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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第7章 〜剣聖と白銀の少女〜
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第54話 力の差

 



 俺は木剣を強くにぎりしめ、サイオスの喉元目掛けて振り抜く。



 しかし、木剣は見事に空を斬っていた。



 俺はまるで理解ができず、目を見開いて呆然としていた。



 そして俺の動きが止まった時、後ろから剣圧と共にサイオスの声が聞こえてきた。



「速さはそこそこだが、技がなってないな。 これで私の勝ちだな」



 俺は気後れしつつ、その声の主の方へ振り向いた。



 先程まで俺の目の前にいたはずのサイオスはいつの間にか俺の後方で木剣を俺の背中に突き立てていた。



 俺は息を呑み、額からは冷や汗がだらりと垂れ落ちる。



「なん、で……?」



 俺の口からは息を吐くように自然と声が漏れた。



 なんだ、一体何が起きたんだ?



 そんな俺の反応に対しサイオスはニコニコと笑って言った。



「いやなに、ちょこっとだけユウの意識から外れただけさ。 つまり、一瞬私は君の意識外に隠れたってだけだ」



「そんな、ことが……」



 俺はなおも面食らったような面持ちで吐息をこぼす。



 そして、サイオスは俺の言葉に続くように呟く。



「できるんだよ。 鍛えて鍛えて、鍛えあげれば、誰にだって出来る『技』なんだよ。 スキルとは違う、後天的に身につけられるの技能なのさ」



 サイオスの表情からは笑みが消えて、真剣な面持ちになる。



「スキルじゃない『技』……?」



 俺がそう聞くと、含んだような口調で告げた。



「そうだ、技だ……。 お前さんは『無職』なんだろう?」



 その言葉で俺は困惑の色を強め、驚愕したような顔で訊ねた。



「あなたも、鑑定眼持ちなんですか?」



「すまないな。 ユウが無職というのを知っているのを黙って、この模擬戦を仕組んだんだ」



 サイオスは眉を顰めながらそう言ってきた。



「なんで、そんなことを……?」



 俺は口が半開きになりながら反問する。



 それを聞くと、サイオスは静かに話し始めた。



「きっと、今まで、ユウは自分の力に絶望してきたのだろう。 だが、ミルザと出会い凄まじいステータスを手に入れた。 それ自体はお前の努力の賜物だ。 しかし、その力を過信するあまり、今、ユウは再び劣等感を感じているのではないか?」



「……」



 俺はサイオスの言葉を否定出来ず口ごもった。



 なぜなら、彼の言っていることは実に的を射た言葉だったからだ。



 確かに、今俺が感じているのは劣等感というもので間違いがない。



 久しく感じる自分への絶望に立ち直れないくらいの衝撃を受けてしまっていた。



 喉がからからと乾く。



 そしてサイオスはそんな俺の態度を見つめると話を続けた。



「久しく感じた絶望に立ち直れないと言った顔だな。 だが、勘違いするな。 ユウは多少は強くなったが、まだまだ未熟で弱い、生まれて14年の子供だ。 対して私はもう100年以上も生きて、鍛錬してきた。 そんな私にユウが勝つ方がこの世界の軸がねじ曲がっているとは思わないか?」



「けれど、軸をねじ曲げてでも強くならなければミルザさんの望みを叶えることなんて……」



 俺の言葉を遮るようにサイオスが言った。



 今度はとても穏やかに微笑して。



「ユウは別に、()()()()()()ではないんだぞ?」



 その言葉に俺は俯きかけていた顔をあげてサイオスの顔を覗き込んだ。



「でもっ……! でも、俺はミルザさんのあやつり人形ならそれでいいって、そう考えてきて今まで必死に頑張ってきたんだ。 俺を救ってくれたミルザさんのために全てを捧げるって、そう自分に誓った───」



 俺が激昴して声を荒らげて否定すると、サイオスは何も言わずに首を横に振った。



 そして囁くように俺の心に語りかける。



「ミルザはユウの母親になりたいと言ったのだろう? 違うか?」



「……確かに、そうです。 だからこそ俺はっ!」



 すると、サイオスは俺の言葉を遮るように言った。



「息子の幸福を祈らない母親がどこにいる……?」



 俺はその言葉ではっと我に帰ったように吐息を零した。



 そして大切な記憶を懐古させる。



 思い出したのは1つの日記だった。



 ミルザの遺してくれた大切な日記。



 最後のページの1番下部にはこう綴られていた。



『ユウくんが幸せな日々をおくれますように』と。



 俺はそれを思い出し、自然と涙が零れてきた。



 もう流さないと、ミルザさんのために強くなると、そう誓ったはずなのに、涙が止まらなかった。



 そんな俺を優しくサイオスは見守ってくれる。



 そして、頭にその大きくて優しい手をそっとのせて言った。



「焦る必要は無い。 けど悠長にもしない。 そうやって強くなりながら、幸せになって、その上にあわよくば自分の願いを叶えて欲しいって、きっとミルザも祈ってる」



「けど、強くなることくらいしか、今の俺がミルザさんにしてあげられることなんて、何も……」



「ミルザにしてやれること、か。 そんなの、強くなるとかよりも、ユウが今、幸せだぞって、胸張って、ミルザに伝えてやることじゃないのか?」



 その言葉に俺は体が震えた。



 心に重くのしかかっていた重圧が、すっと空に溶けて行くような身軽さを感じる。


 俺はそんな感覚にしばらく浸り、涙を袖で拭った。



「サイオスさん……」



 そして背筋を伸ばして、サイオスと面と向かって力強く言った。



「俺を、鍛えてください!!」



 サイオスは歯を見せてニコッと笑うと「ああ!」と強く頷き頭をポンポンと叩いてくる。



 俺は新たな決意とともにこれからの厳しい鍛錬に励んだ。









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