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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第6章 〜エルフの国へ〜
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第41話 欠けそうになったもの

 



 俺はまるで、信じられないものを見てしまったかのように塞がずの口のまま、呆然とし、少しの怒りがまじった吐息を吐いた。



 あんなにも従順で俺の味方だと言ってくれたあのラフィーが首を横に振るなんて信じられなかった。



「───なんでだ? お前も俺を裏切るのか!」



 俺はつい頭に血が上り、怒鳴りつけてしまった。



 ラフィーは静かに瞑目し、悲しそうに呟く。



「あたしは永遠にマスターの味方です。 それはあたしがマスターを好いているからです。 ですが、あたしが剣になれば、マスターはあたしの好きなマスターではなくなってしまいます」



 俺は彼女が何を言っているのか理解できなかった。



 否、彼女が言っていることを理解できないほど俺の心は変貌しつつあったのだ。



 目の前で悲鳴を上げている男を見下ろした後、呆然と佇む俺を見つめながらラフィーは続ける。



「この賊どもは既に戦えず、戦意も、抵抗力も喪失しています。 殺す必要はありません」



「だけどっ……こいつらはお前を!」



 俺はそう言いながら、再び彼らを睨みつける。



「あたしは気にしていません。 マスターが、あたしのことを大切にしてくれているということが分かったので」



「そうだ、大切だ。 だから───」



「それでも、ここで斬ってしまえば、マスターはもう戻れなくなってしまう!」



 今まで穏やかな口調で話していたラフィーが初めて声を少しばかり荒立たせ、唇を震わせた。



 そしてその言葉でようやく気づいた。



 あの時ラフィーが何を心配してくれていたのかを。



「このままじゃ、あの人も悲しみますよ」



 俺は、はっと我に返って呆然としていた。



 押し寄せてきたのは漠然とした喪失感だった。



 俺は失いかけていたものを手繰り寄せるように手を開閉させる。



「俺は、なんで、人を殺すのになんの躊躇いもなかったんだ……」



 相手は最低最悪の下衆である賊どもだ。



 だが、同じ人間であることに変わりはない。



 その人間を俺は殺そうとしたのだ、平和を願ったミルザの願いを受け継ぎながら。



 数分前の自分の言動を振り返り、不思議に思うのと同時に後悔した。



 誤ってしまう所だったと。



 ミルザを、あの大切な人を裏切ってしまうところだった、と。



 それに神父の時のように今回はまるで自制心も働かなかった。



「なぁ、ラフィー、俺は人として大事なもんが抜けちまったんじゃないか?」



 俺は唖然とした表情で、消えそうな声で縋るように訊ねかけた。



 すると声を震わせていたラフィーが急に穏やかに、いつもの調子で微笑んだ。



「でも、抜け落ちてしまう前に、マスターは手繰り寄せました。 自分でも気づいているでしょう?」



「けど、俺は、人を……」



 俺は自分を軽蔑するようにつぶやく。



「殺していませんよ。 そして今、後悔できているのなら、マスターはあたしの好きなマスターです」



「軽蔑しないのか?」



「マスターが本気で殺そうと思っていたのなら、あたしは剣になっていたでしょう。 もしそうなっていたら軽蔑していましたね」



「はは、そう正直に言われるとグサッとくるよ」



 彼女のストレートな言葉に俺は苦笑いする。



「けれどマスターが本気でそうしない人だと信じていましたから。 きっと戻れるって」



「今の俺は、お前のマスターに相応しいかな?」



 俺はラフィーの目を覗きながら、恐る恐る訊ねたが。



「当然です!」



 ラフィーが即答したことに驚き気後れするが、俺は安堵に胸をなでおろした。



 もしここで彼女に見放されても俺は何も文句が言える立場ではなかったからだ。



 そして俺は沈黙をのりきり、ラフィーに笑いかけ感謝を言葉にする。



「ありがとう……」



 そう言うと、ラフィーは満面の笑みを浮かべて言った。



「はい! やっぱりマスターは笑ってる顔が1番素敵です!」



 そしてもう一度俺はラフィーに頭を下げた。



 こんな俺を2度も救いあげてくれてありがとう、と。



 彼女がいてくれなければ、俺はきっともう戻ってこれず、ミルザの願いを成就させることも叶わなかっただろう。



 俺が頭をあげると、物欲しそうにラフィーが言った。



「ところで、ですね……」



 体をもじもじとさせながら遠慮がちに口ごもった。



 その態度に首を傾げつつ「どうした?」と訊ねてみると頬を薄く染めて恥ずかしそうに小さく呟いた。



「その……お願いがあるのです」



「お願い? 叶えられる範囲ならなんでも叶えてやる。 ご褒美みたいなもんだ」



 俺はラフィーの言葉を復唱するように聞き返し彼女がコクッと小さく頷くのを見て、胸を叩いてそう言った。



 するとラフィーは花の咲いたようにぱぁっと笑顔になって。



「本当ですか!? それでは、あの、頭を撫でてもらえないでしょうか?」



 そう言って頭を差し出してきたので、俺は「そんなことでいいのか?」と首を傾げて反問すると。



「そんなことがいいんですよ」



 俺は躊躇わず「わかった」と薄く微笑んでラフィーのふんわりとした頭に手をおいてゆっくりと優しく撫でてやる。



 昔飼い猫を撫でていた感覚を不意に思い出し、ついつい頬が緩む。



 俺が撫でているとラフィーも満足げに喉を鳴らし目を細めていた。















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