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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第7章 〜剣聖と白銀の少女〜
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第53話 模擬戦

 



 翌日はリリーが朝食を運んでくる音で目が覚めた。



 朝7時になると必ず朝食を届けてくれるそうだ。



 まるでモーニングコールのように鳴り響くリリーの声はとても心地よく起床させてくれる。



 顔を洗い、リリーから朝食を受け取り、ラフィーと一緒に食べる。



 旅の時は、野営するときくらいしか共に食事をすることがなかったので、すこし懐かしい思いがあった。



 彼女も嬉しそうに喉を鳴らしながら食事をとっている。



「マスター、美味しいです」とバターがたっぷりとぬられたパンを咥えながら言う。



 俺はそれを微笑ましく眺めながら自分の分を口に運んだ。



 ゆったりとした朝食を済ませると、リリーが後片付けをしてくれた。



 さらに着替えの手伝いまでしようとしてくれたのだが、さすがにこれは遠慮しておいた。



 念のために「これからもしなくてもいいよ」と釘を刺すと、リリーはすこし寂しそうな表情になって頷いた。



 これがレイアースでの朝の日課である。



 隙を見計らえば、俺はたいていサイオスのところへ行っていた。



 いかにも王室間といった大きな扉を軽くノックする。



「はいれ」



 中から承諾の返事が聞こてくるのと同時に俺は身体を滑り込ませた。



 俺の姿を確認すると「おお、ユウよ。 よくきた!」と席を立ち上がり、頬を緩ませる。



「さっそくきてもらったところ悪いんだが、あと少し待ってくれないか? まだ仕事が残っていてな」



 サイオスは申し訳なさげにそう言って、腰を下ろした。



「いえ。 何か手伝いましょうか?」



「なぁに、これくらい1人でもすぐに終わらせられるさ」



 そう言うと、先程まで鈍く動いていた手が途端に俊敏に動き始めた。



 書類の山をみるみる減らして行く。



「そこの椅子でゆっくりとしているといい」と言ってくれたので、俺はお言葉に甘えてフカフカのソファで待つことにした。



 そして1時間後。



「よし、終わったぞ!」と机をバシッと叩いて席を立った。



 俺はソファのあまりの心地よい座り心地にうとうとしていたがその音で意識がはっきりとした。



 声の方を見ると、得意げに顎を撫でて、こちらを覗いているサイオスの姿があった。



 初め見た時の30センチ程あった書類の山も見事に無くなっていて、俺はその仕事ぶりに畏敬の念を払うように言った。



「お疲れ様です」



「おう! それじゃぁ早速、剣の稽古をするか」



「え、でも少し休んでからの方がいいんじゃ?」



「このくらい屁でもあるまい。 少しでも長くユウを鍛えてやろうというのだから甘えておれば良いのだ」



 にぃっと歯を見せて笑いかけてそう言ってくれるサイオスにこれ以上言うこともないだろう。



「ありがとうございます!」




 俺は軽快に感謝をのべて、俺とサイオスは闘技場へ向かった。



 武装国家としての誉れもあるここレイアースでは訓練場が多く存在する。



 不定期に開催される武闘会には男女問わず多くのエルフが参加し、己が技を競い合う。



 驚いたことにそこにはサイオスもよく参加するのだという。



 流石は天職『剣聖』と言ったところだろうと、俺は感心していた。



 そんな話をしているうちに、王宮に近接する『中央闘技場』についた。



 日本で言うコロッセオ、円形の闘技場にはほとんど人がおらず、貸切状態だった。



 そこでサイオスが言った。



「この闘技場は国王である私が主催する武闘会のためのものだ。 だから普段はほぼ貸切みたいになっているんだよ」



「そんなところに俺なんかが入ってもいいんですか?」



 俺は引き腰で訊ねる。



「ユウは私の友人だ。 そんな気を使うことも無いぞ」



 そんなことを言われても、俺はずっと鬱々とした洞窟で生活してきたのだから、昨日のあの豪華な部屋もなかなか落ち着かないふしがあった。



 それに加えて今目の前にいるのはこのレイアースの国王だ。



 気が引けてしまうのも無理はないだろう。



 しかし、俺はなんとか堂々と姿勢を正して返した。



「そうですね。 サイオスさんとは友人。 気を使うのは野暮ですね」



 それを聞くとサイオスは「そうだ、そうだ」と嬉しそうに俺の肩を叩いてくる。



 するとサイオスの後ろからリリーがひょいと飛び出した。



 やや気後れしてリリーに言った。



「リリー、いつの間に?」



 するとしたり顔でリリーは返してくる。



「私はいつでもユウさんのそばに控えております」



「ラフィーはどうした?」



「ラファエル様はミカエル様とお部屋でお過ごしです」



「それならいいんだけど」



「それよりユウさん、これを」



 そう言って、大きな木剣を手渡してきた。



 サイオスにも同様のものをリリーは手渡す。



 俺は受け取った木剣をまじまじと見つめながら呟いた。



「これは?」



 するとサイオスは俺と同様に受け取った木剣を肩にのせて言った。



「これで模擬戦をする。 なぁに、寸止めで勝敗を決めるただのお遊びさ」



「模擬戦ですか?」



「ああ、まずはユウがどれほど出来るか試してみようと思ってな」



「手加減はなしですよ」



「ふ、誰にものを言っている」



 お互いに眼を飛ばしながら笑いあって、5メートルほど離れた。



 その丁度中間地点でリリーが手を挙げて、笛を咥える。



「それでは、サイオス様対ユウ様の模擬戦を始めます。 両者剣を構えてください」



 俺は臨戦態勢に入るように剣を構えるが、サイオスは特に足を踏み込むというような動作をせず、ただ立っているだけだった。



 しかし、準備が出来ていないなら、開幕速攻をかけるまでだ。



 俺はぎゅっと足に力を込める。



 そしてリリーのピーッ!という笛の合図が聞こえたと同時に俺はサイオスに向かって突進した。



 相手は剣術を極めた剣聖だ。



 俺はいい力試しになると、胸が踊っていた。



 相手は剣の達人だが、速さで押し切ることが出来れば勝機はあると俺は踏んでいた。



 しかし、サイオスとの距離がほぼゼロになった時、そんな淡い期待は簡単に切り落とされた。







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