第81話 精霊契約②
契約の方法はそこまで複雑という訳では無い。
要は対象の精霊に契約元の宿主の魔力を適応させるということなのだ。
簡単に言えば、精霊に魔力を全身に巡るように流し込んで、巡りきったら次は契約者に魔力を戻す。
これを『仮契約』という。
そしてこの作業を数回繰り返して、精霊自身がその魔力を自分に適応したと自覚すれば『契約』が完了する。
最後に確認のために、その魔力で魔法を使うことが出来れば完全に終了ということになる。
「それじゃあとりあえず言った通りにやってみてくれ」
サイオスはざっくりと説明をし終えると、俺とエルフィアを交互に見て、2人向かい合うように促した。
俺達も言われるままにその通りにして向かい合う。
なんというか、凄く気恥ずかしい。
そんなことを内心で考えてしまうのも、エルフィアがとてつもなく恥ずかしそうにしているためだ。
確か、あんまり見つめられるのは慣れないって言ってたけど、この場合、傍から見れば完全にお見合い状態になってしまっている。
だからこそ、俺としても何だか照れくさい。
しかも風呂で汚れも落とされていて、髪もサラリと綺麗になっている。
こういう経験はしたことが無いが、今目の前にいるエルフィアがとてつもなく可愛く見えて仕方が無いのだ。
しかし他にも気になっていたことがある。
それは、俺と契約するということが前提で話が進められているという状況だ。
確かに『ずっと一緒にいて欲しい』なんて言われた手前こうなることはある程度予想はしていた。
その時はあんまり意識していなかったが、今思い出してみればそれって何となくプロポーズみたいだと思い始めていた。
もちろん彼女にそんな気がないことは十二分に理解している。
それでも1度そんなことが脳裏を過ぎれば、どうしても彼女のことを意識してしまう。
本当に自分でいいのか、そんなことをどうしても考えてしまうのだ。
「その、本当に俺が契約者でいい、のか?」
俺はそんな照れくささを紛らわしたいという気持ちもあったが、それ以上に本当に自分が彼女の契約者ということで決定にしていいのか、そんな不安から小さく訊いた。
エルフィアも相当テンパっていたようで視線や仕草がおぼつかないところがあったが、俺が訊いたのに対して、こくりと頷いて小さく呟いた。
「……いい」
「そ、そうか……」
その一言からまたしても2人の間に沈黙が落ちた。
この静かさがさらに気まずさを増幅するという中、サイオスはゴホンっと咳払いをしてそれを破った。
音の聞こえた方を見やると、サイオスも気まずそうにしている。
「その、なんだ……私はそういうのに何か言うつもりもないし、むしろ私が原因であると言うことも承知しているつもりだ。 2人はきっとこの1ヶ月でとても親密になっているということも重々に理解している。 ただな……ひとまずは契約の方に集中してくれないか?」
サイオスの気まずそうな声を聞いてようやくこの部屋には3人いるということを思い出した。
すると急にサイオスに申し訳ない気持ちが混み上がってきて、慌てて謝る。
「「すいません……」」
エルフィアも同じように思ったのか、俺と同じタイミングで申し訳なさそうに謝っていた。
そして再び目が合って、苦笑いが漏れる。
サイオスは「ははは……まあ、とりあえず始めてくれ」と溜息混じりに言っていた。
その言葉俺は気を取り直して、ようやく契約の第一段階を開始した。
まずは対象の精霊に魔力を流し込む、と聞いているのだが。
「それで、どうやって魔力を流し込むんですか?」
やりながら教えると言っていたので、本当にざっくりとした流れだけを説明されていたので、どうやって魔力を流し込むかなんて分からない。
サイオスは俺の質問に少し考える素振りを見せると「まあいいか」と呟いて。
「2人は仲がいいみたいだから、あの方法でいいだろう」
「「あの方法?」」
「ああ。 1番手っ取り早い方法なんだがな。 まずは2人とも手を出してくれ。 一応利き手だ」
俺達は言われた通りにお互い手を差し出した。
俺は右手、エルフィアは左手だ。
「それじゃ、お互いに手を握ってくれ。 なるべく手と手の間に隙間がなくなるように」
「……」
俺は言葉を失った。
手を繋ぐだって? あっちの世界じゃ女の子と手を繋いだことなんてないし、そもそもそんなに親密になった女子なんていない。
地下室では手を握ったり、抱擁なんかもした気がするが、あの時はただ必死になって勢い任せだったのであまり覚えていない。
しかし、今は意識している分、緊張が尋常ではない。
心の準備もできていない。
どうやらエルフィアも今回ばかりは緊張しているように見える。
異性と手を繋ぐ、それが常人にとってどれだけ高難易度な行為かなんて言うまでもないだろう。
それを平然とやってのけるのならば、それはもはや特殊能力でもあるとしか言えない。
だが、だからといってそんな言い訳を並べてしぶっている場合でないことも分かっている。
これが正式な契約の方法ならば致し方ないというものだが、果たしてエルフィアの方はそれでいいのか。
「……エルフィアは、いいのか?」
様々な不安を抱えて、小さく訊いた。
ああまで言ってくれたのだから、今更嫌がられることはないだろうとは思うが、念には念を入れたいというのは心配性の習性というものだ。
しかし、そんな不安も杞憂に終わって、エルフィアは顔を赤らめながら、こくりと小さく頷いた。
そんな仕草にこっちまで顔が熱くなってくる。
「それじゃ、いくぞ……」
「はい……」
そしてゆっくりと互いに手を近づけて、指先が触れ合うと、ピクっとなって一瞬手が離れるが、何とか手のひらを重ねた。




