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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第6章 〜エルフの国へ〜
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第36話 美味しい

 




 俺は大きなリュックを地におろし、疲れたように溜息をついて手頃な岩に腰掛けた。



「お疲れですね」



「ああ、なんか久しぶりに誰かと会話して、結構疲れたみたいだ」



 俺は苦笑しながら言った。



 なにせ、およそ2年ぶりに誰かと話したのだ。



 疲れてしまうのも無理はないだろう。



 だが、その疲れというものは気だるさなどではなく、むしろ楽しさからくる、爽快的な疲れだった。



 ふっと一息つくと、俺はリュックの中から、大獅子の干し肉を取り出した。



 これは保存用にいくつかストックしてあったものだ。



 旅に出るにあたっては非常食は必ず必要になるからだ。



 取り出した干し肉に俺は豪快にかぶりつく。



 すこし硬いが、肉の旨味がぎゅっと凝縮されており、噛むたびに味が口の中に広がっていく。



 なんだがビーフジャーキーを食べているような気分だった。



 俺が満足そうに干し肉を頬張る姿をラフィーは興味ありげに眺めて。



「ねぇねぇマスター、それ美味しい?」



 相当興味津々なのか、ラフィーはまるで犬がおやつを待つかのように干し肉を見つめる。



「まぁ、美味しいけど。 ラフィーも食うか?」



 そう、俺はこともなげに返すと、ラフィーはぶんぶんと首を強く縦に振った。



 そしてリュックをの中から余っている干し肉を取り出し渡すが。



「そういえば、そもそも天使に食事って必要なのか?」



 俺はふと、そう訊ねていた。



 勝手なイメージなのかもしれないが、少なくとも俺が知っている、物語に出てくる天使なんかは食事を必要としていなかった。



 そもそも腹が減るという概念が存在するのかどうか。



 俺のそんな考えに答えるようにラフィーはこともなげに微笑んで言った。



「んー、わかりません。 でも……マスターが美味しいというものを一緒に食べてみたいんです」



 俺はそんなラフィーの返事に思わず言葉を失ってしまった。



 ここまで従順なのはかえって怪しくもあったが、彼女のこんなにも純粋な笑顔の裏になにかあるようには、もう決して見えることはないだろう。



 俺が予想外の言葉にドギマギしている間にも、ラフィーは俺が手渡した干し肉を頬張っていた。



「なんだか不思議な感じですけど、これが美味しいということなんでしょうか……マスター?」



 いつのまにか俺の懐にはいっていたラフィーが下から問いかけてくる。



 それに驚き、ようやく我にかえった俺は動揺しながら反問した。



「あ、あぁ、不思議な感じってどんな感じなんだ?」



「なんといいましょうか、こう、食べていると、うれしいーって感じですかね」



「それなら、それが美味しいってことだよ」



「これが、美味しい……マスター、美味しいです!」



「それならよかった。 ただの干し肉だったんだけどね」



「誰かと、美味しいするのってとてもいいです!」



 んー、美味しいする、というのはすこし言葉が間違っている気がする、なんて思ったが、それは口にはしなかった。



 こんなにも楽しそうにただの干し肉を頬張っているラフィーを眺めていればそんな野暮な言葉は決して言えない。



「俺も、ラフィーと一緒に美味しい……ができて楽しいよ」



 俺は苦笑いしながら、ラフィーらしい可愛い言い間違いの言葉遣いで言った。



 そして、やっぱり誰かと食事をするのはとてもいいものだなぁと懐かしむように、心底嬉しそうにするラフィーを眺めていた。



 そうこうしているうちに、満腹になったせいか、凄まじい眠気が押し寄せてきた。



「そろそろ寝るか」と俺はラフィーに問いかけると、もうすでにラフィーの瞼は重力に負けるようにゆっくりと落ちかかってきていた。



「天使でも眠くなるんだな」



 今にも意識が落ちそうなラフィーは、うつらうつらした声音で答えた。



「天使もぉ、眠くなるんですよぉ」



 寝るときはどのように寝るのだろうかと、興味深く眺めていると、ラフィーはついに眠りに落ちた。



 その時驚いたのは、今まで煌々と頭の上に浮かんでいたあの不思議な輪と、堂々と背中に生やしていた白い羽がどこへ行ってしまったのか、その場所からなくなっていたのだ。



 ラフィーはすぅーすぅーと小さな寝息をたてながら腰掛けた岩で眠っていた。



 俺はラフィーを起こさないようにゆっくりと抱き上げ、用意しておいたテントの中に横たわらせ、毛布をかけた。



 ちなみにテントなどのキャンプグッズはミルザからもらったものをアイテムボックスに入れておいたものだ。



 そしてテントから出て、火を見るように岩に腰掛けた。



「あぁ、つかれたぁ」



 そして、そう呟きながら星が煌めく夜空を仰いだ。



「ミルザさん、始まりましたよ……」



 どこかであの人が薄く微笑んだ気がした。






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