第40話 ラフィーの忠告
全部合わせて10人のいかにも柄の悪そうな男どもが狭い路地を塞ぎ、俺達を囲んでいた。
その眼光に宿る光は全てが劣悪なもので見るに堪えない。
「運が悪かったな、にいちゃん。 さ、荷物を全部置いてってもらうおうか?」
全く俺は運にまでも見放されているというのか。
たまたま通りかかった男に道案内をお願いしただけだぞ。
それがこの有り様だ。
本当に自分の運命に嘆きたくなる。
その嘆きを露わにするかのように、俺はもう一度、大きくため息をついた。
そして頭を掻きむしりながら、目の前の男に提案する。
「なぁ、ここは見逃しとけ。 痛い目見たくないだろ?」
先程の溜息の上に、気だるげに言った俺の態度が重なり、男達は顔を真っ赤にして腹を立てた。
「てめぇ、そんなこと言ってていいのか?」
「事実を言ったまでだ。 もし襲ってくるなら、全力で抵抗させてもらう」
そう言い返すと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
まるで絶対的に有利であると自信があるように。
まあ、客観的に見れば、あきらかに俺の方が不利だ。
だが、やつが浮かべた自信は、数の差に依るものでは無いように見えた。
「俺は『鑑定眼』って便利なスキルを持っててなぁ、にいちゃんの天職がまるみえってぇわけだ」
俺はこれを聞いて、なるほど、と理解した。
「天職が空欄だった時は驚き呆れたけどよぉ、にいちゃんがでけぇリュック持てるから、何かありそうな気がしてなぁ。 そんでこうなってるってわけ」
「────」
俺は『鑑定眼』のスキルを発動し、奴らのステータスをのぞく。
集中すれば、1回の鑑定眼スキルの使用で、10人くらいなら確認出来る。
平均30レベルってとこか。
見たところ天職も戦士や格闘家など、明らかに戦闘職で固めているようだ。
しかもこの鑑定眼持ちは『上級魔術師』のようだ。
「怖くて言葉も出ねぇみたいだな。 さぁ、さっさとその荷物を置いてきな、そうすれば命まではとらねぇよ。 それとそこの女も置いてけ」
俺は最後の言葉で理性が働かなくなった。
奴らが10歳程度の少女をどうしようとしているのか、その卑劣で汚らわしい眼光を見れば1発で分かる。
「ラフィーをおいていけだと────?」
俺は奴らを睨みつけながらそう呟く。
「少し幼すぎるが、きっと上物になるぜぇ。 へへっ」
その汚らわしい眼差しでラフィーを、俺の相棒を見るんじゃない。
ラフィーは彼らを鋭い眼光で睨みつけていたが、俺が彼女の手をぎゅっと握ると、こちらに向き直り小さく頷いた。
「お前らは1つ見落としていることがある」
俺は最後の忠告だと言わんばかりの冷たい口調で告げた。
「あぁ? 何を今更、時間かせぎでもするつもり─────」
こんな下郎共、スキルなしでも十分勝てる。
「それは、俺のレベルとステータスだ!」
いきなり目の前に現れた俺を見て、やつは驚愕して目を見開いた。
瞬間、俺はやつの横っ面を殴りつけた。
すると悲鳴すらも聞こえる間もなく、この路地を挟んでいた建物の壁に勢いよくぶつかる。 脳震盪を起こしたのか、白目を向きその場へ糸の切れたマリオネットのようにくしゃりと倒れる。
それを見て、あわてて襲いかかる男衆を片っ端から薙ぎ払い、蹴散らしていく。
レベルとステータスの差は人数だけでは埋まらなかったようだ。
それに最初に潰したのが恐らくレベルやステータス的にもこいつらの頭だったと考えて間違いないだろう。
頭を潰され明らかに動きが緩慢になっていた彼らを全て地に倒すのには、5分もいらなかった。
「ラフィー、剣になってくれ。 こいつらを斬る」
俺がそういうとまだ意識残っていた一味の1人が「ひぃっ!」と軟弱な悲鳴をあげる。
しかし、ラフィーは首を横に振った。
「今は、そのお願いには、従えません」
俺はそんなラフィーの予想外の言葉に唖然と立ち尽くしていた。




