第167話 再会計画①
先週は更新お休みしてしまい申し訳ありませんでした!
王都四区のうち、繁華街の位置する南区で俺たちは馬車を降りた。
思っていたよりも少し早めについたので、ニーナを王都で一番賑わっているところに連れていこうと考えたのだ。
「すごい、すごいね! ユウ」
車椅子に揺られながらニーナは辺りをキョロキョロと見回し、その度に目を輝かせて俺にそう言ってくる。
まるで子供のようにはしゃいでいた。
「あ、私田舎者感丸出しだよね…」
そんな自分をふと俯瞰してみたのか、ニーナは恥ずかしそうに身を縮めていた。
周りの通行人達もそんなニーナを見て微笑んでいる。
しかしそれは田舎者への嘲笑ではなく、子供のようにはしゃぐニーナの可愛らしさへの愛着の微笑だ。
(そういえばラフィーもこんなふうにはしゃいでたっけ)
ニーナを見ているとラフィーと初めて王都に来た時のことを思い出して自然と俺も笑みがこぼれる。
「ユウまで笑わないでよ…」
「あはは、すまんすまん」
振り返ってぷくっと頬を膨らませるニーナに俺は笑いながらもそう返した。
そんな風に笑いながら、俺たちは、目的地であるミシェド学園へと歩みを進める。
「そうだ、エルフィアとラフィーに念話を入れておかないと」
向かっている途中そう思い立ち、俺は急いで2人に念話をかけた。
念話は一定の範囲内にいないと繋がらない。
今いる場所ならば恐らく繋がるだろう。
『ラフィー、エルフィア、聞こえるか?』
『……』
周りの音をなるべく少なくするために肩耳に手を当て念話で2人に呼びかける。
『…ユウ!?』
『マスターですか! 聞こえます、聞こえますよ!』
久方ぶりに聞く2人の元気そうな声が帰ってきたのだと実感させる。
『2人とも、遅くなってわるかった。 今朝王都帰ってきて、今は学園の方に向かってる』
『ううん、無事に帰ってきてくれて良かった。 ほんとに良かった…』
エルフィアの泣きそうな震えた声が胸をきゅっと掴んで、頬が熱くなる。
『あたし達はついさきほど3つ目の講義が終わったのでこれからレイシアとレミエルと合流して食堂へお昼を食べに行くところなんです。マスターはこの後どうしますか?』
『あ、あぁ。 この後は一度アルド先生に会わないといけないんだけど、今訳あって学園の中に入れないんだ。 だからアルド先生に正門前の方まで出て来てもらうように伝えてくれないか?』
『分かったわ』
『それともう1つ、これからレイシア達と合流するなら、放課後今から俺が言う場所くるようにレイシアに伝えてくれないか?』
『わかりました!』
『2人ともありがとう。 場所は───』
そこで俺は2人にレイシアを呼び出す場所を伝えた。
『ねぇユウ、いつ会える?』
普段より少し上がったトーンの声で心配げにエルフィアが言った。
それにまた胸がドキッとする。
『もうすぐ会えるよ。 心配かけて本当にごめん』
やや照れくささを覚えつつもエルフィアの不安を解いてやろうと俺はそう返した。
『あたしも早くマスターに会いたいです!』
『そうだな、俺も早くラフィーに会いたいよ』
ラフィーの明るい声は俺に元気を与えてくれる。
『じゃあ2人とも、さっき言ったこと、頼んだ』
『任せて』
『了解です!』
『ありがとう。 それじゃあまた後で』
『うん!』
『はい!』
「おーい、ユウ?」
念話を切った瞬間、ふと座席から振り向いてニーナがそう言っているのに気がついた。
おそらく念話中で無言になっていた俺に違和感を感じたのだろう。
「あ、いや。 ごめん…なんでもない。 ちょっと考え事をしてただけだ」
「そう? でもなんか顔赤いよ? 大丈夫? もしかして疲れたんじゃ…」
「え…? あ、いやいや全然大丈夫」
「でも、王都にくるまでの間、ずっと私の車椅子押してくれてたし、やっぱり疲れてるでしょ?」
「ほ、ほんとに大丈夫だから、心配しなくていいよ」
(久しぶりに聞いたエルフィアの声でドキドキしてるなんて言えるわけない!)
そんなことを内心で思いつつ誤魔化すように苦笑した。
「そ、そう? それならいいんだけど……それにしても、ユウか作ってくれたこの車椅子、ほんとにすごいよね」
未だ少し心配気の抜けない表情を残しつつも、ニーナは自身の乗車する車椅子を眺めて感嘆するようにそう言った。
「振動でおしりが痛くならないし、前まで使ってた車椅子より明らかに前に進みやすいのが乗ってても分かる」
そう。 彼女の言う通り、俺はオルセンの村を出発する前にニーナの車椅子を密かに改造していたのだ。
車輪の部分に、オルセンの近くに群生地をはる、レーペルという樹木からとれた樹液を加工したものを使用している。 所謂ゴムタイヤだ。
オルセンに滞在している時、アランに弾力や反撥性があってかつ頑丈な素材はないかと聞いてみたところ、レーペルの木の存在を教えてくれた。
樹液を固めると弾力のある物体ができることはオルセンの村人達も知っていることだったが、基本的に粘土のようにねって、工芸品を作るくらいにしか使ったことがなかったらしい。
俺がよく見知ったゴムタイヤとはもちろん程遠いが、なにも着いていない、ただの木製の車輪よりは何倍もいい。
「村の人もユウのこと、天才だって褒めてたよ。 これは間違いなく売れるって」
「そ、そうか? 喜んでくれたなら良かったよ」
まぁ実際には俺が考えたんじゃなくて、ただの前世の知識だからなんとなく素直に喜べないんだけど。
そんなこんなありつつ、出店で少しだけ小腹を満たし、俺とニーナはアルドが待っているであろうミシェド学園の正門前に向かった。
◆◆
「ユウは今、どこにいるんだろう……」
窓から入ってくる風に銀髪を緩やかに靡かせながら、外をぼけっと眺めながらレイシアはそう呟いていた。
最近あまり眠れていないのか、目の下には僅かに隈ができている。
「レイシアたん大丈夫?」
呆然とするレイシアの肩をつんつんと指でつつきながら、レミエルは講義の邪魔にならないように静かにそう声をかける。
「大丈夫、ボクは、大丈夫だよ。 それより、ユウの方が心配だ……」
眠気を帯びた伸びやかな声音で、レイシアはそう答えた。
「アルド先生に聞いても、ユウは今療養中で場所は言えないって言われるし、エルフィア達やシルバにも分からないんて……」
レイシアは泣きそうな顔を俯かせる。
そんな彼女を見て、レミエルはその背中を優しくさすった。
「きっと大丈夫やって。 ユウちゃんやもん。な? もうすぐけろっと帰ってくるって。 それよりウチはレイシアたんが心配や。 最近ちゃんと寝れてないんやろ」
「レミエル……」
心配そうに見つめてくるレミエルを見て、レイシアは少しだけ気を取り直したようだった。
その時、教壇から「おほん」という、女性教授の咳払いが聞こえてきた。
「えー、レミエルさん? いくら天使と言えども、この場に出席する以上はしっかり講義を聞いて頂かないと」
教授の注意にレミエルばびくっと席を飛び跳ね「あはは」とバツの悪そうに苦笑した。
「すいません…」
そんな天使の間抜けな姿に、教室では笑いが起こった。
しかし、朗らかな教室の雰囲気とは反対に、レイシアの不安は晴れないままであった。




