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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第7章 〜剣聖と白銀の少女〜
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第58話 初勝利

 


 そして倦まず弛まずの修練はその後も続いた。



 ある日、その努力の甲斐あって、俺はついにサイオスから1本取ることができた。



「見事だ」



 サイオスは賞賛するようにそう言って、降参というように手を挙げた。



 俺は一瞬自分が勝利したことに気づいていなかった。



 とにかく夢中で剣を振り、鍛えた技を繰り出し続けた。



 そうしているうちにいつの間にかサイオスの剣を弾き飛ばし俺は喉元で剣を止めていた。



 そしてサイオスの言葉でようやく、自分が1本とったのだと気づいた。



 感極まり言葉にならない思いが募りあげてくる。



 そしてサイオスの前だというのに俺ははしたなく、不躾に強くガッツポーズした。



 緊張感が瞬時にほぐれていき、体の力が抜けていく。



 感慨に耽りながら俺は中央闘技場の地に寝そべった。



 そして成果報告をするかのように空の彼方を仰ぎ、ふっと吐息を漏らした。



「大丈夫か?」



 サイオスはそんな俺に微笑しながら手を差し出し、身体を起こそうとする。



 どうやら今の俺はなかなか全身に力が入らないようだ。



 俺はサイオスの手を掴み身を任せた。



 ぎゅんと力強く起こされる時、横目にリリーを見ると感動したように涙ぐみながら拍手していた。



 俺は少し気恥ずかしくなるが、日々の鍛錬をずっと一緒にいたリリーは言わば一心同体。



 サイオスからの勝利は、俺もリリーも感慨深いものだった。



 俺はリリーに親指を立ててみせた。



 サイオスがよっこらせ、と俺を引き上げると嬉しそうに呟く。



「私の完敗だ……。 強くなったな、ユウよ」



 俺は歓喜のこみ上げる思いで感謝を言った。



「ありがとうございます!」



 こうして俺はついに『剣聖』を打ち負かしたのだ。



 ここまでくるのに1年半ほどかかった。



 長くもあり、短くもあったレイアースでの修剣の日々もサイオスの次の一言で一区切りがついた。



「私から教えることはもう、なにも無いようだな……。 よし、明日は宴だな」



 サイオスは少し寂しそうな声音で呟くと、思いついたように手のひらをポンっと打ち付けて言った。



 そして翌日、言葉通りサイオスは盛大に宴会を開いてくれた。



「今日は、私の友人であるユウのための宴だ。 必ず挨拶しておけ! それでは乾杯!」



 サイオスのそんな号令とともに王宮内の招待されたエルフたちは一斉にそれを連呼して会場内は一気に騒がしくなった。



 しかし、そのせいでリリーを筆頭に多くのエルフが俺を取り囲んでいた。



「人間のくせにサイオス様に勝利するとはなかなかやるではないか」



「すごいわぁ! あのサイオス様をおくだしなさるなんて」



「いっそのことレイアースに国籍を移さないか?」



「さすがはユウさんです。 世界を変える男は違いますね」



 俺を賞賛するようなあらゆる声が会場を飛び交っていた。



 正直なところ疲れるというのが本音だが、こんな風にたくさんの人から褒められるというのは初めての経験だった



 そんな俺にとっては、この状況を喜ばしく思わずにはいられない。


 しかし、やはり人混みは苦手なので俺はちょうど目に入ったバルコニーへと退避した。



 そこは人も少なく、冷たい夜風が頬を撫でていきとても心地のいい空間だった。



 すると青髪の相棒が、疲れたように溜息を漏らす俺を心配そうに声をかけてくる。



「マスター、お疲れですね」



「ああ、ラフィーか。 そうだなぁ、すっごいたくさんのひとに話しかけられてくたびれちゃったよ」



 俺はバルコニーの手すりに寄りかかりながら夜空を仰いで疲れたように、それでも嬉しい気持ちで呟いた。



 そんな俺を微笑みながらラフィーは眺めて言った。



「マスターすごく頑張りましたもんね。 リリーからいろいろ聞いていました」



「まぁ、まだまだなんだけどね。 それよりさ……」



 俺は謙遜するように呟くと、ずっとラフィーが俺に秘密にしていることについて踏み込んだ。



 ラフィーはまるで、そう来ると思いましたと言いたげに微笑んで「なんですか?」と聞き返す。



「俺が闘技場に行っている間は、ラフィーは部屋でミカエルと何していたんだ?」



 そう、俺が夕方部屋に戻ると大抵はラフィーとミカエルはお菓子なんかつまみながら楽しそうに話していた。



 しかし、2人とも俺を見ると何か含んだような微笑をこぼして何かコソコソとするようだったのだ。



 実を言うとそれが気になって、1度覗いてみようと思ったのだが、さすがに忍びなくなってそれをやめた。



 だからこそ、ずっとそれが疑問だった。



 食事はいつも2人でとっていたのだが、俺がその事について訊いてみると。



「内緒です」と片目を閉じて、人差し指を口元にあて悪戯な笑みを浮かべてもったいぶっていた。



 しかし、どうしてか今ならそれを答えてくれそうな気がして、俺は訊ねたのだ。



 そしてそれは的外れではなく、今回ラフィーは迷わずに俺の質問に答えてくれた。



「それはですねぇ……」



 心做しかウキウキとしたような口調で饒舌に話し始めた。










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― 新着の感想 ―
[気になる点] 1年どころか1年半も経過してるってことは、同盟に関していい返事は貰えたのだろうか?
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