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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第8章 〜新しい君へ〜
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第69話 君の願い

 



『あなたが私を救えるとは思わないわ』



 それは何度も俺の頭を駆け巡りただ呆然とするしかなかった。



 諦めてはならない、ここで踏ん張らなければならない、そんなことはわかっている。



 それでも、俺は今、本当に自分なんかに彼女を救うことなどできるのかと、自分を疑わずにはいられなかった。



「………」



 なにかを言いたい、けれど自分でなにを言いたいのかもわからずに口をパクパクと開閉させていると。



「だから、もう、無理して来なくてもいいわ」



 本当に微かに聞こえた声だった。



 けれど、俺はエルフィアのこの言葉に、今までとは違う何かを感じる。



 なんだろう、この違和感は。



 これは俺の願望からくる勘違いなのかもしれない。 けれども、心なしか、この時の彼女の言葉には、寂しさがこもっていたように思えたのだ。



 この予想が外れていたら、二度とチャンスは巡って来ないだろう。 そんな不安感を抱きながらも、俺は新たな決意を胸に灯した。



 そして、ニヤリと1人で笑って、震える体のまま、エルフィアに言い放つ。



「そうか。 それじゃあ明日を最後にする。 そして、君の願いを叶えてやる」



 すると、彼女はビクッと体を振動させて、もちろん目は合わせないが、目を大きく見開いているのがわかるほど、驚愕していた。



 そして、期待のこもった吐息を混ぜて呟く。



「私、の、願いを、叶える……?」



 俺は、迷うことなくその反問に答を出す。



「明日、君を───殺しにくるよ」



 自分でも、なんて物騒なことを言っているんだろうか、と疑問に思いつつも、これこそが、俺が叶えてやれる、彼女の願いだ。



 明日、君を殺しに行く。



 これは言葉通りの意味であって、言葉通りの意味ではない。



 エルフィアはこの意味を明日、身にしみて知ることになるだろう。



 そう思うと、緊張感が迸り、背中を硬直させる。



 それでもやらなければならない。



 俺が彼女を救う方法は、最初から最後まで、これしか持ち得ないのだから。



 俺はその言葉だけ言い残すと、この部屋を後にした。



 その際、エルフィアが何か言いたそうに、口を開いたが、すぐに思い直して、口を閉じた。



 そしてあっという間に時間は流れ、俺は床につこうとしていた。



 もうラフィーはぐっすりと眠っている。



 今やってる件に関しては、色々と気を遣ってくれているラフィーに感謝しながら、彼女の頭をそっと撫でてやる。



 果たして、エルフィアはあの時なにを言いたかったのだろうか。 そんなことを考えながら、俺はベッドに潜り込んだ。



 翌朝、俺は早めに目を覚ました。



 いつもなら、リリーが起こしに来るまで起きないのだが、この日はなぜか自然と目が覚めたのだ。



 俺の腕にしがみつくラフィーを起こさないようにそっと離すと、立ち上がって伸びをした。



 そして、視界の中のステータスプレートを眺め、とある2つのスキルとSPの数値を確認する。



 全回復したSPとスキルがあるのを確認し終え、俺は地下室に向かった。



 朝早すぎないかと、言われるかもしれないが、今日は何となく、驚かせてやろう、と柄にもなく思ってしまっていたのだ。



 今日の階段は一段と長く、あの鋼鉄の扉は重さを増しているように感じられた。



 ずっしりとした重量感のある扉を押すように開くと、凄まじい冷気が体を一瞬にして冷やしていく。



「────うぐっ、がぁ」



 そして目の前に映ったのは、予想通りの光景だった。



 ある程度予想は出来ていたとしても、さすがにこの痛々しい姿を凝視することは出来ず、目を逸らす。



「やっぱり、この時間だったんだな」



 俺がそう呟いたのに反応したのか、エルフィアは急に体をびくつかせ、ナイフを大慌てで放り投げた。



 そして信じられないものを見るように目を見張って、口を開閉していた。



「な、なんで、今、くるのよ……」



「まぁ、気まぐれだな」



「あまり、気味悪がらないのね」



「予想はしてたしな」



「でも、こんなの気持ち悪いでしょ。 自分で自分を傷つけるなんて」



 自嘲するように呟くエルフィアに対して、俺は首をゆっくり横に振る。



「いいや。 分かるよ、その気持ち」



 すると、エルフィアは急に激昴したように声を荒らげる。



「分かったような口を聞かないでっ! 分からないはずよ。 私自身にも分からないことなのに!」



「そうだよな。 自分でも分からないよな。 でも、俺には分かる!」



「何がわかるって言うのよ!」




 同じだ、あの時の俺と。



 自分にも分からない激情が、胸の底から無尽蔵に込み上げてくる。



 けれど、それが何なのか、何故そうなっているのかが分からないんだ。



 誰かに気づいてもらうまでは。



 俺はそれを知った上で、大きく息を吸って、小さく言ってやる。



「君は、自分が嫌いなんだ……」




 それを聞いた途端、激昴していたエルフィアが急に脱力したように呆然とした。



 俺はこれを好機とばかりに、あるスキルを発動させる。



『スキルブレイク:相手の持つスキルを破壊することができるスキル、破壊することができるスキルはこのスキルと同レベルのもののみ。 クールタイム1000時間』



 前にサイオスが言っていた。 この鉄格子は、スキルによって作られたものだと。



 ならばこれで破壊できるはずだ。



 そして、俺はスキルを発動したまま、この俺とエルフィアを隔ててきた鉄格子に触れた。



 すると、数秒後、砂のように鉄格子が溶けてなくなる。



 俺はゆっくり鉄格子がなくなった部分を通り抜け、ついに彼女の袂まできた。



 それまで呆然としていた彼女は、俺の気配に気づき、俺の顔を見あげようとするが、目が合う前にすっ、と左目を両手で覆った。





新作小説を本日より投稿開始しましたので、よければそちらにも足を運んでいただければ嬉しいです。

https://ncode.syosetu.com/n9143fi/

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 鉄格子が出てきましたが 前回お腹に刺さったナイフを抜く時に目の前に行ったと思うのですが? 小さな鉄格子なのかな? それだと抜いたナイフを放り投げた筈だけど どうやって手元に? [一言…
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