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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第9章 ~精霊契約と入学試験~
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第75話 彼女の選択

第9章突入!

今章もどうかお楽しみ頂ければ嬉しいです。

 




 お互いに、ようやく自己紹介を済ませることに成功したところで、俺はこれからの事を訊ねた。



「君はこれからどうするんだ?」



「どうするって?」



「君はようやく呪いのスキルを克服できた。 もうこんなところに閉じこもっている必要なんてないだろ」



「たしかに、そうなんだけど……」



 エルフィアはそう言いながら俯いて、もごもごと口ごもっている。



 一体何を迷うことがあるのだろうかと、俺は首を傾げエルフィアに訊いた。



「君は、エルフィアはもう自由なんだ。 無意識に誰かを傷つけてしまうことだって、ないとは言い切れないけど、それは君に限ったことじゃない。 不安だってこともわかる。 けど、やりたいことだってたくさんあるんじゃないのか?」



「………」



 エルフィアはゆっくりと俯かせていた顔を持ち上げて、なにかを言いたそうに唇を揺らしている。



「……どうした?」



 ちらちらと視線を右往左往させ、時折俺の目を覗き込んでくる彼女は何度かその仕草を繰り返すと、うっそりとなにかを呟いた。



「…………だったら………たいの」



 頬から耳まで真っ赤にしながら漏れる声は小さすぎて、彼女が何が言いたいのかがまるでわからないが、何かを伝えようとしてるということはわかった。



「すまん、もう一回言ってくれないか? よく聞こえなかったんだ」



 気になってしょうがないとばかりに俺は必死に耳を傾ける。



 一体彼女は何を言いたいのか、何をしたいのか、何を望んでいるのか、それはこれから彼女が生きていく上でとても重要なことになる。



 人とは願いをもってこそ生きていると言える、ミルザはそう言っていた。 ならば彼女の願いとは。



 そしてエルフィアはどこか恥じらうように目を伏せて息を整えると、噤んでいた口を開き、小さくも聞こえるように言った。



「だから……その、えっと……これからも、一緒に……いたいの……」



 上気した頬は林檎のように赤く、うるうるとする瞳は、ひたすらに揺れている。



 そんな態度に加えたその言葉に、俺の心の奥がドキンと高鳴ったような感覚が走った。



 生まれて初めて、誰かに一緒にいて欲しいと言われた。



 こんな喜悦の感情、俺なんかが抱いてもいいものだろうか、そう思うほどに嬉しくてたまらなかった。



 しかし、果たして彼女の申し出を軽はずみに了承していいものかという思いもあった。



 しばしの沈黙がしんしんと二人の間を通っていく。



 エルフィアは返事がないことに不安を抱き始めて、ふっ、と吐息を漏らすと残念そうに呟いた。



「……やっぱり、だめ、よね……」



 無理に笑みをつくり、声音は震えている。



 俺はそれに気づいてはっと我に返った。



 何してる、何を黙り込んでいる。 彼女を不安にさせてどうするんだ。 そう自分に叱りこむ。



「だめなわけない。 けど……」



 あの懸念をどうしても見過ごせず、俺はそこで言葉を詰まらせる。



 彼女が言ってくれたことは心底嬉しかった。 だが、俺と一緒にいるというのは、これから俺が成していくことに彼女を巻き込んでしまうということに直結するのだ。



 当然、危険なことや恐ろしいこともこなしていかなければならないだろう。



 そんな道に、ようやく自由になれた彼女を再び束縛するというのはどうしても気が引ける。



 選択肢を手にした彼女には、考えれば他にも沢山素敵な道があるはずだ。



 今までの苦しみの分を全てちゃらにするほどの幸福を彼女は手に入れなければならない。



 ならばやはり俺の行くる道にエルフィアを連れていくというのには抵抗が残ってしまう。



「本当にそれでいいのか……?」



 そんなことを考えていると、ついつい重い口調になってしまった。



 エルフィアの大事な分岐点なんだ。 これが、今後の彼女が幸せになれるかを左右してくる。



