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第2話 ここは異世界

今回は長いですが、どうか最後まで読んでください。

 



 暗い。どこまでも深く真っ暗だ。

 


 俺の意識は深い闇の中へと沈んでいく。


 あぁ、死んだのか。


 浮遊感にみをまかせ、そのまま沈んでいく。


 すると、真っ暗だった空間の底が明るくなっていた。


 しかし、どうということもなく俺はそのまま落ちていった。



 これで終わりだ、と思った次の瞬間───。



 感触が伝わってきた。

 紛れもなく本物の感覚。


 背中に伝わる柔らかな感触、肌に感じる暖かな空気。



 なんだ、一体何が起きている?


 俺はさっき、岩の下敷きになって死んだはずじゃ……?



 とくん、とくん。



 小さな鼓動と熱が生命の回路を流れていく。



 それは俺に、命があるということを確認させる。



 その時、何を言っているのかはさっぱり分からなかったが、何となく嬉しそうな声音で話す男女の会話がうっすらと聞こえきた。



 何とも心地よいベッドの上で俺はゆらゆらと揺れる。



「ぁう」



 なんだ?声が出ない……?



 ゆっくりと瞼をあげると、ぼやけた視界には知らない青年と女性がこちらを覗いて笑いかけてくる姿が映りこんだ。



 心做しかやけに大きな気がする。



 彼らが俺の頬に人差し指を擦りつけくる。



「ぉあぃ」



 やはり喋れないか。

 まさか本当に、俺は赤ん坊になっているのか?



 確かに俺は、俺たちは、あの洞窟で崩落に巻き込まれて死んだはず。

 なのになぜ、記憶があるまま赤ん坊になってるんだ?



