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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第8章 〜新しい君へ〜
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第67話 激昂

 




 本当に久しぶりに聞いたその声に俺は感動を隠せなかった。



 そして、考え無しに勢いよく返事をしてしまったのだ。



「喋った……? なぁ、今話しかけてくれたのか!?」



 そう言って立ち上がると、彼女は大きなため息をついて、やはり目は合わせようとはせずに呟いた。



「鬱陶しい人ね」



 本来は罵倒されているはずの言葉が今は心から嬉しかった。



 疑問に対して反応がある、これこそが会話だ。



 今俺は始めて彼女と会話を成立させているのだ。



 しかし、このままの勢いで話していたらさすがに引かれてこの好機を逃してしまうと察して、いつも通りの口調に戻した。



 俺は1つ咳払いすると。



「すまない、嬉しくて、ついな」



 苦笑いしながらそう言って彼女の機嫌を取り持とうとする。



 しかし、表情が全く動かないので、実際機嫌を損ねたかどうかも分からなかったが。



「何が嬉しいのかさっぱり分からないわ。 それより、何故ここに来るのと聞いているの」



 彼女はなおも無機質、淡白な声音で俺に話しかけてくる。



 その度に心が踊り出しそうになるのを必死で我慢して、冷静な口調で答える。



「なんでって、最初会った時にも言っただろ?」



 そう言って俺は息をすっと吸い込んで、なんの躊躇いもなく言い放つ。



「君を救うためだ」



 最初から最後までこの目的以外でここへ来たことなど1度もない。



 ここから君を出してやるために俺はどんなに痛くてもスキルのレベルを上げたんだ。



 しかし、彼女は真摯に向き合おうとする俺をあしらうように。



「バカバカしいわ。 私を救いたいなら……殺してくれればいいのに」



 全てを諦めたように目を伏せて、ぼやく。



「なんで、そんなに死にたがるんだ?」



「聞いてるんでしょう? 私の事……」



 俺はその言葉に少しの迷いを覚えつつも、正直に話すことにした。



「ああ、聞いている。 だからこそ君を自由にしてやりたいんだ」



 すると彼女は1拍置いて返した。



 冷たく声を震わせて。



「私が、いつ自由にしてなんて頼んだのよ?」



 俺はその言葉で凍りつきそうになった。



 背筋を冷たい何かがそっと、なぞっていったような感覚を覚えた。



 そうだ、彼女が俺に願ったこと、それは『殺して欲しい』ということだった。



 分かっていたはずだ、こうなることくらい。



 俺が救ってやりたいなんて思うのだってただの自己満足のためでしかない。



 それでも、彼女を救ってやりたいと思ったのは紛れもない事実だ。



 それを分かってもらうというのはきっと難しいのだろうが、たとえ邪険にされようとここで引いては、今までしてきたことが全て無駄になってしまう。



 諦めるな。引くな。立ち止まるな。そう自分に言い聞かせ、奮起させて俺は声を出した。



「森の精霊ハーミット……その精霊の最後の頼みなんだ」



 それを聞いた途端、彼女の目の色は一変した。



 息を荒立て、拳を固く握りしめる。



 そして鬼の形相で、怒りに震えた声で呟いた。



「その名前を呼ぶんじゃない……」



「どうしたんだ」という声をかける暇もなく、彼女はしゃくれた声音叫んだ。



「何も知らないあなたなんかが、気安く、お母さんの名前を呼ぶんじゃないっ!!」



 凄まじい迫力と殺気が増長し、俺に迫ろうと鉄格子に掴みかかる。



 それまで無を保っていた少女は途端に激昴した。



 そんな彼女に俺は後ずさり、直ぐに謝罪しなければと、慌てて頭を下げる。



「すまなかった。 俺は君を傷つけるようなことを言ってしまったみたいだ」



 急に頭を下げた俺に驚いたのか、彼女は急に冷静になって、尻もちを着いた。



 自分がこんなにも取り乱したのが不思議だったのか、掌をじっと見つめる。



 まるで、神父を殴りかかろうとして急に思い直した、あの時の俺のようだった。



「な、なん、で……?」



 彼女は自分に問いかけるように目を見張りながら、ぶつぶつと呟く。



 俺はそんな彼女を見つめながら、静かに話を続ける。



「その精霊は、自分の命より君の命を大切にした。 君を助けてあげて欲しいと頼んだんだ」



「でも、それは聞いただけなんでしょう? あなたは頼まれただけなんでしょう?」



「そうだ、その通りだよ。 でも、それを聞いて、君を見て、助けたいと思ったのは俺自身の意思だ」



「どう、して……?」



 今にも泣きだしそうな声音で縋り付くように訊いてくる。



 それを見て改めて俺は確信するのだ。



「似ているんだ、昔の俺に」



 俺はそう言って、目を背けたくなるような自分の暗い過去を話した。



 あっちの世界で俺が受けたしうちについても包み隠さず。





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