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第22話 願うこと

 


「これはあくまで可能性の話だけど、無職は、条件さえ達成すれば、全てのスキルを取得することができる」



 俺はそんな発言に開眼して驚いた。


 普通スキルとは天職に適するものしか取得が不可能のはずだ。


 例えば魔術師の場合、基本身体能力強化に関わるスキルは持てない。


 対して戦闘系の職業は魔法強化のスキルを取得できない。


 勇者と賢者は、いくらか例外があるが。



「ただし───」



 ミルザは人差し指をたてて、注意点でも伝えるかのように言った。



「あなたが取得できるスキルは本来のスキルとは大きく異なるところがある」



 まだ他にも欠点があるのだろうかと、俺は少しびくついた。



「それは、全てのスキルが固有スキルを介して発動されるということ。 固有スキルは通常のスキルと比べて、大量のSP(スキルポイント)を消費するのさ。 通常のスキルなら発動にかかる代償(コスト)は体力と少しのSP。 だから固有スキルはあまり乱発が出来ない」



 予想通り、欠点があったようだ。


 しかし、俺はこの言葉に引っかかった。


 あの天獅子との戦闘の時だ。



「でも、スキルが同時に発動できましたよ?」



 そう、もしミルザが言うようにSPの大幅消費があってスキルの乱発が出来ないなら、あの時同時に2つものスキルを使うことなんて絶対に不可能のはずだ。


 俺は深い疑問の表情を浮かべて訪ねた。



「初回だけSP消費なしで使えるのさ。 だからいざと言う時のために、ある程度未使用スキルを蓄えておくのもいい手だね」



 もう一つ、固有スキルにはクールタイムという再発動までの待機時間が存在するらしいが、それも初回免除の対象ということだ。



 なるほど、と俺は拳を掌に打ち付けた。



 それならば、スキルが同時に使用できたことにも合点がいく。



 けれど─────



「確かに、無職が無能ではないということは理解出来ました。 それでも……それが、俺にできるなんてどうしても思えないんです……」



 そうだ、もし無職が強くなれる可能性があったとしても、それはあくまでも可能性に過ぎない。


 その可能性を掴めるかどうかは完全に俺自身の問題だ。


 だからこそ、自分には出来ないと思ってしまう。


 どんなにミルザの願いを叶えたいと思っても、卑屈なまでに腐った俺の心が自分を信じられないと嘆くのだ。



 そう言って俯く俺を見ると、ミルザは反対に、上を見上げて呟いた。



「ねえ、生きるってどういうことだと思う?」



 いきなりそんな的はずれなことを呟く。


 今はそんな話をしているわけではないはずなのに。


 けれど、彼女の言うことには何か意味があるのだろうと、俺は俯きながら考えた。



「……誰かに認められること?」



 俺はそう聞き返す。


 誰かに認められたい、誰かに必要とされたい。


 それが俺にとって生きている証だった。


 だから今の俺は死んでいるも同然だと、そう思っていた。



「そうさね、それもある。 けど私は、願うことが生きることだって思ってるのさ」



 それを聞いた時俺は無意識に顔が上がる。



「願う、こと?」



 俺がそう訊ねると、彼女もあげていた頭を俺と同じ高さにさげて目を合わせた。



「そう、願うこと。 願望をもつこと、それこそが生きるってことなのさ。 なにも願望がないなんて言う生き物はこの世にはいないよ。 みんな生きているからね」



 今、そう話すミルザは何か遠いものを見るような寂しそうな目をしていた。



「『───願いのために必死にもがくんだ。』 私が1番好きだった人の言葉さ」



「願いのために必死にもがく……? こんな、こんなひ弱な俺に、できると思いますか?」



 俺は静かに、訊ねた。



「できるかできないかの前にさ、あなたの願いはなに?」



 そう微笑みかけてくれた。


 きっと俺は最初から、この言葉をミルザにかけて欲しかっただけなのだろう。



「俺の、願いは……」



 俺の願い、そんなのひとつだけで収まるわけがない。


 いくつもいくつも浮かんでくる。


 けれど今だけはたったひとつだけだ。



「───強くなりたい」



 俺は小さな声で、それでも大きな力を込めてそう願った。



「強くなれるさね」



「強くなって、あなたの願いを叶えたい」



「これは私のわがままさ。 だから、無理に背負う必要はない」



 ミルザはそう言うが、これは俺の心からの願いだ。


 今最も叶えたい願いなんだ。


 けれど、ミルザはおそらく代償が欲しいのだろう。


 わがままを聞いてもらう代償が。


 俺も同じだったからわかる。


 何かをしてもらっているのに、何も返せない自分が情けない、そう思って気が引けてしまう。


 正に今ミルザもそんな表情を浮かべている。


 だったら────



「それじゃあ、ミルザさんの願いを叶える条件を2つだします。 それを呑めば気兼ねなくお願いできるでしょう?」



 俺は2本指を立ててそう言った。


 ミルザは一瞬驚いたような表情をすると「分かった」と言って俺が提示する条件を待ち構えた。



「俺にあなたの姓を名乗らせてください」



 指を1本減らす。


 そして本命の条件を言った。



「そして……俺をあなたの弟子にしてください」



 そう言うと、ミルザは先程よりも驚き、目を丸くしたが、すぐに落ち着き、今まで見た中で1番楽しそうに微笑んで。



「ふふ、分かったよ。 あなたは私の弟子、ユウ・クラウスさ!」



 こうして、俺とミルザの師弟関係が出来上がり、迷宮生活が始まった。











ステータス情報の一部修正があります。

気にならないければ良いのですが、気になればステータス紹介あたりを読み直していただければいいと思います。

今後とも本作品をよろしくお願いします。

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