 それにこの地球とはまるで違う空気の匂い。


 これは、所謂転生。 それも記憶を継続したたま、地球ではない別の世界への異世界転生。


 頭があまり働かないのか、考えるよりも先に、精神はこの状況に適応し出していた。



 しかし、なかなかどうしてなのか、俺は自分では制御出来ないほどの凄まじい空腹感にいつの間にやら鳴き声をあげていた。



 赤ん坊とはこんなにも傲慢なのか。



 そしてそう言われるまま俺は女性に抱き抱えられ、奥の部屋へと連れていかれる。



 十七年ぶりの授乳を体験した。

 正直、動揺を隠せなかった。

 何せ、体が赤ん坊でも中身が17歳の思春期真っ盛りの男子高校生なのだ。


 だが、これはあくまで授乳という行為であって、絶対にやましいことでは無い。

 何とか切り替えなければ。



 こうして俺は、まるで別の世界で、ある小さな村で再び生を受け、ユウ・アッシュリッドという名を授かった。




 ────あれからあっという間に五年の月日が流れた。



 この村では5歳の誕生日を迎えるまで子供は外に出ては行けないというしきたりがあった。



 この年は俺の他に29人の子供が生まれたそうで、今まででは考えられないほど沢山の子供が生まれたそうだ。



 そして俺も今日で5歳、ついに外の世界を見る日がやってきた。



「いってきます!」



 軽快な足取りとともに木製の扉を開ける。


 後ろからは父と母が「いってらしゃい」と少し不安気な声音で言っているのが聞こえた。



 親だから、きっと5歳児が1人で外に出るのが不安なのだろう。



 さて、外はどうなっているのか。



 俺は期待に胸を踊らせ、玄関を出た。



「おぉー! すごい! ほんとに異世界だー」



 俺は目の前に広がる光景に目を輝かせ、感嘆の吐息を漏らし続けた。



 地球とは雰囲気の違う文明、匂い、そして住人達。



 なぜ記憶が残ったままなのかは未だに分かっていないままだったが、そんなことはどうでも良くなるくらい、凄まじい体験だった。



 胸が高鳴るのを感じる。



 そうして、当たりをきょろきょろと見渡しているときだった。



「ね、ねぇ、そこの君ー!」



 俺を呼ぶように手招きしている少女の姿が目に入った。



 初めて見る同い年の子供だった。



 俺は少女の方へ小走りで駆け寄った。



「なに?」



 俺は少女の元に着くとそう尋ねた。



 すると次の瞬間、彼女は思いもよらないことを口にしてきた。



「あの、変なこと聞くんだけど……君、前世の記憶なんかあったりしないかな?」



「……え?」



 俺の口はぽかんと空いたままになっていた。



 あまりに急すぎて理解がまるで追いつかない。



 そしてこう聞かずにはいられなかった。



「今、前世の記憶って言った…?」



 すると少女は俺の表情から何かを悟ったらしく、吐息を漏らして俺の目を覗き込んできた。



「やっぱりあるんだね……。 それじゃぁ君は三木原 奏真くんで間違いないのかな?」



 頭が真っ白になる。



 一体彼女はなぜ、三木原 奏真という名前を口にしたのか。


 なぜ記憶のことを知っているのか。



「君はなんでそれを……」



 それは次の彼女の言葉で理解出来た。



「ごめんね、まずは自己紹介しなきゃだね。 私は柏田 伊織、君と同じ2年3組の生徒」



 かるくお辞儀をすると、彼女は自己紹介をはじめた。

 5歳にしてはなんと礼儀の正しいことだろうか。



「2年3組……ってことは! 君は本当に柏田さんなのか?」



「うん」



「でもなんで、俺が三木原だってことが分かったんだ?」



 そうだ、もし彼女も一緒にこの世界に来ていたとしても、見た目も声も変わっている俺の事がどうして三木原 奏真だと把握出来たのか。



 それに彼女は神妙な顔つきで答えた。



「それは、君が30人目だったから」



「それはどういう……」



 みるみると疑問が募っていく。



「つまり、あの日洞窟で死んだ2年3組はみんながこの世界に来ているの」



 柏田は語った。



 現在、俺達がどのような状況下にあるのか、どんな世界に来てしまったのかを。



 俺はあまりにも衝撃的な事実を伝えられ、放心状態となっていた。


 数秒停止した後、俺は自分の中で話を整理した。


 つまり、予想通りここは異世界らしい。



 この世界の名前はサーナス。


 サーナスには俺達のような人間だけでなく、亜人と呼ばれる多様な種族が存在しているという。


 そして俺が生まれたこの集落は、ロッドハンス王国の郊外地区にあるカーロ村という。



 柏田が言うように、2年3組全員がこの異世界、サーナスに来ている。


 彼女曰く、全員の最後の記憶は必ず『死』で終わっているため、それがこの世界に来るきっかけなのではないかという話だ。



 全員がゼロから生まれ直した訳だが、丁寧にも性別は継続されていた。


 ただし容姿はかなり別物にはなっていた。



 そして、俺を最後に2年3組全員が『死』以来の再会を果たし、これから集合するのだ。



「はぁー、なんともまぁ本当にこんなことがあるなんて」


 俺は集合場所に向かう道でぼそっと呟いた。



 だってそうだろう、こんな状況ゲームや漫画でしか見たことがないのだから。



 漏らした吐息には、不安や期待、感嘆、驚きなどが入り交じっていた。




「───ついたよ」



 そんな声とともに俺は顔を上げ周りを見渡した。



 そこにいたのは、クラスメイトだったたくさんの子供たちだった。



「最後の一人が来たみたいだね。 ありがとう、柏田さん」



 そう呟いたのは、一際顔立ちの良い少年だった。



 その身に纏うオーラであいつだと確信するまでに時間は必要なかった。



「瀬戸…」



 あいつ、こっちでもイケメンなのかよ!



 どうせ生まれ変わったんだから、俺の顔ももっと良くしてくれよ神様……。



 俺は彼への嫉妬をどうにか自分の中だけに押し込めた。



 彼が俺の方を見ると、周りにいた子供たちもいっせいにこちらを窺ってくる。



 その際、「別にいなくてもいいんだけどな」とか「あれ誰だっけ?」とか聞こえてきたのだが、とりあえず気にしないでおいておこう。


 軽蔑の眼差しや罵倒の言葉にいちいち反応していてはキリがない。



 ある程度ざわめきが止むと瀬戸は「よし」と一息ついて。



「みんな、もう大体気づいていると思うけど、ここは地球とは違う世界らしい」



 子供特有の甲高い愛らしい声でみんなを取りまとめる。


 その光景にはとてつもない違和感があり、思わず苦笑が漏れた。



 しかしそれは瀬戸だけではなく、全員が同じようなことになっていた。



 それこそ、今のこの状況の異常さを物語っている。



「思い出したくもないと思うけど、みんな最後の記憶はきっと『死』という形で終わっているんじゃないかと思う。 違う人がいたら教えて欲しい」



 瀬戸はそう続けたが、みんなは沈黙を解答に選んだ。



 広場がいっきに静まり返る。



 その様子を見て、瀬戸は「そうか」と小さく頷くと、



「みんな、戸惑ってるのは分かる。 信じられないって思う人もいるかもしれない。 けど今は落ち着かなきゃならない時期だ」



 瀬戸は冷静に呼びかけていた。



 きっとみんなが顔を合わせた時パニックが起こらなかったのは、瀬戸のおかげも大きいのだろう。



「僕達はここでこれから生きていかなきゃならない。

 なぜ記憶があるのかも今は分からないけど、今僕らが生きているのはこの世界だ。 だからここに浸透していかないといけない。 時間がかかってもいい、難しいことは重々承知の上だ。それでも、みんなでこの世界を生きていこう!」



 俺はまたこいつのことをイケメンだと思ってしまう。



 まさにカリスマ性の塊だ。



 瀬戸の熱演に静まっていたクラスメイト達は「おぉぉーーーー!」と叫んでいた。



 今の演説は確かに戸惑いを隠せずにいた全員に状況を理解させ、結束力を深め、生きる道を提示したと言えるだろう。



 俺も思わず拍手してしまった。



 こうして2年3組は異世界で再集合を果たした。












ついに転生しました。

さて、これからどんな物語が始まるのか。

興味を持ってくれた方はこれからも読んでいってください。

宜しければブックマークもして頂けると有難いです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] クラス転生系で良くある話だが、果たして5年も経ってクラスメイトの名前とか覚えてるものかね。 高校のクラスなどは学校の外では知り合い程度の関係でしかないはずだが、この拘束力の強さに違和感…
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