 ただ、俺は自信がないんだ。 彼女の感じた苦痛を凌駕するほどの幸福を与えてやれることは自分にはできないと。



 いくらレベルを上げ、己を鍛えようと、この卑屈さはなかなか治ってくれない。



 重苦しい空気がこの寒い空間を漂った。



 俺はひたすら自分の至らなさに俯いている。



「いいに決まってるわ。 これが私の選んだ道なんだもの」



 その時、隣から声が聞こえてくた。 強い意志のこもった声だ。 初めて聞く声色に一瞬誰のものかと迷った。


 しかし、それは正真正銘エルフィアの声で、この重たく冷たい空気に物怖じすることもなく、まっすぐな瞳をこちらに向けていた。



 顔を上げ、彼女の瞳を覗けば、さらにその強い意志が読み取れる。



「だが、君にとってもっといい道があるはずだ。 俺なんかと一緒にいたらきっと、君を不幸にしてしまう!」



 またしても卑屈になって言葉に力が入ってしまい、後悔していた時、優しげな声が響いた。



「自分なんか、なんて言わないで……」



 一瞬、ミルザに声をかけられたのではないかと錯覚する程だった。


 だが違う。 ここにいるのは、今声をかけてくれたのはエルフィアだ。



「ユウは私を救ってくれたわ。 暗くて寒くて、寂しい、そんな檻から私を連れ出してくれた。 そんなあなたについていきたいって思うのはおかしいことだと思う?」



「……」



 俺は何も言い返せなかった。


 そんな風に言われて、おかしいと思う、なんて言えるわけないし、もといそう思っているわけもない。 しかし、うんそうだね、なんてのも自惚れてるとしか思えない。



「もう決めたの。 私を救ってくれたユウのことを、私も手助けするって。 世間知らずだし、非力だからそんなに役に立てないかもしれないけど……これが私の生きる理由、生きる願いなの。 ───だからお願い、です……私も連れていってください」



 彼女は胸に手を当てながら強く言ってみせた。 彼女の覚悟が身に染みるようにつたわった。



 頬が熱くなるのを感じる。



 しかし……



「エルフィアは……俺がこれからやってこうってことをわかってるのか?」



 そう言うと、彼女はすまし顔で「分からないわよ?」と微笑を浮かべながら言った。



「でも……世界を変えるんでしょう?」



「甘くないぞ。 きっと辛いことも怖いこともたくさんある。 それを分かった上で、まだ気持ちは変わらないのか?」



 真剣に訴えかけるが、エルフィアの意志がなおも揺らがないことは、彼女の態度を見ればわかる。



「変わらないわ。 それに辛いことがあるなら、その時こそ、私がユウを支えたい。 だから、もう何を言っても無駄よ?」



 おちゃらけて言ってみせた彼女に俺は苦笑を零した。



「はは、そうみたいだな」



 俺はついに折れて、やれやれ降参だ、と言うように息を吐くと。



「わかった……。 君の願いを叶えるって決めたしな」



 裏切らない保証はどこにもない。 だが、彼女のことを疑うということはきっともう出来ないんだろう、そう思いながら吐いた一言だった。



 我ながら甘くなったなと自嘲気味に頬を綻ばせるが、まるで嫌な気はしない。



 きっとこれもミルザの影響なんだろうな。



 その一言を聞くと、エルフィアは安心したように胸を撫で下ろし、嬉しそうに微笑んでいた。



 しかしその次の瞬間、彼女の顔がかあっと真っ赤に染まって、その顔を両手で隠すように覆った。



 俺は、どうしてだろうかと首を傾げながらも、流石に体が冷えていたので「それじゃ、そろそろここから出るか」と呟いて立ち上がって、エルフィアに手を差し出した。



 それに気づいた彼女は、おどおどとしながらもその手を取った。



 頬は未だにほんのりと紅潮しており、目はうろうろとしている。



 そんな彼女を引き連れて、俺たちはついにこの地下牢から脱出したのだ。








少し長めでしたが、最後まで読んで下さりありがとうございます!

第9章は待ちに待った学園入学編です。

新たな仲間と共に、果たしてどのように成長していくのか、楽しみにして頂けたらと思います。

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[良い点] 主人公が気持ち悪い 甘くなったとか言ってるけど逃げてるだけ
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