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第4話 理不尽の惨劇①

今回はちょっと長めです。

追憶の場面なので、伏線がメインですが、最後まで読んでいってくれると嬉しいです。

 


 それは高校に入学したばかりの出来事だった。



 俺はいつものように放課後に一人で勉強していた。



 基本的に社交性がなかったため、部活などにも入らずただただ自分の将来だけを考えて、ひたすら勉学に勤しんだ。



 なにせ家に帰っても飼っていたペットの猫くらいしかいなく、人と接する機会が少ないのだ。


 社交性というのはその人の性格にも依存するだろうが、基本的に家族との接し方、育てられ方でついてくるのだと思う。


 警察官だった父は俺が7歳の頃に殉職し、父が亡くなる前から疎遠だった母とは、葬式以来顔を合わせていない。


 その日の放課後、少し長引きすぎて時計の針は20時を回ろうとしていた。



「もう、こんな時間か……。 帰るか」



 寂しくないなんて言えない。


 家に帰っても1人だなんて慣れているとは言ってもやはり寂しいものだ。


 人と接したい、誰かと遊びたい。


 勉強しているのは寂しさを紛らわすためというのが本音だった。



 俺は暗く静かな家に帰ることに溜息をついて、勉強道具を片付けた。



 とぼとぼと暗い廊下を進んでいく。



 その途中、明かりのついている場所が視界に入った。



(まだ誰かいるのか?)



 この時間帯は生徒は完全下校しているはずだ。


 仮に部活が長引いていたとしても、この時間帯にいるはずがない。


 かく言う俺も学校の事務員に「もう全員帰ったから君も帰りなさい」と言われてようやく、荷物をまとめたというのに。


 明かりの方に引き寄せられるように俺は近づいた。


 どうやらここは女子トイレのようだ。



 だが、校内施設の電気は全て消えているはず。



 学校に残っているのは、多分、今事務室に鍵を取りに行ったあの事務員だけだろう。



 (電気の消し忘れか?)



 そんな風に、訝しげに頭を捻っていた時、



「ほら、これでも飲んでみろよ!」



「うぐぅッ!」



 突然中から女子生徒の声が二人分聞こえた。



 その後にも別の声が二人分。



 三人分は心底楽しそうに、何かをいたぶっているような声。



 一人分はもがき苦しむような声。



(おいおい、まじかよ……!?)



 俺は中の様子をある程度想像してみて、はっとなった。



 そして、気づいた時には、俺は既に女子トイレの中へ侵入していた。



 ここだけ見ればただの不審者だな、などと苦笑したが、それも束の間。

 次の瞬間には俺の表情は驚愕へと変貌する。



「───っ!」



 眼前に映った予想以上に惨い光景に俺は唖然と目をと見開いた。


 一瞬、息が詰まるような感覚さえ覚える。



「……あんた何?」



 そこにいた女子生徒が鋭い眼光を向けて俺のことを睨んでくる。




 その迫力と剣幕に俺は思わずあとずさった。



 そこにあったのは、3人の女生徒が1人の女生徒をトイレで虐めているという現場だった。


 まさかとは思ったが、本当にこんなことが行われているとは。



「お、俺は今帰るとこだったんだけど、ここからすごい声がしたから大丈夫かな、と思って」



 足がすくむ、声が震える。


 なんだこの威圧感、まるで『見たからにはただじゃすまさんぞ』と言っているような鋭い視線。



「だから何? 勝手に女子トイレに入ってきたの?お前やばすぎ、マジきもい」



「それは……」



 俺は反論する余地がなかった。


 確かに勝手に女子トイレに入るのは正直ありえない。



 けれどこんな光景を見てしまえば自分の方に正当性があるのは一目瞭然だった。



「その後ろの子、大丈夫なのか?」


「ゴホッ、げぇー」と苦しそうに這いだしてきた女生徒を指さして尋ねる。



「はぁっ? あんたに関係ないでしょうが! ていうかヒーローきどり? あはっ、それとも、もしかしてこいつの彼氏だったり?」



 紛れもない嘲笑を浮かべて俺と足元にいる女生徒を順番に指さす。



「それこそ関係ないだろ! とにかくこれは絶対、問題行為だ」



 こいつらの言動にだんだん腹が立ってくる。


 なぜに足元に悶えて苦しむ人がいるのにそんなに平気で笑っていられるのか。



「とにかくこれは直ぐに問題として学校側に報告する! お前らがしてることがどんなことなのかきっと分かるだろう」



 俺は脅したつもりだったのだが、彼女らは自信ありげに不敵な笑みを浮かべて。



「それで脅してるつもり? ははっ! 痛い目見るのはあんたの方だってーの」



 どこにそんな自信があるのか、俺は理解不能だった。



 まぁとにかく明日になれば決着が着くはずだ。



「とにかく、そこの子を離せ。 じゃないと無理矢理にでもとめる」



「別に言われんでもこんなブス女、いらねぇよ」



 そう言って道を開けてきた。



 俺は苦しむ女生徒に手を差し伸べ「大丈夫か?」と声をかけたが、彼女は俺と目を合わせることも無く、逃げていった。



「あんなブス女にまで振られるなんて、さすがヒーローきどりのキモ男ね」



 俺はその言葉を背にトイレから脱出し、そのまま帰宅した。



「どうして、逃げたんだ?」



 俺は帰路の中考えていた。



 しかし、そんなことよりも俺は今日の自分に浸っていた。



 誰かの役に立てたかもしれない、と。



 父親の影響か、誰かを助けたいなんて柄にもないことをしてしまった。



 けれど後悔はしていなかった。



 ただこの時の俺はまだ気づいていなかった。



 虐めていた女子生徒が言ったある言葉の意味を……




追憶なので、異世界のシーンがありませんでしたが、次からまた異世界の場面に戻るので、また読んでいってください。

読んでくださった方、コメントやブックマーク引き続き待っております。

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