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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第6章 〜エルフの国へ〜
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第43話 ひと時の休暇

 



 俺たちは朝食をかきこむように食べ、宿を後にした。



 食事の味も問題なく、10段階評価するなら7くらいのいい宿だったと思った。



 今日はここから2日かけて王都へ向かう。



 初日は街道をひたすら歩いた。



 気の遠くなるような距離の街道を、ラフィーと話しながら進んで行く。



 ラフィーとの会話はやはり楽しいもので、時間も忘れて笑いあっていた。



 そのうちに日も暮れて、見晴らしもよく、魔獣に襲われることもなさそうな草原で野営する。



 一応『気配感知』は発動させておくが、おそらくこのスキルが働くことは今回はないだろう。



 そう考えながら火を見つめていると、ラフィーが不意に話しかけてきた。



「マスターマスター、明日は王都に行くんですよね?」



「ああ、多分明日の昼頃には着くと思う」



「だったら、あたし、お菓子っていうのを食べてみたいです!」



 ラフィーは目を輝かせて、グッと顔を近づけて言ってくる。



 俺はすこし考えるそぶりを見せ、頷いて言った。



「そうだなぁ、まぁ、明日は王都に着いたらそのままそこに泊るつもりだから」



 明日は、半日ほどで王都に着くと予想されるので、時間はたっぷりとある。



 俺も王都は初めて行くし、思わぬ臨時収入もあったことなので、ラフィーと一緒に観光もいいかと思った。



「そうだな。 明日は王都観光して行くか」



 そう提案した次の瞬間にはラフィーはよろこびを体の動きにまでこぼして、万歳していた。



 その慶賀に堪えられないように胸を躍らせているラフィーを見ていると、俺も王都観光がいっそう楽しみになった。



 こうして今日が終わり、明日も何事もなく王都に着いた。



 やはり王都というだけあって、警備が厳重だな、と門前にいる衛兵の数を見て思った。



 さらに入都しようとする人が並んでいるところを見ると、荷物検査や通行税の支払いなどもあるのだろう。



 俺は渋々その列に並んだ。



 人混みは苦手なのだが、まさか王都にこっそり侵入するわけにもいかないだろう。



 やはり目立ちたくはないのでラフィーには剣の姿になってもらっていた。



 そして1時間ほど経過し、ついに俺の番がやってきた。



「旅の人かい? 念のためそのリュックの中身を見せてもらうよ」



 俺は言われた通りに担いでいたリュックを差し出した。



 何かやばそうなものが入っていなかったか、リュックの中を思い出そうとしていると、衛兵がいきなり声を上げた。



「こ、この素材は、一体なんだ!?」



 目を丸くして慌てふためきながらそう言った衛兵に対して、何食わぬ顔でそれに答えた。



「それは魔獣の毛皮と牙ですね」



 俺がそう言うとさらに驚愕の色を濃くした表情で聞き返してきた。



「今、なんと」



 聞こえなかったのかと思い、俺はもう一度言った。



「だから、魔獣の素材です。 これは吸血狼(ブラッディウルフ)の毛皮と牙だと思います……って聞いてますか?」



 白目を向き、口が塞がらないまま立ち尽くしていた衛兵に声をかけるが、返事が来たのは聞いてから1分後のことだった。



「──はっ! 本当に本物か?」



 唖然としていた衛兵の口がようやく塞がり、体を震わせてそう聞いてくる。



「はい、本物だと思いますが?」



 それを聞くと、衛兵は俺の肩をガシッと掴み忠告するように言ってきた。



「どうやって手に入れかは分からないが、王都ではあまりそれを出さないように」



「まぁ、見せびらかせるようなものでもないのでしませんが、何故ですか?」



 街の方をチラチラと見ながらこそっと答える。



「そんな高価なものを人前に出せば、強奪されるか、最悪、殺されかねない。 用心したまえ」



 血走った目でそう忠告してきた衛兵に対して俺は気後れしつつも「分かりました」と頷いた。



 そして、通行税の銅貨20枚を支払い、ややあってようやく入都することが出来た。



 1時間半も立たされっぱなしで、さらにここまで来るのに歩いた時の疲労が一気におしよせてきた。



 しかし、ため息をつく俺の隣では、既に武装化を解いて人の姿になったラフィーが疲労の色など一切見えないほくほく顔で元気そうに歩いている。



「はは、ラフィーは元気そうだな。 俺は……ちょっと疲れたよ」



 ラフィーはそんな俺を心配そうに見上げると気遣わしげな面持ちになった。



「大丈夫ですか、マスター? 大変なら今すぐにでも宿へ行きましょう」



 俺は疲労が押し寄せる中でも無理やり強がって笑顔をつくって言った。



 せっかくラフィーが楽しみにしていた観光を俺のせいで台無しにする訳にはいかない、と思って。



「ラフィーのこと見てたら大丈夫になったよ。 さぁ、観光しよう」



 事実、彼女の明るい笑顔は俺をいつも勇気づけ、支えて、元気をくれる。



 ラフィーまだ不安の色を残していたが、俺の気持ちをくみ取ってくれたのかそれ以上は何も言わずに、微笑んで頷いた。



 そのあとは、実際に疲れが吹き飛ぶほど楽しかった。



 ラフィーもだんだんと気持ちが元通りになっていき、心底楽しそうに俺の隣を歩いていた。



 まだ行っていない場所も多かったが、1番規模が大きいと言われる繁華街を一通り回り終えると、既に日は沈もうとしていた。



 幸い、入都した時に王都の地図のようなものを衛兵に貰っていたので、宿にも迷わずに行けた。



 1人分の宿をとると俺達は部屋でお菓子パーティーに興じた。



 俺は内心で「今日だけだな」と苦笑いしながら呟くが、ラフィーは念願のお菓子に夢中だった。



 こうしていつの間にか2人して死んだように眠りこけ、翌日を迎えた。








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