第13話 迷宮の大賢者
第3章、最終話です。
どうぞ最後まで読んでくださいな。
俺は冷たい水の中に沈んでいく。
寒い、全身の力が抜けていく。
どうやらあの強化スキルでそうとう体に負荷がかかったな。
所詮俺は無職、分不相応な力は身を滅ぼす。
結局、このままじゃ死ぬな。
最後の悪あがきだったってことか。
俺は川の流れに身を委ねてそう考えていた。
体温は奪われる一方だ。
自分で加減も制御もできない、ましてや1回使っただけで体が動かなくなる。
なんて使えないスキルだ。
ましてや、このスキルが発現する条件が、ほぼ死ななきゃいけないとか、役立たずにも限度があるだろう。
死にかけてようやく発現するスキルなのに、そのせいでまた死にかけるのかよ。
救済スキルとかいってたから少し期待したが、結局、無職に許される力なんてこんなものなのだろう。
まったく、どこまで過酷な運命を押し付けるのだろうか。
俺が何をしたっていうわけでもないというのに。
あぁ、なんだかとても眠い。
なんで俺なんだよ─────
しだいに、そんなふうに内心で愚痴ることも出来なくなっていって、俺の意識は、深い深い闇の中に沈んで行った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「そろそろ、天命がつきる、さね。 さて、だれにこの知恵を継承するべきか」
彼女は焦っていた。
己の死を悟り、築き上げてきた知識の結晶を果たしてだれへと継がせるか。
彼女が研究していたのは、魔人の研究、そして天職についてである。
魔人に関することを調べるために、彼らに勘付かれないような地下迷宮に結界を張って研究していた。
実に150年、彼女は外界のだれとも接触をせずただひたすら研究を進めた。
そして、魔人がここ数百年で一気に繁栄している理由に仮説を立てるところまで至った。
誰かに継承し、この知識が後世で活用されることこそが彼女の賢者としての本望だった。
しかし、下手に地上に出ればすぐに魔人に見つかり口封じをされ彼女の積み上げた150年が全て水の泡になってしまう。
しかし彼女には自信があった。
必ず、継承するべき者がここに訪れてくると。
彼女の固有スキル【運命の導き】はあらゆる情報を駆使し、未来予知に近いことができるスキルだ。
つまり、これからなにが起こるか、なにが変わるか、そんなことが概ねわかるのだ。
ただ、全能ではなく、まず彼女に関わりのあることが絶対的な条件。
そして、内容の詳細度は自らの持ちうる情報によって変わってくる。
要は、知識がこの能力の有用性に直結するということだ。
「もうすぐ来るはずさね、この世界の未来を託すにふさわしい者が」
彼女はそう呟き、最寄りの地底湖に水浴びをしにいく。
これが彼女の日課である。
そして地底湖に着くと、彼女は驚きと困惑の表情を浮かべた。
「何かいる………子ども!?」
ゆっくりと近づき、魔法で光を灯す。
鮮明になった湖の岸辺をみると、10歳くらいの子供が打ち上げられていたのだ。
この時の彼女は思いもしていなかった。
この子供こそが、自分の知識を授け、いずれそれを活用し、世界を覆すことになるということを。
彼女は打ち上げられた子供を抱き寄せた。
「なんて、冷たいの!?」
その体の冷たさに彼女は驚嘆し、目を見開く。
彼女のスキル【鑑定眼】でステータスを覗き見してみると、かろうじて生命力が残っていた。
しかし、一刻の猶予もない。
すぐに治療しなければ、この子供の天命は数分で0になってしまう。
彼女は必死に自分の持ちうる知識と魔法を駆使して、その子供を治療する。
「この子の体、打撲が多いさね。 骨も数箇所折れてる」
治療していくうちにふと気付く。
この怪我はただの怪我ではなく、間違いなく人為的に付けられた傷なのだ。
しかし、彼女はすぐにその理由を理解した。
「無職だったから、さね。 可哀想に。 とにかく急がないとだね」
彼女は不憫そうに目を伏せて、その子供をさらに抱きしめた。
鑑定眼でステータスを覗き見した時、彼女は気づいたのだ。
天職の部分が空欄であることに。
果たしてこの傷は外傷的なものだけに留まるだろうか。
そんな懸念が彼女の頭に浮かんだが、とにかく今は治療が先決だ。
生命力が数値を回復していくのを見るやいなや、彼女は急いで、自分の寝床に戻り、子供を横たわらせ、さらにもう一度回復魔法を駆使した。
努力の甲斐あってか、彼はなんとか一命を取り留めることができたのだ。
あとは冷え切ったからだを温めれば、数時間で目を覚ますだろう。
この子供を救った彼女の名は『ミルザ・クラウス』
いずれ世界を覆す男の、師匠となる女性だ。
人々は彼女のことを『迷宮の大賢者』と呼んだ。
第3章が終わりました。
第4章からも引き続き、お楽しみいただけると幸いです。
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