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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第8章 〜新しい君へ〜
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第68話 彼女の瞳

 




「……そう」



 俺の話を一通り聞き終えると、悲しげにうっすらとそう漏らした。



 まさか同情してくれているのか、と俺は彼女の方を見やるが、やはり目は合わせてくれない。



 ただひたすらに独り言のようにぼやいているのだ。



 それが、俺に言い聞かせているのか、あるいは自分に言い聞かせているのか、どちらかは分からないかったが、その口調はあの無機質なものではなく、しっかりとした感情がこもっていることだけはうかがえた。



「同情を期待しているなら無駄よ」



 話を聞き終えて、彼女の方を眺めていた俺に対してそう呟いた。



 図星をつかれたという訳では無いが、期待がなかったと言えば嘘になるので、若干気後れして応えた。



「まあ、期待がなかった訳じゃないけど、同情してもらうために話したつもりは無いよ」



 俺は苦笑いしながらそう言ってみせるが、やはり彼女の表情は石のように微動だにしない。



「あなたの事、少し分かった気がするわ」



 しかし、そんな沈黙の中でも彼女は声を漏らす。



「でも、私はあなたに優しい言葉をかけてあげられるほど余裕のある立場ではないの」



 そして堰を切ったように話し出したのだ。



 彼女の中で何が変わったのかは分からないままだったが、彼女の中の何かを変えることが出来たという実感はあった。



「今から話すことは本当に独り言だから、適当に流してくれて構わないわ」



「────」



 俺は無言を貫いて、受け手の体勢をとった。



「私は、ある小さな村で、エルフィアと名付けられた────」



 彼女の話を割愛して、俺の解釈した範囲で噛み砕いて説明すると。



 エルフィアはすくすと成長していったが、彼女が11歳になる頃、悲劇は起こった。



 彼女は親に売られて、とある研究所に連れていかれたのだ。



 そこで行われていた研究とは、人と精霊を融合させるという本当に非道なものだった。



 実験体として売られたエルフィアは精霊回路を無理やり埋め込まれる。



 彼女の場合、精霊回路としての触媒は目、つまり眼球だった。



 精霊回路をエルフィアの瞳の中に無理やりはめ込む。



 これがどれほど苦痛なものか、それは実験体となった彼女だけが知るところだが、想像しただけでもこちらの目まで痛くなるような激痛であったことは間違いない。



 他にも実験体として連れてこられたたくさんの人達がいたのだが、エルフィア以外の実験体はどれも適正がなく、生き残ったのは彼女だけだった。



 精霊を生かすためには契約が必要だ。



 ある研究者はエルフィアと契約しようと接触を試みたが、目が会った瞬間、彼女の力の前に光となって消えていった。



 その光景を見た他の研究者達は彼女を恐れ、牢獄へ閉じ込めた。



 そこにいたのが、森の精霊ハーミットだったのだ。



 エルフィアはハーミットと協力して、何とか研究所を脱出した。



 そしてたどり着いたのが、エルフの国レイアース。



 ハーミットはそこで力尽き、エルフィアは幽閉されて、今の状況となっているという訳だそうだ。



「じゃあその前髪の奥にある左目は……」



 俺はエルフィアの話を聞き終えると、髪で隠れた左目を指してそう言った。



 エルフィアは俺が言いたいことを察して、小さく頷く。



「そう、これが精霊回路の源なの。 けれど視界は奪われていないわ」



 それを聞いて、俺が言葉にならない思いを言いかけようとして口ごもっていると、エルフィアは遮るように言葉を挟んだ。



「同情ならいらないわ」



「………」



 あまりに核心を射た言葉に、俺は口を噤むしか無かった。



 サイオスから色々と聞いてはいたが、彼女本人から聞いたことで、さらに現実味が増し、俺の心を抉るような悲劇だった。



「なぜかしら。 こんなことを人に話したのは初めて」



 薄紅色の唇から、エルフィアはひっそりとそう零した。



 自分でも恐ろしく不可解だと言わんばかりに、さらに体を丸めて、顔を膝に埋めていた。



「俺も、自分の過去を話したのは君で2人目だよ」



 俺は、ようやく、噤んでいた口を開いて、そう呟いた。



「確かに、似ているのかもしれないわね。 だからこんなふうに饒舌になっちゃったのかもしれない」



「だったら───」



 だったら、俺が君を救いたいと思ったのも納得できるんじゃないかな、そう言おうとした。



 いや、今しかそれを言うチャンスはなかった。



 けれど、エルフィアはそれを拒んだ。



「────それでも、あなたが私を救えるとは思わないわ」



 今までで1番冷たく、凍えるようなその声音は、一瞬で俺の背中を凍りつかせた。



 あまり感じていなかった、この部屋の寒さを、今は最大限に感じる。



 完全に彼女に拒絶されたのだと、俺は理解するしかなかった。



新作小説を投稿しましたので、そちらにも足を運んでいただけると幸いです。

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