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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第7章 〜剣聖と白銀の少女〜
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第59話 サプライズ

 



「実はあたしもマスターと同じように特訓していたんです」



「特訓?」



「はい。 あたし剣になるくらいしか能がありませんから」



「それでも十分助かってるよ」



 しかし、否定するようにラフィーは首を小さく振って。



「マスターがそう優しくしてくれるのはとても嬉しいですが、だからこそあたしはそんなマスターの役にもっとたちたい」



 俺はそんな純粋なラフィーの目を見て頬を掻きながら小さく言った。



「……ありがとう」



「でも、あたしは自分に関する記憶がなくて、どうしていいか分からなかったんですけど、ミカエルはあたしよりもあたしのことを知っていたんです」



「ミカエルはなんて?」



「ミカエルはあたしには治癒の能力があると伝えてくれましたが、あたしの記憶がないことについてはとうとう話してはくれませんでした」



 ラフィーがそういうのを聞いて、俺は今度ミカエルとじっくりと話をしようと決めた。



 きっとミカエルは、いやミカエルだけじゃない他の天使達もおそらくラフィーの記憶について何か知っているのだろうという憶測から。



 もちろん何もないのかもしれないが、それでも問いただす価値はあるだろう。



「それでも、あたしには剣になる他にもマスターのお役に立てる力があると知って、大いに感激しました。 そして毎日毎日、少しずつ新しい力を手に入れようとミカエルに特訓に付き合ってもらっていたんです」



「───感激するのはこっちの方だよ。 こんな俺のためにそこまでしてくれるなんて……」



 俺はラフィーの純心に感極まって口を抑えた。



 言葉にならない程の喜びが爆発しそうで今にも叫び出してしまいそうだったから。



 それを不思議そうに見つめるラフィーに「なんでもないよ」と言って、感謝の言葉を紡いだ。



「……本当にありがとう」



 そう呟くとラフィーは「はい!」と花が咲いたような笑みを浮かべてとても満足げだった。



 まるでサプライズが成功したように───



 自分の中でそう考えていた時、ラフィーが、何故そのことを俺にもったいぶって話さなかったのかに気づいた。



「もしかして、俺に隠れてこそこそやってたのって……」



 俺の訊ねに続きこたえるようにラフィーは照れくさそうな表情を浮かべて。



「はい、その……サプライズと言いましょうか、マスターをびっくりさせたいって思いまして……」



 俺はもじもじとしながらきょろきょろと視線がおぼつかないラフィーの頭に手を置いて。



「すごくびっくりしたよ。 本当にありがとう、ラフィー」



 喜悦の表情で喉を鳴らすラフィーの頭をそっと撫でて俺は言った。



 改めて、あの時ラフィーたちを覗かなくて正解だったと感じた。



 なぜなら、今俺はとても『幸せ』な気持ちになっているのだから。




 そのあとは、実際には何ができるようなったのかをお互いに成果報告会でもするように語り合った。



 ラフィーはこの1年半で、治癒の能力と、水の魔法、そして剣の形状を変えることが出来るようになっていた。



 俺は目を見張って聞き、俺の剣術やスキルとラフィーの新たな力をどう組み合わせていこうかと思考をめぐらせていた。



 それはとても胸踊るものだった。



 ラフィーとこれからの戦術について語り合っているところに、ふと割って入ってくる声があった。



「主役がこんな所にいちゃ宴会も盛り上がらんだろう?」



 ワイングラスを片手に微笑しながら言ってきたのはサイオスだ。



「サイオスさん。 すいません、どうも人混みが苦手なもので」



 俺は苦笑いしてそう返した。



 確かに、俺のためにと開いてくれたこの場で夜風に浸っているというのはいささか礼儀がなっていないような気がして気まずくなった。



「まぁそれはいいんだが、ちょいと聞かせたい話があってな」



 1拍おいて、そう言うサイオスに俺は首を傾げる。



「聞かせたい話、ですか?」



 俺がそう訊き返すとサイオスは「ああ」と頷いた。



 まるで俺にとっていい話でも持ち出すように。



「実は、ユウには学園に通うことを勧めたいんだ」



 そんな彼の言葉に俺は目を見開いた。



「学園、ですか?」



「そうだ。 人の王国ロッドハンスの王都にある王立ミシェド学園に入学するんだ」



「なぜ、サイオスさんが人間族の学園を勧めるんですか?」



「エルフの国には学園というものが存在しないんだ」



「けれど、わざわざそのミシェド学園というところに入学させようとするのは何故ですか?」



 俺がそう訊ねるとサイオスは「なんだ、聞いていないのか?」と首を捻る。



 しかし、俺はなんのことか予想できないままサイオスの言葉を待った。



「ミシェドは……ミルザが通っていた学園だ」



 俺はサイオスの言葉を聞くと、驚愕したように口が半開きになる。



 そして記憶をまさぐり、ミルザの昔話を想起させた。



「そう言えば、ミルザさんの過去話の中に『学園に通って卒業した』というのが……」



 俺は独り言のように呟く。



「ミルザは、あそこは自分を高めるのにすごく適した所だったとよく言っていたよ。 まあ、ミルザが卒業してから150年近くも経っているから、かなり変わっているとは思うがね」



 サイオスは懐かしそうに夜空を仰いで俺に呟きかける。



「そんなことを……」



 俺もサイオスにつられて吐息混じり呟いた。



 そしてサイオスは俺に向き直って再び提案してくる。



「だから、ユウもそこに通えば新しいことを学べると思ったんだよ。 どうだ入学してみないか?」



 もう一度聞かれなくても、俺の腹はもう決まっていた。



 サイオスのそんな提案に俺は息をすっと吸い込み、1拍おくと。



「わかりました」と頷いた。



 ミルザが通い、サイオスが推薦し、さらに俺が少々の羨望を抱いていた学園に入ることに何を躊躇うことがあるか。



 ミルザに1歩でも近づき、彼女が叶えられなかった夢を叶えるためにはまだまだ様々な経験が必要だ。



 ならば学園に通い、さらに見聞をひろめることも重要なことだろう。



 逡巡のまるでないすっきりとした面持ちで応えた俺に、まるでこうなることが分かっていたかのように微笑してサイオスは言った。



「それじゃあ決まりだな。 再来月にはその学園の試験があるから、そこに合わせて出立するといい」



 こうして、来月俺はミシェド学園の入学試験を受けることが決まった。



 それまでにまだまだ出来ることは多くあるはずだ、と俺は翌日からさっそく修練に勤しもうと決意した。




 学園の説明を終えたサイオスはバルコニーから再び会場の方へ戻って行った。



「それじゃあ、私はまだやらないといけないことがあるから、ここら辺で。 ユウもはやくもどってくれよ?」



 微笑しながらそう言って俺に背を向けたサイオスは何かを思い出したように「それと」と呟いてこちらに振り返った。



「なんですか?」



「明日少し時間をくれないか?」



「いいですけど、どうしたんですか?」



 俺がそう訊ねるとサイオスは真剣な面持ちになって。



「少し頼みがあってな。 今は話せないんだが、明日の正午に私の部屋へ来てくれ」



 俺はそれを聞いて首を傾げたが、サイオスの真摯な顔を見直すと「わかりました」と頷いた。



 その返事にほっとしたような態度をとると、サイオスは会場へ戻って行った。











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