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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第9章 ~精霊契約と入学試験~
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第83話 暫しの別れ

 



 エルフィアとの精霊契約から1週間が経った────。



「それじゃあ、サイオスさん……」



 俺は大きなリュックを背にかつぎ、レイアース王城の門前で目の前にいるたくさんのエルフ達、そしてサイオスに別れの挨拶を交わしていた。



 とうとう、このレイアースを発つ日が来たのだ。



 学園入学試験の日程を鑑みて、この日出発すると前々から決めていた。



 ラフィーとエルフィアも俺の隣に並んでおり、この地を去ることを惜しんでいる。



 俺達の目の前に並んでいる人混みは、このレイアースの国民のエルフ達だ。



 パーティーの時に話しかけてきた貴族や、そしてサイオスにリリー、姫様、王城の使用人達までレイアース王国総出で送り出してくれている。


 その中には現在のレイアース国王、ジーク・ラビオスの姿もある。


 というのも、1年ほど前に、サイオスは息子のラビオスに王位を継承したのだ。


 それもこれもあの日の俺の提案に乗るためだと言うのだから、これ以上にありがたいことはない。



 彼らの顔を見ていると、この2年間のことが溢れるほどに蘇ってくる。



 サイオスさんやリリー、エルフィア、その他にも沢山の人達に出会ったこと、ここで学び、鍛えたこと。


 ラビオスの王位継承の時も参列させてもらったこと。


 迷子になった精霊を見つけてくれてありがとうと、レイアースのお姫様から感謝されたりもした。



 最近で一番印象に残っていることといえば、先日開催された武闘会だろうか。



 武闘会とは、ちょうど3日前に国王主催で中央闘技場で開催されたものだ。


 レイアース国中の手練のエルフ達が奮って参加する、最も規模の大きな武闘会だ。


 現役を退いてはいるが、当然のようにサイオスも参加し、俺もラビオスとサイオスに勧められ参加した。


 どうやらこの2年で相当成長していたようで、スキルを使用することなく決勝まで行くことが出来た。


 もちろん手練なエルフ達はかなりの強さで、苦戦を強いられることもあった。


 スキルは使いたかったが、使えなかったのは決勝でサイオスと戦う時のためにSPを温存したかったからだ。


 どうしてもサイオスにもう1度勝ちたかったのだ。


 決勝戦は長丁場になり、20分以上もフィールドを駆け回っていただろう。


 しかし、スキルも魔法も全開のサイオスには善戦するも敗れてしまった。


 今は最大で4回スキルを使えるが、最善のスキル全てを使い尽くしても、かなわなかったのだ。


 剣技だけならば匹敵していても、スキルや魔法を使われれば、どうしても『無職』の弱点が重くのしかかってくる。


 悔しかったが、仕方がない。 『無職』の弱点を庇うためにはまだまだ鍛錬が必要だと改めて痛感したのだ。


 そうしてサイオスが優勝という形で武闘会は幕を閉じた。



 辛いことも、楽しいことも、全部ひっくるめて、いい思い出だ。



 ラフィーはミカエルと挨拶を交わし、エルフィアはあれからさらに仲を深めたリリーと抱き合っている。



 この一週間で2人は本当に仲が良くなった。 初めは特殊能力だとか何とか言っていたが、やはり何か通ずるものがあったのかもしれない。


 あのお風呂の日以来、だんだんとエルフィアも明るくなっていたし、俺に対する態度も少しだけ変わった気もする。


 もちろんいい意味でだ。


 リリーとエルフィアが親密になり彼女に同性で友人と呼べる人が出来たことは嬉しい限りだった。



「ああ、いつでも戻ってこい。 その時はまた歓迎する!」



 サイオスはニッコリと笑い、大声でそう言った。


 しかし、その瞳の奥には、どこか寂しいという気持ちも見て取れる。



 その気持ちは俺も同じだ。 もう彼は、彼らは俺の新しい居場所になっているのだから。



 当然俺もここを去っていくのは口惜しく思っている。


 もっとここでみんなと暮らしていたい。 そんな気持ちが心の中に残っている。



 それでも、俺は行かなければならない。


