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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第9章 ~精霊契約と入学試験~
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第80話 精霊契約①

 




「なるほどな……」



 サイオスは一通り俺の説明を聞き終えると、腕を組みながら息を吐いた。



 場所はサイオスの書斎だ。


 ここにもなかなか入り慣れたものだ。



 エルフィアが一緒だったので予想通り、報告は滞りなく終了することができた。



 俺自身、今の彼女の面持ちを窺ってみて、改めて自分のしたことは間違いじゃなかったと思えた。



 今のエルフィアは完全にではないにしろ以前よりも随分と生き生きとして見えたのだ。



 何かが吹っ切れたようなスッキリとした表情。



 そんな彼女が今ここにいるという状況が発生しているだけで、サイオスは彼女の顔色などを把握出来たので、今回の説明はスムーズに遂げることができたということだ。



 サイオスは俺たち2人の顔を交互に見ると、うっすらと笑み作った。


 それはもしかしたら、俺達が、もっともエルフィアがここに、自分の部屋に戻ってきてくれたことに安堵していた微笑だったのかもしれない。



 今となっては、サイオスは俺の師匠であり、何となく父親のような雰囲気を纏っているように感じていた。



「2人の元気そうな顔が見れて、今私はとてもほっとしているよ。 2人ともよく、帰ってきてくれたな」



 肩に重くのしかかっていた重荷から解き放たれたかのように、彼の体から緊張という色が抜けていくようにも見えた。



 俺はそんなサイオスに強く返事をする。



 今自分はここにいるという改めて知らせるために、そしてエルフィアという忘れ形見に1歩を歩み出させたという報告をするつもりで。



「はい!」



 しかし、エルフィアは俺の後ろでまだサイオスを警戒していた。


 それもそのはずだろうというのはサイオスには申し訳ないのだが、ただでさえ人見知りの域を超えた彼女がこんなに厳つい男と普通に接することなど出来るはずがないだろう。


 リリーは……そうだな、なんか不思議な力でエルフィアと仲良くなったということにしておこう。



「サイオスさんも俺みたいにエルフィアのことを何度も助けようとしてくれた人なんだ。 そして、君を救って欲しいと初めに頼んできたのは彼だ。 顔は少し厳ついけど、とてもいい人なんだ」



 俺はエルフィアに向き直って、説得する。 サイオスは信頼していい人なのだと。



「ユウが、そう言うなら……」



 その甲斐あって、彼女は漸く俯かせていた顔を持ち上げて、サイオスに挨拶した。



「えっと……ユウがさっき言っていた通り、私がエルフィア、です。 覚えていなかっけど、どうやらいろいろとしてもらっていたみたいで、その……ありがとうございました」



 改めてサイオスの顔を見て、少し怯えながらも、彼女はなんとか最後まで言い切った。



 それを受けたサイオスは、少ししょんぼりしたが、直ぐに開き直って、ニッコリと笑ってみせた。



「ああ!」



 彼にとってもこの対面は待ちに望んだものだったのだ。 だからこそ感慨深いところがあるに違いない。



 これでようやくハーミットに面目がたつというものだ。



「ほら、大丈夫だったろ?」



「……ええ、そうみたい」



 彼女はどこかほっとしている面持ちでそう返した。



 恐らく、これでサイオスへの警戒心も少しくらいは解けたはずだ。



「といっても、ユウだって初めて会った時は同じくらい警戒していただろう?」



「ま、まあ、そうですね……」



 俺は決まりの悪い返事をする。



 確かに、俺もここに来たばかりの時は、誰にでも警戒心を欠かさなかった。


 今でこそこのようにサイオスともリリーとも砕けた仲になれたが、俺もエルフィアと同じだった。


 だからあまり偉そうなことは言えないのだ。



「ところで。 2人はもう『契約』は済ませているのか?」



 焦る俺を見て、おどけたサイオスは少し間を空けると、俺の後ろにいるエルフィアを見てそう言ってきた。



 俺は、なんの事かと、首を傾げる。



「『契約』ってなんですか?」



 聞き覚えがあるようなないような、そんな言葉だ。



「なんだ、まだなのか? ならば急いだ方がいいぞ」



「え、え? 一体どういうことなんですか?」



「ユウも知っているだろう? 精霊とは誰かと契約して魔力を供給してもらわなければ生きていくことが困難なのだ。 そこの彼女も半分とはいえ精霊だ。 魔力を自ら精製することはほとんど出来ない」



「───!」



 俺はサイオスの言葉を聞いてやっと気づいた。 いや、気づいたと言うよりは思い出したという方が正しいか。



 エルフィアの体は半分は精霊。 精霊は自ら魔力を発生させることが出来ないために、外部からの供給を必要とする。


 その供給がなければ、魔力は直ぐに枯渇して、魔力回路に人間で言う栄養を運搬することが出来ない。


 しかし、半分は人間であるエルフィアならば普通の食事でも少しくらいは栄養の補給が出来るのかもしれないが、この2年間彼女は何も口にしていない。


 今すぐ食事を取ったとしても、栄養として全身を巡るまでは時間がかかる。



「なぁ、なんか力が抜けていくとか、そんな感じはないか!?」



 俺は焦ってエルフィアに訊ねる。 もし俺の予想したとおりなら、今すぐにでも彼女の魔力は枯渇するかもしれない。



 しかし───。



「大丈夫よ? 別になんともないわ」



 俺の焦燥とは裏腹にエルフィアは特に何も無いように平然とした様子で応えた。



 見た感じ、特に苦しいのを隠している様子もない。



 俺がその事に呆然としていると後ろから声が投げかけられる。



「まあ落ち着けユウ。 彼女は全然平気だよ」



「……どうしてですか?」



「彼女の魔力回路にはまだ十分な量の魔力が流れている。 あの魔脈からは大量の魔力が漏れ出ているからな。 だからあと3日は飲まず食わずでも大丈夫だ」



 それを聞くと、俺の体から一斉に力が抜けていくのを感じた。



 ほっとしたせいか、大きく溜息を吐く。



「そ、そうなんですか……。 よかったぁ」



「まあ、まだ『契約』がまだならそこまで安心することも出来ないが」



「いやどっちなんですか!?」



「つまり『契約』するなら早めの方がいいということだ。 今すぐにでもした方がいい」



「そ、そうですか……。 じゃあ契約ってどうやってやるんですか?」



「それも聞いていないのか?」



 サイオスのそんな反応を見てエルフィアを見ると「私もやり方が分からないの」と言った。



「全く、リリーは何をしていたんだ……」



 サイオスは呆れたように頭を掻くが、小さく吐息を零すと。



「仕方ない……。 ならばやりながら教えるとしよう」



「お願いします……」



 リリー大丈夫かなぁと思いながらも、俺は肩身狭そうに言った。



 そして、俺とエルフィアの『精霊契約』が始まったのだ。


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