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第15話 鑑定眼

 





「昨日は、その、ありがとうございました。 あと、ごめんなさい」



 俺はまだ赤い目尻のまま頭を下げる。



 昨日はつい取り乱してしまった。



 真っ白なローブを涙と鼻水でベトベトにしてしまった。



 あの時のことを思い出すと、恥ずかしさで爆発しそうだ。けれど、今はとてもスッキリしている。


 こんなに爽快な朝を迎えたのは初めてかもしれない。



 羽が生えたように体も心もとてもかるい。



「それでいいの、辛いから泣く。 それは当たり前のこと。 うん、昨日より全然顔色がいいさね」



 彼女は俺の顔や目を覗き込むと嬉しそうにそう言った。



 今こうしていられるのも、全て彼女のおかげなのだ。



 俺はもう一度感謝したくなった。


 何度ありがとうと言っても足りないくらい昨日だけでたくさんのものをもらったのだから。



「おかげさまで。 本当にありがとうございます。……えっと」



 あれ、そういえばこの人の名前も聞いていない。


 そう思って、感謝を述べようとした時、言葉に詰まった。


 俺が困惑していると彼女は「あー」と何かに気づいたように一息漏らした。



「そういえば、自己紹介がまだだったね」



 拳を手のひらに打ち付けて、彼女はそう言った。



「私は、ミルザ・クラウス。 この迷宮で暮らしてる……まぁただの研究バカさ」



 そう冗談交じりに自らの名前を言って、微笑みかけてくる。



 その笑顔はとても眩しかった。




 その喋り方に似合わない愛らしい笑みに俺は見惚れていたが、すぐに自分も返さなければと我に帰った。


 彼女、ミルザさんが自己紹介をしたのだからこちらも返すのが当然だろう。



「えっと、俺はユウ・アッシ────いや、ユウです」



 俺はユウ・アッシュリッドと言いそうになるが、慌てて言い直した。



 少し胸が苦しくなる。



 この時俺は決めた、もう二度とアッシュリッドは名乗らないと。


 そう決意を新たにしようとしていた時にふと思い出した。


 昨日のことだ。



『私は()()くんを信じてるさね』



 この言葉に不可解を覚える。



 そして俺ははっと気づき、開眼する。



 なんでミルザさんは俺の名前を知っていたんだ?



 また疑問が募っていく。



 彼女のことはもう信頼しているが、そこだけがまだ引っかかってしまった。



 全て知りたい。


 俺を信じようとしてくれた理由も、俺を助けてくれた理由も、そして、自分の名前を知っているという理由も。



「ねぇ、ミルザさん、なんで俺の名前知ってたんですか?」



 俺がそう問いただすと、彼女はとてもあわてて両手をひらひらとさせる。


「ご、ごめんね。 そんなつもりじゃなかったの。 あなたの治療をする時生命力と体力のステータスを確認したくて【鑑定眼】のスキルを使ったから、その時に見えたの。 黙ってるつもりじゃなかったのに、本当にごめんなさい!」



 慌てふためき、早口になる。


 そんなに慌てなくても、俺が彼女を疑うことなんて絶対にないのだけど。


 もう心を許してしまったのだから。


 これで裏切られたら、それまでだ。


 この人を信じることが俺の最後の希望なんだ。



「そんな、謝ることなんてないですよ。 俺はもう、あなたのことを信頼しています。 感謝さえすれど、嫌ったりなんて絶対にしません!」



 俺がそう言うと、彼女は「良かったぁー」と涙目になりながら、頬を緩ませた。



 それを見て、俺はもう絶対にこの人に心配をかけないようにと誓うのだった。



 そんな誓など知ったことかと言わんばかりに俺の胃袋は傲慢な鳴き声を部屋に響かせた。


 俺は恥ずかしさに顔を真っ赤にした。



「あ、違うんです、これは……」



 俺は必死にお腹を抑える。


 おい、こんな時に空気読んでくれないのかよ俺の胃袋!と言うように。


 いや、それでも仕方ないのかもしれないが。


 なぜなら、俺は2日間何も口にしていないのだから。


 胃にあったのは川の水だけだろう。


 欲しがるのも無理はない、が。


 時と場合を考えて欲しいものだ。


 俺が必死に自分の胃袋と格闘しているのを見て、彼女はまるで小動物を見るかのような緩んだ表情で微笑む。



「ふふふ。 そうさね、人間、食べなきゃ明日は生きれずってね! よし、ご飯にしよっか」



 それを言うなら、腹が減っては戦はできずだろうとツッコミを入れようとしたが、色々文化も違うんだからことわざの違いもあるだろう。



 そんな細かいことを気にしていたら、ツッコミ疲れて体力がなくなってしまう。



「す、すみません……」



 俺は苦笑いで返事した。







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