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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第9章 ~精霊契約と入学試験~
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第77話 初対面

 


 


  地上へ出てきたはいいのだが、さて、まずはどうするべきだろうか。


 俺はこの後の選択肢を思索していた。



 とりあえずサイオスに報告すべきか。


 それともリリーに計らってもらって風呂にでも入らせるべきか。


 こういってはなんだが、エルフィアは二年間水浴び一つしていない。


 特に臭うわけでもないが、明るい分、地下で見た時よりは汚れが目立っている。



 俺がそうやって決めあぐねていると、聞き慣れた声が耳に入ってきた。



「おーい。 そんなとこに突っ立ってないで、こっちにこい」



 俺はすぐにそれが誰のものか分かったが、エルフィアは未だに上の空といった感じだったので、肩をとんとんと叩いて引き連れる。



「サイオスさん」



 俺は笑顔で声の主の名前を呼ぶ。



「ああ、ユウよ。 そこのお嬢さんも」



 エルフィアもようやく彼の存在に気づいたようで、ぱっと目を開いて後ずさり、俺の背中に隠れるように体勢をとった。



「えっと、ユウ、この人は……?」



「もしかして覚えてないの? はは、残念でしたね、サイオスさん」



 そう言ってサイオスの方に視線を移すと、ややしょんぼりと肩をすくめていた。



「この人は、ジーク・サイオスさん。 一応何度か君も会っているはずだけど……」



「……見たことがあるような気はするんだけど。 ごめんなさい、思い出せないわ」



 それを聞いたサイオスはさらにがくりと肩を落としたが、すぐに立ち直って、顎を撫でながら含んだように言ってきた。



「まあ、仕方がないか。 私なんかよりもユウの方が印象が強いみたいだからなぁ」



「ん? それってどういう────」



「まあそんなことより、とりあえず二人とも風呂に入ってこい」



 サイオスの含んだような笑みに疑問を覚えたが、自分の体の方もよく見ればかなり汚れていた。



「それがいいみたいですね」



 そうやって苦笑いしていると、大柄のサイオスの背後から小柄な人影がひょいと飛び出した。



「ユウさん、お嬢様、お風呂の用意が整っております」



 薄い茶髪の髪を揺らしながら、着慣れたメイド服に身を包む彼女は俺たち2人を交互に見て言ってきた。



「ああ、リリー。 それじゃあ案内してくれ」



「それではこちらへ」



 リリーはそう言って、風呂場の方へ案内しようとするのだが、俺の背中で不安げに震えるエルフィアはなかなか動き出してはくれない。



 それもそのはずだ。 サイオスはともかく、さらにリリーも加わって、彼女の目の前には見ず知らずの初対面が近くにいるのだから。



「大丈夫。 この人たちはエルフィアの敵じゃない」



「分かってる。 分かってるんだけど……」



 彼女は俺の背中をきゅっと掴む。



 彼女の認識下では外の世界の人は殆どが敵なわけで、やはりこの2人もその例外には入らないのだろう。



 サイオスは相変わらず残念そうに眉をひそめている。



 しかし一方でリリーは、迷いない足取りでエルフィアに歩み寄っていた。



「私はリリー。 お嬢様の敵では決してありませんよ。 それより、だいぶ汚れておいでのようですので、早めに落とした方がよろしいかと」



 優しげに微笑みかけるリリーに俺も便乗する。



「リリーの言う通りだ。 俺も君もかなり汚れてるからな、早めに洗い流そう?」



 なんの気もなしに呟いた一言だったのだが、リリーは「いけませんよ」と指を立てた。



「男性が女性に、汚れてる、なんて言うものではありませんよ。 気をつけてください」



 どこか、子供を躾ける母親のような仕草に謎の包容力と説得力を感じ「は、はい、分かりました」とついつい敬語になってしまった。



 そう言うとの同時に、背中からすごい勢いでエルフィアが距離をとった。



 それに驚いて振り向くと、彼女のは顔を真っ赤にして自分を見るように下を向いていた。



 今にも泣き出しそうに目をうるうるとさせ恥ずかしそうに赤面している。



 もじもじとしながら落ち着かない様子なのは、きっと自分が相当汚れているということに気がついていなかったのだろうと予想できた。



 それを察したのかリリーはエルフィアに呼びかける。



「お風呂に入れば気にすることもありませんよ───」



 その瞬間、全速力でかけて行くエルフィアが俺の横を通り過ぎて、気付かぬ間にリリーのもとへ到着していた。



 え、いつの間に? と突っ込んでしまいそうなほどだった。



「───そのお風呂というところに行けば、この汚れを落とせるのね?」



 エルフィアは焦って急かすようにリリーの手を握りしめながら、血走った目で訊く。



「はい、もちろんです───」



「連れて行ってください、お願いします!」



 俺はまたしても初めて見るエルフィアのテンションにやや気後れする。



 なぜいきなりエルフィアが元気になったのかは、俺にはよく理解できなかったが、どうやらリリーの仕向けだということはなんとなく分かった。



「なんか、リリーってすごいですね」



 俺は驚嘆の息を混ぜながらサイオスに呟いた。



「ああ、あの子はああいうの得意だからな。 まあでも、すごいのはユウも一緒さ」


「でも、俺よりリリーが彼女のもとに出向いていれば、もっと早く連れ出せたんじゃないかって思いますよ」



「いや、それは違うだろう。 きっとリリーでも彼女を連れ出してくることはできなかった。 ユウだったからこそ今こうできているんだ」



「そうですかね」



「私はユウだから救えると思った。 自信をもてばいい、彼女救ったのはまぎれもなく君なんだ。 他のことは深く考えんでもいいさ」



「……そうですね」



「まあ、またじっくりと今日の話を聞くとしよう。 ほら、ユウも疲れとってこい」



「はい!」



 サイオスは笑いかけて俺の背中を押し、俺は明るく返事をして見せた。



 そうだ。 深く考えなくていいんだ。


 エルフィアを救ったのは俺なんだ。


 こんな自分でも誰かの役に立てるということがわかったのだから、自信に繋げていけばいい。



 俺は先走っていた2人に「今いくよ」と言ってあとについていった。






第19話を大幅に改稿したのでここまで読んでくださった方は1度読み直してみてください。

気軽に感想で聞いて頂いても構いません。

本当にお手数をお掛けし、申し訳ありません。

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