表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/187

第29話 初めての戦闘

 



 次の日、俺とミルザは迷宮のクエスト区に入った。



 クエスト区とは、迷宮に存在する、魔獣が多く出現するスポットだ。



 かつて魔人族が魔獣の養殖に使っていたとか何とかで、スポーン魔法が組み込まれている区域だそうだ。



 そもそも迷宮は元はかなり以前の魔人族の集落だったと言われている。



 時代の流れにつれて、移り住んでいき、放棄された集落が迷宮ということだ。



「自信をつける修行って言っても、一体ここで何をするんですか?」



 俺は辺りを見回し、なんだか不吉な感覚を覚えていた。



 乾いたような靴音がより一層、辺りの不気味さを増している。



 俺のそんな問いに、松明をもったミルザが小さな声で言った。



「何をするって、レベルを上げるのさ」



「レベルを上げるってことは、まさか、戦えってことですか!?」



「ああ、そうさね。 初めは私が弱らせた魔獣にトドメを刺すだけでいい。 それより、ここではあまり音を立てない方がいい。 魔獣がうようよと潜んでいるからね」



 魔獣は物音に非常に敏感だ。



 こんな暗いところではたとえ松明(たいまつ)があっても、視界が悪いため、魔獣に気づかれて奇襲でもうければ一溜りもない。



 幸い、今はミルザが付いているため、その魔力に怯えて魔獣はあまり寄り付かないが。



 それでも警戒するに越したことはない。



 俺は「分かりました」とかなりボリュームをさげて言った。



 そして数10分ほど散策したところで、ついに魔獣が現れた。



 そいつは、どこかで見覚えのある黒い魔獣だった。



「あれは、黒狼(ダーク・ウルフ)?」



「そうみたいね。 でも前見たやつよりも2回りほど小柄な個体だよ」



「子供ってことですか?」



「あぁ、おそらくレベルもかなり低い黒狼だろう。 あれならあなたでも普通に倒せるさね」



「いやいや、無理ですって。 だいいち俺、実戦経験なんてほとんどないんですけど……」



 俺は首をぶんぶんと横に振った。

 例え弱い魔獣といえども、地球ではろくに虫も殺したことがないのに、いきなり狼を倒すなんて、ミルザが倒せると言っても、どうしても自分にできるとは思えない。



 それを見かねて、ミルザは溜息をつくと。



「んー、しょうがないねぇ。 私が魔法壁を展開しておくから、怪我することは絶対ないさね。 だから存分に戦っても大丈夫さ」



 そう言って、俺の周りに魔法壁を展開する。



 魔法壁は言わば魔力で作られた盾だ。



 攻撃を数回は防いでくれる。



 弱い魔獣くらいなら、10回はもつだろう。



 俺は少し不安感を覚えつつも、自分の師匠を信じて「分かりました」と少し力がない返事をした。



「それじゃぁ、まずはあなたのスキルを展開するさね」



 ミルザが後ろから言ってくる。



 俺と魔獣は6メートルほど間隔を開けて睨み合っている状態だ。



 鋭い眼光に足が震えながらも、俺はスキルを発動させる。



 感覚的に自分の持つスキルの情報をイメージするとひとりでに展開するという、とても便利なシステムだ。



 俺の持つスキル『瞬発力強化』『身体能力倍増』のうちから後者の方をイメージする。



『身体能力倍増:身体能力のステータスを30分間1倍~8倍に引き上げる。 倍率はランダム。 レベルに応じて高倍率の確率上昇』



 これをステータスプレートで確認した時は肩をがくりと落とした。



 俺は基本確実性のないものは不安で仕方がなくなる性格だ。



 こんな運で左右されるようなスキル、正直心配でならない。



 しかし、今はこれを発動させる他ないだろう。



 俺はこの情報をイメージし、体に魔力が流れていくのを感じる。



 そして視界の隅に小さく『3倍』という文字が見えた。



 ステータスプレートは自分の血を染み込ませることによって視界と共有することができる。



 視界の隅に現れるちいさなアイコンに意識を集中させれば、自ずとステータス画面を見ることができるという便利なシステムだ。



「3倍……まぁいいか」



 それを見て、スキルが発動したのを確認すると俺は腰の剣を握りしめてゆっくりと距離を縮めて行った。



 そしてやつが痺れを切らして俺に突進してくる。



 だがスキルの影響なのか、とても遅く感じる。



 俺は容易にその突進を避ける。



「いけそうだな」と小さく呟き、今度はこちらから仕掛ける。



 俺は全身に力を込め、自分の突進を簡単に躱され、動揺している黒狼との距離をぐっと詰める。



 そしてゼロ距離、完全に俺が接近することに気づくのが遅れ、慌てて避けようとする黒狼を腰の剣を抜き、ひゅっと音を立てて一振する。



 黒狼の首は胴体と切り離され、完璧に絶命した。



「本当に、できた……」



 俺は自分の手を開閉させて、呆然としていた。


 よもや自分がここまで出来るとは思ってもいなかったからだ。



 そんな俺をミルザは「いい感じね」と拍手をしている。



 俺はすぐに彼女の方へ駆け寄り「ありがとうございます」と礼を述べた。



「さぁ、つぎつぎいくよ!」



 それからも俺達の魔獣狩りは進んでいった。



 何度か高いレベルの魔獣と対峙したが、そのときはミルザの援護もあって、怪我もすることなく攻略して行った。



「こんなところさね」



 ミルザは最後の魔獣をアイテムボックスにしまうと、そう呟いた。



 あれから20匹ほど魔獣を討伐し、俺は多少の不安は残しつつもかなりの自信をつけていた。



 自分はそこまで無能ではないのだと、努力をすれば戦えるようにもなるのだと。



 付けておいた目印にそって、拠点へ戻る。



 ふぅっと、ひと息つたところで、ミルザが言った。



「ステータスを確認してみるといいさね。 一応私も見ておきたいから、魔版を展開してね」



 俺は言われた通りに、魔版からステータス画面を開いた。



 そこにはミルザも目を剥くほどの、目覚しい成長が数値として現れていた。




『ユウ・クラウス

 人種 Lv39

 天職 【 】

 スキル

 なし


 生命力─4130/4130


 体力─1510/1690


 攻撃力─1235/1235


 防御力─1010/1010


 MP─934/934


 SP─940/1340


 対魔力─1213/1213


 対物理力─1368/1368


 身体能力─1905/1905


【固有スキル】

 ・可能性⇩

 《瞬発力強化Lv.1》《身体能力倍増Lv.2》』






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