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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第7章 〜剣聖と白銀の少女〜
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第47話 エルフの兵士

 



 まるで宙を舞う蝶のような浮遊感があった。



 しかし、それは決して喜ばしいことではなく、下の方へ視線を移せば、たちまち冷や汗が額を濡らしていく。



「いや、ちょっと。 高すぎ────」



 思わずそう漏らし、刹那、俺の体は重力に引っ張られるように、高速で落下していく。



 高さはおよそ20メートルという所だろうが、この高さから落下すれば、ただじゃ済まないだろう。



 俺が、まさに地に足がつかない状態に焦っているなかで、ラフィーはまるで絶叫アトラクションにでも乗っているかのように喜悦の悲鳴を上げている。



 俺はツッコミたい気持ちを必死に堪え、スキル欄を血眼で探し回るが、この状況を打開できるようなスキルは……ない、と思いかけた時。



『条件の達成を確認、スキル【落下耐性】を取得可能です。 取得しま───』



 その声が聞こえた瞬間、俺は最後までいいきる前に殴るつけるように心の内で叫んだ。



「おせぇよ……! 取得する!」



『承諾を確認、【落下耐性】の発動権を委託します……』



 心做しか、声が少し悲しそうに言ったように思えた。



 だが、申し訳なく思っている猶予はもう既にない。



 今にも地面に激突しそうだった時、俺は新たなスキルを発動させる。



 ポイントも初回特典も今は気にしている場合ではない。



 発動した刹那、俺は地に足をつけた。



 少々の衝撃と体に伝わる振動があったものの、なんとか無傷で着地することができた。



「なんとか間に合った、か」



 俺は緊迫した状況下から押し寄せた焦燥によって息ををはぁはぁと荒立てていた。



 着地できたことへの安堵に胸をなでおろしながら、じわりとかいた冷や汗を手の甲で拭う。



 果たして、スキルが間に合わなかった時どうなっていただろうかと、想像するだけで怖気だつ。



 俺の苦労も知らないで、ラフィーは「楽しかったです、さすがはマスターですね」などと嘯いていた。



「お前なぁ」とツッコミを入れようとしたが、思い直したように、いや、と首を振って、怒るのをやめた。



 ちょっとした余興であったということにしておこうと思ったのは、ラフィーをまた悲しませたくなかったからだ。



 もう2度と彼女に心配をかけまいと、自分と、そしてミルザに誓った。



 ややあって、荒立つ息を整えるとばたばたと羽を羽ばたかせるピィがラフィーの掌に戻った。



 そして、再びいざ進もうとした時だった。



「何者だ!!」



 突如茂みから現れ、目を光らせながらこちらを訝しげに伺う、耳の長いやつらが5人ほどで俺たちを取り囲んでいた。



 気配感知を発動していなかったせいで、まるで彼らに気づけなかった。



 たがそれはスキルだけの問題ではなく、彼ら自身がそもそも気配を抑えて静かに取り囲んでいたのだ。



 そして彼らは一層に警戒心を強めて続けた。



「武器を捨て、手を後ろに回せ。 妙な動きをすれば迷わずにこの弓を放つと思え」



 彼ら、エルフ達の手にはいかにも立派な木製の弓が握られていた。



 そして、それは今すぐにでも矢を放てる状態になっている。



 ここで抵抗するのは愚かな判断だな、と俺は大人しく彼らに従った。



 もし彼らを退けられたとしても、その時点でサイオスという男に会うことは叶わないだろう。



 武器という武器は正直、ラフィー以外いないので、そのまま手を上げる。



 そして俺は、無抵抗だ、と言わんばかりににこやかに対応する。



 こういう時は、笑顔で答えるのが1番警戒心を和らげる上で有効だと思ったからだ。



「申し訳ありません、自分は旅のものでして、サイオスという方に用がありましてここに参りました」



 俺の言葉と態度に、エルフ達がざわざわとなる。



「サイオス様に用とは、確かだろうな?」



 俺の眼前で対峙していたエルフの男性が、弓を下ろさずに訊ねてくる。



 まだ警戒体制はとかないようだ。



「おい、人間なんかの言うことを信じる気か?」



「そうだぞ! こんな怪しいヤツ信じられるか!」



 後ろではこちらを鋭い視線で睨みつけるエルフが叫んでいた。



 しかし、俺と話しているエルフは冷静で。



「しかし、こいつは精霊を連れている。 この精霊は恐らく姫の契約精霊だろう」



 俺はその言葉に首を捻りつつも、話にあわせるように丁寧な口調で身振り手振りを行使して事情を説明する。



「実は、サイオス殿に会合を願うべくレイアースへ向かっていた道中にこの精霊を見つけ、恐らくエルフの国の精霊だろうと思い、ついでに連れて参りました」



 これでどうだ、と言うように彼の瞳をのぞき込んだ。



 しかし、彼は慎重にさらに探りを入れてくる。



「事情はわかった。 だが、国境を無断で越えたことに変わりはない。 そこはどう説明する気だ?」



 俺はこの鋭い質問にやや腰が引け、面をくらいそうになったが、すぐに同じような調子に戻り応えた。



「侵入するという気はなかったのですが、何せ門も出迎えもなかったもので、こうした形で越えれば、あなた方のような者達が現れると思ったのです。 お騒がせしたことは本当に申し訳ありませんでした」



 俺は深々と頭を下げた。



 もちろん、言っていることはほとんどがでまかせだ。



 すべてはその場しのぎの言い訳でしかなかった。



 しかし、こうして初めから下手に出ていれば、軽はずみにに攻撃することは無いだろう。



 それに彼らはサイオスに敬称をつけているところを鑑みると、恐らく俺がサイオスに用があるという時点で放っておくにはいかない事案のはずだ。



 この憶測はほぼ確信に近かったが、さてどうかと、俺はゴクリと唾を飲み、もう1度彼に視線を送る。



 すると降参するように、溜息を漏らし「ついてこい」と弓を下ろし背を向けて歩き出した。



 ほかのエルフはまだ腑に落ちないようで、道中は何度も睨まれた。



 隣ではラフィーが俺のいつもと違った態度に驚きを隠せないように目を丸くしていた。



 俺は彼女に向かって「どうだ?」と悪戯っ子のように片目を閉じてみせた。



 するとラフィーはくすくすと愉快そうに微笑した。



 エルフ達に着いていく途中でもピィはラフィーを相当気に入ったのか、一向に手のひらから動こうとはしなかった。



 こうして、少し危なげな場面もありながらも、エルフの国のレイアースへの旅は佳境を迎えた。







第19話、第41話を加筆修正しましたので宜しければ読み直してみてください。

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