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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第9章 ~精霊契約と入学試験~
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第78話 お風呂

 




 ここレイアースは妖精種エルフ族の最大国家だ。


 エルフの6割がこの国に籍を置き、広大な土地を生かした遊牧や農業が盛んだ。


 これは余談になるのだが、この国は元々ただの平民によって建国された国なのだ。


 彼の大英雄、ジーク・フリートが初代国王として、ここレイアースを建国し、多大な人望と実績から民衆の頭として国を導いたと言われている。


 元々が一般のエルフだったために『王』という職業を得る血筋はなく、代々1人民としてのリーダー、ジークの家が王という立場を担い行政を行う。


 ジーク・フリートによって行われた様々な改革の中でも、最も国を発展させたと言われるものが『魔術革命』だ。


 エルフ族とは魔法適正、そして膨大な魔力量を誇る種族である。


 魔法の性能だけならば、群を抜いて全種族トップ。


 さらに同じ妖精種の精霊族との契約を交わすことで、さらに強力な魔法を使用することを可能にしている。



 魔法とは、ほぼ万能な力だ。



 それを世界一有効に扱えるエルフ達は、その力を使い国力を高める。



 およそ800年前の『聖戦』では、当時は腕力においては最強の種族として名を馳せていた巨人族を退け、種族権を存続させた。



 もちろん戦いのためだけに魔法が使われて来たのではない。



 エルフ族は比較的心の穏やかな種族であり、基本的には争いを好まない。



 だからこそ彼らは、さまざまな魔法技術をあみ出し、魔法を新たに発達させることによってよって国を発展させて来た。




「ふぅ。 やっぱり何度入ってもでかい風呂はいいなぁ」



 その産物こそがこのレイアースの誇る大浴場だ。



 俺は今、暖かな湯気の中で大きく息を吐いていた。 つまり風呂に入っているのだ。






 あの後、リリーに案内されるがまま、といっても俺としては習慣化されていたのだが、王城の大浴場に向かった。



「ここですよ。 着替えはすでに用意しておりますので」



 リリーが女湯の前で慣れた動きでぺこりと頭を下げて浴場に案内する。



「え、ええ。 えっと、あ、ありがとう……」



 当のエルフィアは戸惑いながらも、どこか気恥ずかしそうで、それでいて嬉しそうにリリーに感謝を述べて頭を下げる。



 2人がお互いにお辞儀をする光景は見てて少しおかしくてつい頬が綻んだ。



「それではユウさんも、ごゆっくり」



「ああ」



 そう返すとリリーがこちらに近寄って来て、密かに耳打ちしてきた。



「あ、絶対にのぞいちゃダメですよ?」



「いやいや、しないから!」



 俺が全力で否定すると、リリーはいたずらっ子のような笑みを浮かべながらエルフィアとともに女湯へ入っていった。



 2人が行ったのを確認すると「それじゃあ俺も入るか」と呟いて、男湯へ入って行った。



 いつものように脱衣所で服を脱ぎ、掛け湯をしてから入浴する。



 足からゆっくりとつけていき、全身を浸からせる。



 少し熱めのお湯が体の疲れをみるみる抜き取っていくようだ。



 存外に疲労が蓄積されていたようで、湯船に浸かると一気に全身の力が抜けていく感覚を覚えた。



 今思えば、とてもとても長い1日だったように感じる。



 しかし、俺にとってはとてもいい1日だった。



 この疲れと充実感に見合った成果は果たして得られたのだろうか。



 そんなことを考えながら、湯気でぼやける天井を見上げた。



 その時、脱衣所の方から物音が聞こえた。



 んー。 この時間帯は誰も入らないはずなんだけどなぁ。 もしかしてサイオスさんかな?



