第45話 辺境の森
ついに第7章が始まりました。
第7章も引き続きお楽しみください。
レイアース辺境の小さな町、サナンで俺たちは一泊した。
翌日にはレイアースの国境へ向けて、出立する。
レイアースとロッドハンス王国を隔てる国境は深い森の中にある河川である。
俺たちは町を出ると、程なくしてその森の中へと入っていった。
深い深い森林、心地よい木漏れ日がじめじめとした地を優しく照らす。
草木の匂いは鼻をくすぐり、時折吹く少し冷たい風はとても気持ちが良い。
なんていい環境なのだろうかと瞑目してその感覚を味わっていると、不意に隣を歩く少女が話しかけてきた。
「マスター、あとどのくらいなのでしょう」
俺はその質問に答えるべく懐に手を伸ばし、ミルザの地図を開いた。
そして現在地点と思われる場所を指で示しながら、ラフィーが見やすいように近づけて言った。
「今、ここら辺だから、あと1時間くらいで河川が見えてくるはずだ」
「ありがとうございます」
そして、地図を閉じ懐に戻そうとした時だった。
がさがさと茂みが小さく揺れ、その部分から絢爛とした明かりがまるで風船のようにふわふわと茂みから宙に浮くように顔を出した。
俺は警戒を強め、ラフィーにこっそりと「準備しておけ」と呟きかけた。
ラフィーはそれに従うように小さく頷くといつでも武装化できる状態に構える。
光はゆっくりとその全貌を明らかにしていき、全て出てきたところで、その揺光は小さくなっていく。
その妖光の中を慎重になって覗いていると、そこには初めて見る生物が現れた。
「ピィィ〜」
まるで小鳥のようなその生物は、愛らしい鳴き声で鳴きながら、大きく羽を広げる。
「とり?」と俺は間の抜けたような声が漏れる。
俺は、そんな無邪気な姿に、つい警戒心が緩んでしまった。
「ラフィー、あれはなんて言う生き物だ?」
俺がそう訊ね、ラフィーの方を見やると、そこにはすでに完全に警戒心をとき、それどころか目をキラキラさせて、まるでときめくように、その不思議な生き物を見つめていた。
「かわいいです!」
「たしかに可愛らしいが、まだ警戒を解かないほうが……」
俺がその謎の生き物に向かっていったラフィーを止めるように後ろから声をかけるが。
「大丈夫ですよ。 この子は危なくないです」
「本当にか」と不安気に呟き、逡巡の残るまま手招きしてくるラフィーの方へ恐る恐る近く。
「それで、こいつはいったいなんなんだ?」
「この子は精霊さんですね。 それもまだ子供の」
「精霊って、あの精霊族のことか?」
「そうです。 それも滅多に見ることがない、精霊の子供ですね」
俺はたまげたと言わんばかりに目を見張って、その精霊を手のひらにのせるラフィーを見る。
そもそも精霊族とはほとんど姿を見ることはできないと言われる種族だ。
どこに住んでいるのかも、どんな生き物であるかと言うことも基本的に漠然とした情報しかない。
その精霊族の子供が目の前にいるということは、とてもではないが信じられなかった。
俺が呆然とたっているとラフィーは「でも」と手のひらの小さな精霊を見つめながら呟いた。
「普通精霊はひとりでいることは滅多にないはずです」
「どういうことだ?」
「精霊は普段、他の精霊と群れでいるか、魔力を供給してくれる主人と一緒にいるはず」
俺はそれを聞いて、なにかを思い出したように顎を撫でた。
必死に記憶の中を探しているとそれらしい情報が見つかり、無意識に声に出した。
「そういえば聞いたことがあるな。 精霊は、契約して主人から魔力を供給されないと生きられないって」
「その通りです。 だから他に精霊が近くにいないというところを見ると、おそらく契約者がいるはずです」
「契約者、か。 それならレイアースにいるんじゃないか?」
「たしかに。 エルフは魔力の高い種族ですから、精霊を従えていてもおかしくはないですね」
精霊はラフィーの手のひらで「ピィ?」と不思議そうに俺たちの会話を聞いていた。
「呑気なやつだな」と俺は苦笑いしながら精霊を眺めて呟いた。
「まぁ、やることは決まったな」
俺の言葉に「はい!」とにこやかに答えたラフィーを見て、俺たちは迷子の精霊の主人を探すという目標を追加して、再びレイアースに向かって歩き始めた。
第45話、最後まで読んでくださりありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。




