第28話 自信
あの話を聞いてからというもの、俺はひたすら勉強に励んだ。
特に勉強が嫌いというわけではなかったが、それ以上にミルザの願いを叶えたいと強く思っていた。
アルマークさんの意志を受け継いだミルザの意志を今度は俺が受け継ぐんだ、と。
来る日も、来る日も俺は本棚の分厚い本を読み続けて、知識を蓄える。
様々な魔法の知識、世界の仕組み。
天職の種類、特性。
スキルの種類、特性、そして取得条件。
ミルザがもつありとあらゆる知識、叡智を自分の脳に叩き込む。
そしてついに1ヶ月がたとうとしていた時。
「よ、読み終わったぁ〜」
最後の1冊をバタンと閉じて俺はその場に寝転がった。
それを隣で見ていたミルザは目を丸くして驚嘆している。
「まさか、本当に1ヶ月足らずで全部読み終えてしまうなんてね。 たびたび抜き打ちでテストをやっても全問正解。 どんな記憶力してるの?」
たまにミルザから本についての問題が抜き打ちテストという形で出されたが、それはクイズみたいで楽しかった。
昔から勉強が友達みたいな変な少年であった事がこんな所で役に立つとは思わなかったが。
「まぁ、昔から勉強だけが俺の取り柄だったので……」
俺はあまり誇らしげには言えなかった。
それは取り柄であっても、俺の欠点から生まれたようなものだからだ。
幼い頃からずっと1人だった俺は結局やることがないので勉強ばかりして、小6の時には、中3くらいの学力はあったように思える。
本当に小さい頃は父が外でキャッチボールなどをしてくれていたような記憶もあるが、今ではうっすらとしか残っていない。
社交性がなかったわけではなく、社交性を失っていったのだろう。
別にコミュ障ではなかった。
けれど、父を幼くして失った俺は、だんだんと暗い性格になってしまったのだと思う。
重ねてあの事件だ、誰もが俺を根暗でコミュ障の陰キャだと罵った。
根暗イコールコミュ障の陰キャという勝手なイメージがさらに俺をそうしていった。
人間というものは信じやすいように物事を理解する癖があるせいで、そういうイメージに行きついたのだろう。
俺は昔のことを思い出して、落ち込んだような顔を浮かべてしまった。
本当はミルザの前で弱気な姿は見せたくなかったのだが。
俺のそんな態度を見て、ミルザは呟いた。
「でも、今のあなたはその知識をすごい力に変えられる。 だからその力は誇っていいさ」
「そうですかね」
「そうさ、今のあなたは、自分で言うのもなんだけどかつて大賢者と呼ばれたこの私の弟子で、私と同じ知識を持っているのさ」
「そうですけど、やっぱり使いこなせる気がしませんよ」
「謙虚であることと、自分に自信が無いことは違うさね。 今のあなたは自分に自信がもてないんだろうさ」
「ただ、逃げてるだけって分かってます。 でも、どうしても自信が持てないんです」
俺がそう言うと、何かを考え込むようにミルザは顎に手をやり、間もなくして「うん」と小さく頷いた。
まるで自問に答を出したかのように。
そして肩を力強く掴んで、いった。
「よし、それじゃあ、明日からの修行の目的はあなたが自信をつけるということにするさね。 目的を持つということが修行するのに1番大事なことさ」
俺は少し、ほんの少しだけ考える素振りを見せて首を縦に降った。
「分かりました。 今の俺に足りないものは全部ここで補っていくって決めてますから」
こうして、明日からの修行の目算がたち、俺は気持ちを新たに修行に励もうと決意した。
しかし、この時の俺はまだ知るよしもなかった。
ミルザの寿命がすでに残り少ないことに。
ここ数ヶ月の間に、何度かミルザが少し寂しそうな表情になっている気がしていたが、その表情の影に隠れる思いに気づくのはおよそ半年後のことだ。




