第65話 無茶なレベル上げ
翌日は約束通り9時にサイオスの部屋を訪ねた。
「それで、用とはなんだ?」
俺は息をすっと吸い込んで。
「はい、実は……俺にスキルを使って欲しいんです」
そんな俺の返事を聞くとサイオスはソファに座りながら固まっていた。
理解できないとばかりに目を白黒させ、口をパクパクとさせて、なんとか反問する。
「ス、スキルを使えとは、つまり、ユウを攻撃しろというのか?」
まさにその通りだと言うよう俺は「はい」と頷いた。
「そうです。 サイオスさんのスキルはあまり見た事がありませんが、強力なスキルを喰らえば食らうほど、スキルのレベルが上がるはずなんです」
「自分で何を言っているのかを理解出来ていないわけではないのだろうな?」
「もちろん真面目に考えています」
俺はすまし顔でサイオスにそう言ってやると、彼は呆れたように溜息をこぼして少し考えるような仕草をとった。
そりゃ自分で言ってて、何言ってるんだ俺?と言いたくなるような内容だが、これも必要なプロセスなのだ。
目的のためならそれに近づく最善の方法をとれとミルザからも叩き込まれている。
今の場合の最善が、サイオスからスキルでの攻撃を受けるという事だ。
サイオスは先ほどよりも深い溜息をついて頭を抑えている。
「はぁ、なんでもしてやると言ったからにはその頼みは聞いてやらねばなぁ」
「じゃあ、闘技場に行きましょう」
そう言って立ち上がると、サイオスは手でまったをかけた。
「その前に」
俺は「なんですか?」と首を傾げる。
「安全第一で俺は力を抜くが、いいな?」
なるほど、やはりサイオスも俺の体を案じてくれているのか、と俺は納得して返した。
「分かりました。 ただ加減の具合は俺の感覚で変えてもらっても構いませんか?」
「無論だ」
こうして、いつも行き慣れたあの中央闘技場に向かった。
俺はいつもの風景にどこか安心したように吐息を漏らす。
やはりここにいる時が1番落ち着くような気がするほど、俺はこのレイアースでの時間の大半をここで過ごしてきたのだ。
今回は秘密案件なのでリリーには部屋で待っているようにお願いしてある。
そして俺は『スキル耐性』を発動させた。
『スキル耐性:ステータスに干渉的なスキルへの耐性、有効時間1時間、クールタイム10時間』
「準備出来ました。 いつでも来てください!」
俺はスキルが発動したのを確認すると、サイオスにそう叫んだ。
ポイントの消費も気になるがもう1つ『苦痛耐性』も発動させてある。
俺はぎゅっと歯を食いしばって、サイオスのスキル発動をまった。
「それでは行くぞ。 怪我しても恨まないでくれよ」
サイオスはそう言いながら木剣を構えてスキルを発動させる。
あの構え、木剣から湧き出る輝き。
あれは、おそらく『輝白一閃』だ。
相手との距離を目にも止まらぬ速さで瞬時に詰めて、光の剣で横凪を入れる剣術スキル。
サイオスは今までスキルではなく技を俺に教えてくれた。
その中には、これに類似するものもあったが、これは間違いなく本物の『スキル』だ。
もちろん、サイオスのような手練が扱うことで、通常より、威力も精度も段違いに上がってはいるだろうが。
さて、どのくらいのものが来るのかと集中して身構え、すっと息をすった瞬間、突然目の前に彼が現れた。
そして光り輝く木剣をすっと振った。
一瞬だけ見えた斬撃は、まるで光の帯の如く、俺に切りかかる。
何とかして、受身をとったが、俺はその破格の剣圧に無残に吹き飛ばされる。
「───うぐっ!」
スキル耐性と苦痛耐性の同時使用をしていても俺はその威力におもわず呻いた。
10メートルほど転がって、止まったところで立ち止まった。
受け身のおかげでなんとか立ててはいるが、体はかなりのダメージに軋んでいる。
サイオスは心配そうに声をかけてくるが、俺は「大丈夫です」と笑ってみせて、立ち上がった。
まだまだスキル耐性のレベルを上げなければ、あの魔眼を防ぎきることは出来ないだろう。
サイオスもそんな俺の意見を汲み取ってくれたのか「分かった」と小さく呟いて、さらにスキルを発動させる。
俺以外はポイントの消費関係なくスキルを放つことが出来るので、サイオスは気にする事はなくスキルを振るう。
そして次も、その次も吹き飛ばされながら、なんとかスキルレベルを2にあげることに成功した。
だが、Lv2では全然足りない。
最低でも7くらいにはしなければならない。
そして俺はスキルの有効時間が尽きるまで、サイオスのスキルをくらい続けた。
そのあとは吹き飛ばされる距離が5メートル程になったが、レベルが上がることはなかった。
そして有効時間が尽きたところで。
「今日はこれで終わりですかね」
俺は息を切らしながらサイオスを止めた。
「大丈夫か?」
彼は急いで俺の下へ駆け寄ってきて体を支える。
「大丈夫です、なんとか」
「本当にこれでいいのか?」
サイオスはなおも心配そうに聞いてくる。
気遣いはありがたいが、これを始めたからには途中で辞める訳には行かない。
「これでいいんです。 明日も宜しくお願いします」
「ああ、分かった」
そして俺は少し休憩と昼食を挟むと、再びあの部屋に向かった。
あの少女が幽閉される地下の部屋へ。
俺は変わりなくどっしりと佇む扉に鍵を差し込み開ける
鍵はサイオスから預かったものだ。
これからは彼を呼ばなくてもここに自由に入ることが出来る。
そしてその冷気に肌を冷やしながらも俺は迷いなく入った。
しかし、そこには昨日とはまるで別の姿のあの少女がいたのだ。