 前に進まなければ、見えてこないものがある、届かないものがある。 ミルザの願いを、俺の願いを叶える為にも、進まなければならない。



「必ず戻って来ますよ! 次戻って来たときには、絶対にサイオスさんに勝ってみせます!」



 俺は今サイオスに向ける決意を言葉にする。



「ははははっ! 逞しいことだ。 よーしわかった! 次戻って来たらリベンジさせてやる。 さらに熱い戦いができることを期待している。 まぁ私が勝つがな!」



 サイオスは大笑いして、大人げもなく勝利宣言を掲げるが、俺も負けじと「負けませんよ?」と言ってみせた。



 お互いに微笑し合うと、サイオスは使用人を手招きして「あれを出してくれ」と耳打ちする。



「ユウ、これを持っていけ」



 サイオスは使用人の1人から、小さな麻袋と手紙のようなものを受け取ると、そう言って俺に手渡してくる。



 その麻袋の中からは、ジャラジャラと硬貨のぶつかり合う音が聞こえてきた。



 音からして、金貨と銀貨が数枚ずつと言ったところだろうか。



「こんなに貰えませんって!」



 俺は中身の金額を察して、慌ててサイオスに返そうとする。 しかし、彼はそれを拒み、俺の手の中にぎゅっと握りこませた。



「遠慮しないでくれ。 そんなに多くはないが、これからは私が手助けしてやれることがこれくらいしかないのだ。 ここは、素直に貰ってくれると、私としてもありがたい」



「……本当にありがとうございます」



 俺はお金を受け取り、ぎゅっと強く握りしめ、深く深くお辞儀をした。



 確かにこういう時、相手が好意で自分にくれるものを、遠慮するのは、相手に対してむしろ失礼な行為だ。



 同じ立場ならば、受け取ってくれなければ、何となくやるせない気持ちになってしまう。



 だからこそ、こんな時は素直に受け取り『ありがとう』と素直に伝えるのだ。



 それが相手にとっても自分にとっても、1番嬉しいことなのだから。



 受け取った手紙とお金をリュックの小ポケットに入れ込むと、込み上げそうになる寂しさを笑顔を作って押し殺し、あの日のように右手を差し出す。



「それじゃあ今度こそ……行ってきます!」



 俺は腹いっぱいに息を吸い込んで、力強く言い放ってみせた。



「ああ! 楽しんでこい!」



 サイオスは歯を見せながら笑い、俺の右手をガツンと握り返してくる。



 久々に握りしめた彼の手は以前よりも小さく感じられた。



 数秒間固く握手を交わすと、そっと手を離し、1歩後ろにさがる。



「さぁ、エルフィアもラフィーも、そろそろ行くぞ……」



 別れを惜しむ彼女らにそう呼びかけると、2人はミカエルと、リリーと最後の挨拶を交わし、俺の隣へ戻ってくる。



「それじゃあリリー、行ってくるわ……。 絶対また戻ってくるから」



「うん、エルフィアちゃん……。 戻ったら向こうでの話聞かせてよね」



「それではミカエル。 お元気で」



「ええ、ラファエルも。 もし他の天使に会ったらよろしく伝えておいてください」



 俺達は最後に3人でゆっくりと頭を下げると、門の外側に振り返る。



「それじゃあ国境付近まで案内致します」



 門外には入国時に矢を向けてきたエルフの兵士達が待機しており、丁寧に案内すると言ってくれたのは、最も俺を目の敵にしていたエルフの兵士だった。



 どうやら彼も俺の事を少しは認めてくれているようだった。



 エルフの兵士達が歩き始めたので、俺達もその後について行く。



 見慣れた景色を眺めながら、感慨深く吐息を漏らしていると、背後から多くの声が聞こえてきた。



「行ってらっしゃぁーい!」



「絶対に戻ってこいよーー!」



「ユウさぁーーん、エルフィアちゃぁーーん、ラファエルさまぁーー、お元気でーー!」



「いつでも待ってるぞー!」



「早く帰ってきてねー!」



「ラファエルー、良き天使になるのですよー!」



 その他にも、たくさんの背中を押す励ましの言葉が投げかけられた。



 俺達は振り返り、手を振って彼らに応える。



 俺が1度故郷を失った時とは雲泥の差だ。



 こうして、ついに大切な2年間を過ごした故郷レイアースを旅立ち、ロッドハンス王国王都、王立ミシェド学園を目指す。



 俺は新たな故郷であるこの地に、さらに大きな男になって必ず帰ってくると決意した。








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