放出することができるらしい。



 ただ、上級、中級、下級と簡易魔法の4つに分かれている魔法の種類のうち、下級魔法と簡易魔法においては、その過程は必要ない。


 なんでもイメージが複雑ではないからだそうだ。



 しかし、例外もあり、無詠唱で魔法を放つという高等技術をもつ者も稀にいるらしい。



 彼らが叫んだその次の瞬間、俺たちの足元につむじ風のように風が集まり、それは次第に膨張すると3人全員を包みこむに広がっていく。



 そうやって頭をきょろきょろとさせていると、ゆっくりとした浮遊感があった。



「なにこれ、すげー!」



 俺たちは浮いていたのだ。 少しずつ上へ上へ上昇して行く。


 そんな不思議な状況に俺の好奇心は興奮気味に歓喜の声をあげていた。


 改めて魔法のすごさを身をもって実感する。



「やっぱり魔法ってすごいですね、マスター!」



 ラフィーも同様にワクワクとしているが、エルフィアは何やら怖がっているようだった。



「うぅ……、な、なにこれ、浮いてる? え、まだ上がるの!? うそ、高い、高いってユウ!」



 おどおどとしながら下を見て顔を真っ青にするエルフィアを横目に見るところ、もしかすれば高所恐怖症なのかもしれないな。



 といっても5メートルってところだから、そこまで高くないんだが、それでもここまで怖がるということは相当重症らしい。



「俺に言われてもなぁ。 大丈夫だって、落ちたりしないから」



「でも、でも……」



 エルフィアは目をうるうるとさせて俺の腕にしがみついてくる。



 こんな彼女の一面も初めて見るものだ。



 高度がおよそ6メートルに達したところで上昇の動きから前進の動きに切り替わり、川の真上を通って行く。



 ラフィーと俺はこれをアトラクション的な感覚で楽しんでいるのだが、やはりエルフィアは足をがくがくと震わせていた。



 そんなこんなで10秒ほどで向こう岸にたどり着き、下降して行く。



 地上30センチほどに達したところで、エルフの兵士達の魔法によって起こされていた風の乗り物は霧散して消えいった。






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