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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第7章 〜剣聖と白銀の少女〜
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第50話 サイオスとミルザ

 



 それはたったの数秒だったのだろうが、この時は数分間ほどの沈黙があったように感じた。



 そしてサイオスがややあって吐息を漏らし、薄く微笑みながら呟いた。



「すまない、少し昔のことを思い出してしまってな」



「いえ……」



 俺は、それはこちらも同じだと言うように小さく頷いた。



「そうか……やはり、君がミルザの意志を継ぐものなんだな」



 俺を懐かしそうに見つめ、そう零すサイオスはあの威圧的オーラを放っていたとは思えないほど穏やかな雰囲気で座っていた。



 俺も、そして彼も、ようやく肩の力が抜けたようだ。



 お互いに警戒し合っていては本当の会話は成立しない。



 心と心を通わせ、思いを語り合うのが会話だと、俺は思っている。



 そして、俺も噤んだ唇をようやく開いて、一息空けて言った。



「サイオスさんはミルザさんとはどんな関係だったんですか?」



 そう訊くと、サイオスは体を少しずらし、天井を仰ぐと、俺に向き直って静かに語り始めた。




 サイオスとミルザの出会いは今から160年前になるそうだ。



 エルフは基本的に長命な種族で、平均寿命は200〜250長い者だと300歳まで生きると言われている。



 スキルと魔法を駆使してエルフ並の天命を手に入れたミルザとエルフであるサイオスの間ではこの気の遠くなるような年数もおかしくはない。



 当時20歳のサイオスは、まだこの国の国王とは程遠いただの子供であった。



 エルフは50を超えてようやく大人として扱われるのだ。



 剣聖という天職を授かり、さぞ浮かれていたであろうサイオスはとある日に旅に出たのだ。



 自分なら1人でも簡単に魔物でも魔獣でも、あるいは魔人でさえも退けられるだろうと己が力を過信していた。



 その過信は半分当たったが、半分は外れていたのだ。



 旅の途中、サイオスは幾度となく魔獣を退けて行った。



 それほどまでに『剣聖』という天職は彼に凄まじい力をもたらしていたのだ。



 だが旅を開始してから1週間後のことだった。



 サイオスは決して踏み入ってはならないという魔国領に入ってしまっていたのだ。



 魔国領は魔人が領域として抑えている国家のようなものだ。



 魔人とは現段階でもっとも力のある種族であり、さらに悪逆非道ということで名高い種族でもあった。



 目の前にある気に入らないものは片っ端から切り落とし、さらに魔王はたいそう人間に強い憎しみを持っていたため、人間であれば何があろうと殺していた。



 しかし、ほかの魔人は人間でもエルフでも見境なく平気で殺す。



 そんな禁忌の場に立ち入ってしまったサイオスはついに魔人と遭遇してしまった。



 だが、サイオスは逃げようとはしなかった。



 むしろ、これを好機とばかりに自ら突っ走って行ったのだ。



 その時の魔人は勇者との戦闘でかなり消耗していたとは言え、サイオスなどあしらうくらいに潰すことが出来た。



 ついに魔人に捕えられ、今にも殺されそうになっていた時、彼女は現れた。



 血塗れで、意識も朦朧としていたが、消耗していた魔人をなんとか撃退し、サイオスを救ったのだ。



 己の未熟さを知り、自分の過信を後悔したサイオスはミルザに教えを乞うた。



 自分には何も出来ないと、断られるサイオスだったが、何度も何度も頼み込み続けた時、ひとつだけ彼女は彼に聞いた。



「君はこの世界をどう思う? 間違っているとは思わないかい?」



 サイオスは「分かりません」と答えると、ミルザは少しだけ語ったのだ。



 彼女が世界に対して抱く強い憎しみと、そんな世界を変えたいという願望を。



 それを話してからというもの、サイオスはミルザから多くのことを教えて貰った。



 世界、天職、生きる意味。



 恐らく俺に教えたこととほとんど同じことを教えたのだろう。



 それは、サイオスにとっても自身を大きく成長させ人生観を変えてしまうほどの影響力を備えていたのだろう。



 しかし、そんな日々が始まってから2週間がたった頃に、ミルザは「私は、恐らくもう帰ってこられない」と言う言葉と1通の手紙を残してサイオスから離れていったのだ。



 噛み砕いて説明するならば、彼女のその優しさと、強さは、サイオスがミルザを強く慕うのに十分すぎたと言うだけの話だった。



 それは俺も同様なのだが。




 サイオスはミルザとの一連の経験を語り終えると、静かに溜息を零した。



「まぁ、こんなところだな。 あの頃のクソガキはミルザに出会ったおかげで今こうしている、てなわけさ」



 この重たい空気を少しでも緩和しようと、サイオスは冗談交じりに笑いかけて言った。



 だが、俺は笑わなかった。



 サイオスがどれほどの思いをミルザに対して抱いているのかは話している時の口調や態度から聞かずとも読み取れたからだ。



「それじゃあ、次はお前の番だな」



 サイオスは1拍おくと、そう俺に催促してきた。



 俺は真剣な面持ちで、小さく頷くと、サイオスに、ミルザと出会ってから彼女が亡くなるまでの経緯を切に語った。






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