 そう考えながら扉の方に注意を向ける。



 するとゆっくりと扉が開けられる音が聞こえてきて、充満する湯けむりの向こうに何やら人影が見えてくる。



 しかしその人影は予想していたよりもはるかに小柄で、可愛らしい鼻歌を奏でていた。



 まさか、と思い目を凝らすと、その人影は鮮明になってきて。



「あ、マスター!」



 蒸気でうっすらと湿った艶やかな青髪を揺らしてそう叫んだのは、紛れもなく全裸になった幼げな俺の相棒だった。



「ラフィー!?」



 驚いたせいか、つい上擦った声で彼女の名前を呼ぶ。



 別にラフィーが全裸だったからと驚いたわけではない。



 ただ、てっきりサイオスとかだと思っていたのが、予想とかけ離れた人物が入ってきたためなのだ。



 俺は幼女の全裸で興奮するような特殊な趣味は持ち合わせていないし、そもそも毎日一緒に寝ているのだから、特に何か感じるわけでもない。



 ただ、全裸の少女を見るというのは、例え何もなくても、後ろめたい気分になるのは男の性だろう。



 しかし、動揺したのも束の間で、すぐに冷静に戻る。



「それで、なんで男湯に入ってきたんだ?」



 すると、ラフィーは湯船に近づいてきて、ちゃぷんと足を湯に浸した。



「マスターは今日はお疲れだと聞いたので、私がお背中をお流ししようかと思いまして」



 無邪気な笑顔を浮かべて、愛らしくそう言ってきた。



「俺が疲れてるなんて誰から聞いたんだ?」



 そう訊ねると、迷うそぶりも見せずに答えた。



「ミカエルです。 ミカエルが『今日あなたの宿主さん、すごくお疲れらしいですわよ』って言ってきたんですよ」



 俺はその答えを聞いて、今ラフィーが目の前にいる理由を理解する。



「なるほどね。 つまり、ミカエルに俺が今風呂に入ってるってことを聞いて、ここにきたってわけか」



「はい! それで『疲れた殿方を癒すには背中を流して差し上げるのが一番ですのよ』とアドハイスをくれたんです」



「はは、ミカエルらしいな」



 少し前にミカエルとじっくりと話してみて、彼女の性格性が少し分かっていたので、その会話の光景が目に浮かぶようだった。



「それよりさ……嫌じゃないのか?」



 俺は目を逸らしながら訊ねる。


 やはり冷静さを保てるほど俺は大人ではなかったのだ。



 ラフィーは「なんのことですか?」と何を気にすることも無く、首を傾げる。



「いや、俺はいいんだけどさ。 そのラフィーは男なんかと風呂に入ってて嫌じゃないのかなって」



「ああ、そのことですか」



 何かを悟ったようにそう呟いて、小さく笑みを作って。



「あたしとマスターは一心同体。 どこでも一緒です。 なので信頼関係は何よりも大事なんですよ?」



「分かってる、俺が考えすぎなんだよな。 だけど、俺はラフィーを心から信頼してる。 だからこそお前を大切にしたいんだ」



 するとラフィーは頬を紅潮させてもじもじとしながら。



「そんな、大切だなんて……。 あたしもマスターのこと、大好き、ですよ」



 しかし何か言っているのは分かったのだが、小さすぎてよく聞き取れなかった。



「ん、なんて言ったんだ?」



「い、いえ、なんでもありません……ふふ。 あ、でもあたしは全然嫌じゃないですよ?」



「そ、そうか?」



「はい! むしろあたしがマスターと一緒に入りたいからここに来たんです。 それに裸の付き合いというのはとてもいいことらしいですよ?」



 彼女はニッコリと笑ってそう言う。



 あの見た目で『裸の付き合い』とはなかなかギャップもので苦笑いしてしまった。



 しかし、あれだけ素直に言われてしまうと、断ろうにも断れない。 まあ最初から断るなんてことはするつもりはなかったが。



「というわけなので、マスターのお背中流します!」



「ああ、じゃあお言葉に甘えるよ。 あ、それと俺もラフィーの背中後で流すよ」



「え、本当ですか!? ありがとうございます! マスター!」



 こうして、お互いに背中を流しあって、ゆっくり風呂に浸かった。



 風呂からあがると、ラフィーの髪を拭いてやる。



「それにしても、ここのお風呂ってすごく大きくて凄いです!」



「ああ。 なんでも大規模な火炎系の魔法を設置して、お湯をつくってるらしい」



「この髪を乾かしてる道具もですけど、やっぱりエルフの発想力と魔法は凄いです」



 俺が手に持ち、ラフィーの髪を乾かすのに使っていた明らかにドライヤーな道具を見ながらそう呟く。



「本当にな。 ほら、乾いたぞ」



「ありがとうございます!」



 そして、自分の分の髪も乾かして、風呂場を出た。






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