表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/187

第27話 ミルザ③

 



 かなりの距離を走り、村から20キロほど離れたところで、息が切れました。



 アルマークは後半少女をおぶる形で走っていたので、特に疲弊していました。



「アルくん、大丈夫?」



「あ、あぁ、だ、大丈────」



 そして、アルマークはばたりと倒れました。



 その血が抜けてしまったような虚ろな目をしていても、彼は少女に微笑みかけます。



 その大きな背中からは多くの出血が見られます。



「な、なんで、こんなに血が出てるの……?」



 そう呟きながら彼の体に触れます。



 それは、異常な程に冷たくなっていました。



 少女は泣きながら「ねぇ、どうしたの? 寝たら、この血も止まるよね?」と笑いかけていました。



 どうやら気がおかしくなってしまい、正常な判断が出来なくなっていたようです。



 それでもアルマークはその力が入らない弱々しい声で囁きます。



「ああ、だいじょうぶだから、泣かないで……」



「うん、泣かないよ、だからはやく元気になってよぉ」



 そう言うと、彼は微笑んで、空を見上げました。



「僕はね、こんな世界を変えたかったんだ。 どこの街や村も、君の村みたいにいろんな種族が、一緒に笑って、泣いて、仲良くしているような世界に」



「なに、を、言ってるの?」



 少女の目からは流れる涙は必死に止めていても止まりません。



「君には、僕が見たかった世界を見てほしい……」



「うん、見るから、だからアルくんも──」



 彼は首を横に振ります。



「なん、で?」



「僕はもうすぐあそこに浮かんでる星に行ってしまうんだ」



「おほしさまに?」



「そうさ。 だからきっとみせてくれないか? 僕が見たかった世界に変わるところを」



「そんなの私1人じゃできないよぉ」



 そう言うと、アルマークは最後の力を振り絞ります。



「君なら、きっと、出来る────ミルザな、ら……」



 彼はそう言って最後に少女の頭をそっと撫でて、眠りにつきました。



 少女は泣き続けました。


 涙が枯れるまで。


 そして村の他種族が迎えに来て、少女をつれて避難しました。



 その事件以来、少女はめっきり泣かなくなりました。



 11歳になり『賢者』という偉大な天職を授かり、ひたすら勉強をして、魔法も覚えて、学園に入り、大賢者と称賛され、叙勲され領主を務めるようになりました。



 いわゆる、エリート人生というものを歩んでいきました。



 しかし、未だにアルマークの願いを叶える手立てを見つけられずにいました。



 そして、勇者パーティに所属するようになり、ある日、魔王の討伐に出かけました。



 作戦は失敗し、彼女以外のメンバーは全員死んでしまいましたが、彼女だけはなんとか生き延びました。



 しかし、それをきっかけに彼女は彼の願いを叶える方法を思いつきました。



 それからというもの、ある迷宮に結界をはり、たったひとりで研究に打ち込みました。



 彼女の作戦は、次の世代に想いを受け継ぎ、あの時指さしたあの星にいる彼と一緒に、変わった世界を見るというものでした。








 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 俺は、そんな話を静かに聞いていた。



 胸が張り裂けそうな思いだった。



「こんな、ところさね」



 ミルザは小さく泣きながら、そう呟いた。



 それを見て、俺は改めて、彼女の願いを叶えたいと思った。



 それは、紛れもない俺の意思だった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