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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第6章 〜エルフの国へ〜
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第35話 ラフィー

 



 そして旅は続く。



 ただ止まりながら話していても効率は悪い。



 こうしている間にも早くエルフの国へ向かわなければ。



 時間は決して無限ではない。



 時計の針は待てと言っても待つわけもない。



 話すのは移動しながらでもできることだ。



 1秒も無駄にできない、1秒でも多く鍛錬しろ、少しでも自分を磨け。



 というわけで、旅の道中、俺はラフィーとの会話は繰り広げられていた。




「なぁ、なんで、あのタイミングで出てきたんだ?」



 俺は剣から天使の姿に変わった時のことを想起させる。



 もし、あの剣に転生していたのだとしたら、もっと早く顕現できていたのではないかと思うからだ。



 俺のそんな質問にラフィーは「だってー」と顔を顰めた。


「あたし地下は嫌いなんです」



「つまり地下ではこの姿になれなかった、と?」



 俺が反問すると、ラフィーは「はい」と頷いた。



 なるほど、天使は地下が苦手なのか、と俺はメモ帳に几帳面に書き込んだ。



 その行動をラフィーは不思議そうに眺めて「何してるんですか?」と訊ねてくる。



「ああ、これはメモしているんだよ。 ミルザさんが言ってたんだよ『新しいことを知ったらまずは記録するのさ』ってね」



 俺は彼女の真似をするような口調で説明した。



 メモは大切だ、知識を記録することは基本中の基本だと、師であるミルザにさんざん叩き込まれた。



 戦う時には、その場の状況、相手の性格、そして知識が最も重要だ。



 俺の懐かしいものを思い出すような表情を見て。



「そうだったんですね。 確かにあの人らしいです」



 ラフィーはそう呟きながら、俺と同じく、感慨に耽っているような面持ちで言った。



 そして、俺は「ところでさ」ときりだし、話を切り替えた。



「ラフィーは剣になる以外は何ができるんだ?」



 これは俺がもっとも知りたかったことの1つだ。



 彼女に何が出来るかによって、これからの方策は変わってくる。



 天使というからには、なにかあるに違いない、とかなりの期待を寄せて訊ねたのだが、返ってきた答えは耳を疑うものだった。



 ラフィーは俺の質問を聞くと、ピタッと体を凍りつかせた。



 明らかに不自然な様子だった。



 目は泳ぎ、額からは何滴もの汗が滴り落ちる。



 俺は、嫌な予感しかしなかった。



「まさか、お前……」



 俺は懸念と不安をもちあわせ、恐る恐る訊ねた。



 この嫌な予感が杞憂であることを願って。



 だが、そんな願いが叶うことは無かった。



「じ、実は、あたし剣になれるということ以外、覚えてないんです、よね……」



 ラフィーはあさっての方向を向き、目を逸らしながら小さな声で言った。



「え、覚えていないって……まさか、剣になる以外できないってこと、か!?」



「そ、そういうことになります、ね」



 そんな返事に、呆然となり、俺は肩をがくりと落とした。


 ラフィーはその後も、もじもじとしながら話す。



「だって、あたし、生まれてまもない天使でして、その、まだまだあやふやなことが多々あるんです」



 聞けば聞くほど、それは俺の期待していたものを全て裏切っていく。



 俺は、果たしてどうしたものか、頭を抱えた。



 何しろ期待が大きかった分、焦燥感とまでは行かないが、開いた口が塞がらなかった。



 しかし、別にラフィーが悪いわけでもないので決して責めはしないが、それでもやはりショックであったことに変わりはない。



「あの……ごめんなさい!」



 ラフィーはそんな俺の様子を見て、頭を下げてくる。



 きっと叱られると思っているのだろう。



 あの時「最強の相棒です!」なんて言ってしまっていたために、どうしようもなくいたたまれなくなっているのは見ていればわかった。



「いや、別にラフィーは悪くない。 だから謝らなくていいんだ。 ただ、どうしたものかって思っただけだ」



 俺は今にも泣きだしそうなラフィーを慰めるように返す。



 天使だが、見た目相応な1面もあるようだ。



 するとラフィーは、もの思わしげな表情で言った。



「役立たずのあたしでも、捨てませんか……?」



「そんなことするはずないだろ? ラフィーは大切な相棒だからな」



 俺はこれ以上心配させないようにと、優しく微笑んで言う。



 別にただ使えそうだったからなんて軽はずみな気持ちでラフィーを仲間にしたつもりは毛頭ない。



 確かに期待がなかったと言えば嘘になるが、それでも俺はラフィーが本当に俺を信じてくれているのだと、そう思ったから仲間として受け入れたのだ。



 ならば、俺が彼女を捨てる理由など微塵もないことは明白だ。



 剣になれるなんてだけでも十分、俺に力を貸してくれているのだから。



 だから感謝こそすれど、捨てるなんてことはありえないのだ。



「ラフィーは役立たずなんかじゃないよ? むしろ、こんな俺についてきてくれてありがとう」



 俺がそう言って、優しく頭を撫でてやると、ついにラフィーは泣き出してしまった。



「ますたぁぁー……」



 こんな状況を「なんか俺、こいつのお守りしてるみたいだな」と分不相応にもそう思って、苦笑いした。



 この後、ラフィーが泣き止んでから、またいろいろと話し、新たに知ったことはメモしていった。



 別に絶大な力がなくとも、ラフィーから得られる情報は目新しいものばかりで、俺はこれだけでも十分満足だった。



 しかし、気になったのは、ラフィーは自分以外のことはとことん知っているという事だ。



 あれだけの知識があるのに自分自身のことはまるで把握していないようだった。



 あるいは、思い出せないのではなく、思い出せないようにされているのかもしれない、と思った。



 まぁとにかく今はラフィーの本来の力にはあまり期待できないというのが現状なため、俺自身がもっと強くなる必要がある。




「日が落ちましたね」



 ふいにラフィーが呟き、あたりを見回してみれば辺りは薄暗くなっていた。



 ラフィーとの会話がそれほど楽しかったのだろう、まるで気づかなかった。



 いつの間にか日は沈もうとしていたのだ。



 現在地点は地図を見る限り、カーロ村迂回ルートにある森の中だった。



 ここでの野営は危険だが、今無駄に動き回るのはもっと危険だ。



「こういう時はあのスキルを使ってみるか」



 俺は呟き、ステータスの中のあるスキルを発動させた。



『【固有スキル】気配感知:12時間の間、無意識に敵意を感知することができる。 クールタイム、24時間』



 初回使用なのでポイントは無料だ。



 これを使えば寝ていても、敵意が向けられた瞬間無意識にはね起きる事ができる。



 こうして俺達はこの危険な森の中で夜を明かすことにした。





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