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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第8章 〜新しい君へ〜
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第63話 ファーストコンタクト

 



 乾いたその瞳の奥には何も映っておらず、俺の事も、そこいらの石ころ程度にしか認識していないのだろう。



 全身に力が入っていないようにぐでんと寝転び、こちらに正面を向けている。



 しかし、彼女の目は虚ろで、俺と合わせようとはしない。



 腰まで長く伸びた白髪。 透き通るような紫紺の美しい瞳。

 しかし左目は、長い前髪で全て覆い隠れている。



 身長は160センチほどで、手足はスラリと長い。


 地に寝そべっているせいか、一見、パーカーのような服も随分と汚れている。



 しかし、そんなことよりもさらに気になっていたのが、彼女の手に握られた1つのナイフだった。



 さらに加えて、そのナイフは真っ赤に染まっていた。



 その血塗られた刃物は、果たして一体なんのために使用されたのかと、俺は息を呑んだ。



 まさか誰も入ることの出来ないこの部屋で他の人を突き刺すなんてことは不可能だろう。



 俺がそんなことを考えていると、ふと再び少女は無機質な声音で言った。



「前来た人じゃない……あなたは誰……?」



 体をずらし横壁にもたれ掛かるような体勢になってそう訊ねてきた。



 だが、一向にこちらに目を合わせる気はないらしい。



 俺は突然発せられた声に驚き後ずさりそうになるが、何とか堪えて応えた。



 警戒させないように、できるだけ微笑んで。



「俺はユウ、君に会いに来たんだ」



 俺がそう言うと、彼女は体を丸めて溜息をついた。



「あなたは、私を殺せるの……?」



 彼女が今何を言ったのか、俺は理解出来ずに呆然とした。



 いや、きっと理解は出来ている、だからこそそう言った彼女の意図に戸惑い、固まってしまっているのだ。



 しかし、ただ黙っている訳にもいかないだろう、と自分に言い聞かせ、この沈黙を破ろうと、俺はかろうじて声を発した。



「そんなことより、君は?」



 こちらが名乗ったのだから、そちらも名乗るべきであろうということくらいしか今の俺には思いつかなかった。



 それほどまでに脳が困惑し、混乱していた。



 だが、俺のそんな質問に対して彼女の答えが返ってくることは、いくらまっても来なかった。



 さらに重たい空気と静寂がこの寒い空間を満たしていく。



 俺はコートを来ているにも関わらず身を震わせた。



 そして数分後、彼女はようやく口を再び開いた。



「……殺す気がないなら、さっさと出ていって。 不愉快だわ」



 今度感じられたのは無関心ではなく、完全に冷たく、まるで追い払うような声音だった。



 しかし、彼女が感情らしきものを見せるのは初めてだったが故に俺はこの硬直した体が解れた。



 そして自分の決意を思い出す。



 なんのために俺はここに立っているのか、その決意を。



 そして俺は「いぃや」と静かに呟き首を横に振って、息をすっと吸うと強く言い放った。



「出ていかないよ……。 だって俺は、君を救いに来たんだから!」



 俺のその言葉が今の彼女の耳に、心に届くかは定かではないが、とにかく今これだけは伝えておきたかったのだ。



 それを聞くと、彼女はどうやら聞こえていたようで、凍るように冷たく返してきた。



「……煩わしい」



 俺はそんな冷たい態度と言葉に体が凍りつきそうになった。



 しかし、怯むわけにはいかない、と拳を握りしめて。



「今は拒絶されるのも分かってる。 でも知っていて欲しいんだ。 君を見ている人がちゃんといるんだってことを」



 きっとこんな安い言葉くらいサイオスでも言っているだろう。



 それでもそう言ってくれる人は多ければ多いほどいいはずだ。


 いくら安かろうと、ありきたりだろうと、積もり積もって彼女にとっての大きな支えとなれるなら、俺は迷いなくそう伝えよう。



 この後は彼女が口を開くことはなかった。



 もしかしたら眠っているのかもしれない、それほどまでに彼女は静寂そのものだった。



 それでも俺は話し続けた。



 本当に他愛もない話ばかりだったが、今するべきは彼女の心を解してやることだ。



 堅苦しい話はかえって聞いてくれないだろうと、そう考えたのだ。



 今日の朝何を食べたか、今日の天気は晴れか雨か、この前見た可愛い動物の話、そんな日常的な話を俺はその後時間も忘れてひたすらに話した。



 サイオスが、扉をノックするまでただひたすらに独りごちた。



 これがただの独り言にならなくなる日を夢見て。






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