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第18話 新たな『可能性』

 



 またあの感覚だ。


 魔人に襲われた時、急に聞こえたあの声。


 そして、胸の奥の辺りが、ふわりと暖かくなっていく感覚。


 あの声は俺に、無力の俺にたったひとつだけ使えないスキルをよこした。


可能性(ポテンシャル)】なんて変なスキルだったが、その場を生き延び、こうしてミルザに出会うことができたのだ。


 そして、今度はあの時の【瞬発力強化】とは別のスキルを与えようとする。


 また体が動かなくなるとか、まぁいろいろと使えないところが多そうな気はするが、【身体能力倍増】は名前だけ見れば魅力的なスキルだ。



 俺は是が非でもそのスキルを取得することを決意した。


 あの人を助けられるなら、腕の1本や2本、命さえも安いものだ。


 救うんだ、俺を救ってくれた人を今度は!


 そう自分に誓い、俺は声に応える。



「取得する、早くしてくれ!」



 焦った口調で【可能性】に要求する。



 俺が今持つ1番の願いのために。



 そう言うと、顔は見えないが声の主が少し微笑んだ気がした。



【スキルを取得します。 スキルを発動しました。 スキルの発動権を委託します】



 そして、ゆっくりと時間は動き出す。


 まさに大獅子がミルザの命を奪わんと、牙をつき立てようとする。


 もう一瞬の躊躇いも許されない。


 俺はすぐに全身に力を込める。


 スキルの影響か、体がものすごく軽く、さらに力が満ちるような感覚だ。


 同時に足には魔人との遭遇の時と同じような感覚がある。


 もしかするとスキルが同時使用されているのかもしれないが、今はそんなことどうでもいい。


 俺は目の前の獅子からミルザを助けるだけだ。


 腰の刀を握りしめ、俺はヤツに向かって進撃する。


 一瞬のうちに大獅子の腹部の下に忍び込む。


 こいつの動きがとても遅く見えているのもスキルの影響だろう。


 前みたいに瞬発力強化のスキルを使ってもしっかりと調整ができるし、体も軋まない。


 俺はぐっと腕に力を込め、先程のミルザが負わせた傷目がけて、刃をふりかざした。



「────ッ!」



 大獅子は一瞬何が起きたか分からないように静止する。



 そして、俺の頭には大量の鮮血が滝のように流れ落ちてくる。



 視界が真っ赤に染まった。


 こんな状況でなければ危うく吐いてしまうところだ。


 俺はすぐさま腹部下から離脱し、呆然と倒れているミルザを抱えて距離をとる。


 内臓がとばどばと落ちる。


 数秒後ヤツがようやく倒れ伏せた。


 そしてもう二度と動くことがない屍へと変わる。



「や、やったか?」



 恐る恐る近づき、大獅子が完全に絶命していることを確認する。



「や、やった! 勝った────」



 そこで俺は力尽きた。



 まるで全身の力が吸いとられてしまったような感覚だ。



 硬い地面の上にばたりと倒れる。



 やはり体に対する負担が大きすぎる。


 そもそものステータスが貧弱すぎるんだよ。


 俺は内心愚痴っていたが、今はそれでも感謝しか浮かばない。


 ナイス【可能性】のスキル。


 ミルザを救ってくれてありがとう、と。


 朦朧とする意識の中、最後に見たのは、あわてて俺に駆け寄ったミルザの姿だった。











 時間がたち体力が回復すると、不意に意識が覚醒した。



 目が覚めるとまたあの時と同じ少し固めのベッドの上だった。



「───ん、こ、こはぁ?」



 俺は目を擦りながら、起き上がる。



 そこには涙目になりながら口をぽかんと開けていたミルザの姿があった。



「また、助けられたみたいですね。 ありがとうございます」



 また俺はこの人に救われたのか。


 本当に自分が情けない、もっと強ければこんなに迷惑をかけなくて済んだのに。



 俺がありがとうと言うと、彼女は首を横に振る。



「ううん、ありがとうっていうのは、私のほうさねぇ」



 泣きながら、俺に抱きかかってくる。



 昔迷子になった俺を父親が見つけてくれた時の感覚とそっくりだ。



 その時父親は「心配した! 本当に無事で良かったぁ」と泣きながら俺を抱きしめてくれた。


 暖かな記憶だ。



「俺が貰ったものはこんなんじゃ到底返せないくらい大きいものです。 だから、また救ってくれたミルザさんに感謝するのは当然なんですよ?」



「それでも、どうしようもない私を命懸けで救ってくれたさね。 もう何を返してもらっても、それは全部お釣りになるよ」



「はは、それなら、本当に良かったです。 本当に無事で」



 本当に無事でよかった、今はただそれだけを伝えたい。



 俺は救えたのだ、この人を。



 その実感がとても誇らしく思えた。



 それを聞いたミルザは俺の顔を見ると、目を伏せて呟く。



「やっぱりあなたなのさね? 私が150年も待った人は」



 不思議なことを口にした。


 150年待ったというのは一体どういうことだ?



「あの、それはどういう────」



 俺がそう質問しようとすると、ミルザは何かを決心したかのような面持ちになり、俺に告げる。



「話したいことが、あるさね」



 この後俺は知ることになる。



 彼女が何者で、なんのためにこんな所に引きこもっているのか。


 150年というのが何を示す数字なのか、自分が今まで何をしてきたのか、何を待っていたのかを。






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