第166話 休み期間が明けて
「さて、ひとまず学内序列戦おつかれさま。 ここSクラスからは、なんと上位者保持者が1人、そして決勝トーナメントまで進出し上位に入ったものが3名いる」
学内序列戦が終了して1週間後、休み期間明けの最初のホームルームでアルドは教卓にて喜ばしそうにそう言った。
「まずは、序列5位として上位保持者入りを果たした、シルバ・ラッドローくんにみんな大きな拍手を!」
シルバの方に手をかざしSクラスの生徒達にそう促すと、教室内には大きな拍手喝采が起こった。
「おめでとー!!」
「まじすげぇじゃん!」
「お前はSクラスのエースだよ」
「キャー、シルバくんかっこいい!!」
湧き上がる賞賛に、シルバは「ははッ」と笑いながら胸を張って席を立つと、
「みんなサンキュ! だが、まだ5位だ。 この学園に来たからにゃァ、オレァ、てっぺんを目指すぜェ!」
シルバはそう豪語しながら拳を突き上げ場を盛り上げる。
それに看過され、クラス内からは更に「オォーー!!」と歓声が上がった。
1部の女子達からさらに黄色い声が投げられる。
この学園では実力のある者ほど尊敬される。
これまでは性格的な問題と、特待生と言うことで他の生徒からは一定の距離を置かれていたシルバだったが、序列戦を経て一躍人気者へと成り上がっていた。
まさしく序列戦マジックである。
「さて次に、序列トップ40位入りを果たした3人、ローク・ラシュダッドくん、ミリア・アーチェラさん、そしてエルフィア・ハーミットさんに大きな拍手を!」
シルバへの拍手歓声を収めた後、アルドが3人の方に目を配り、そう言うとさらに大きな拍手の喝采と歓声が上がった。
「ロークくんー! こっち見てー」
「我らがミリア様!」
「エルフィアさぁーん! まじ最高!」
「エルフィアさんほんとかっこよかったよ!」
ロークやミリアは中等部から人気を集めていたが、この序列戦でさらにその人気を高めていた。
ローク、ミリアを見守る同盟なるものがあるという噂も。
エルフィアもまた、その容姿から入学当初より男子からの人気はあったが、1部の女子からはあまりよく思われていない節もあった。
しかしこの序列戦を通してその戦いぶりを認められ、
特に、ユウに対するあまりに健気な一途さに、多くの女子から尊敬されることとなり、結果的に男女共にとてつもない人気を集めることになったのだ。
ロークとミリアはどこか複雑そうにしながらも、クラスメイトの拍手に応えるのように笑顔を浮かべ手を振ったりお辞儀をしていたりした。
そんな2人に比べて、さすがにエルフィアは、慣れない注目にあわあわと困った顔を浮かべ、ラフィーに助けを求めていた。
「あれ、なんかオレの時より拍手おっきくねェか?」
そんな中、3人に対するクラスメイトの反応に、シルバは解せないといった表情でそうぼやいていた。
「ただ、非常に残念なお知らせもあるんだ」
高まる雰囲気を沈めるようにアルドは言った。
そんな先生の声のトーンと、教室にいない3人のことに気づき、察したのであろう、嬉しい報告に盛り上がっていた教室は一変に静まった。
「みんなも薄々気づいているだろうけど、休み期間が明けて尚、まだ3人の生徒が復帰できていない」
それからアルドは「あまり詳しいことは話すことができないが」と前置いて、3人が復帰できていない理由を説明した。
序列説中にアーサとメルクが働いた不正行為について、それによって1ヶ月の休学処分が施されたこと。
ユウが重症を負い、今は王立の病院で治療と休養を行っていること。
ただ、ユウの治療と休養はあくまで、オルセンへ行かせるための表向きの理由であり、エルフィアとラフィー、シルバはそれを知っているがために、別の意味で不安げな表情を浮かべていた。
「2人が正式にこのクラスに復帰するのは、約1ヶ月後から入る夏季の長期休暇明けになるだろう。 だけど、今回の件は学園側に大きな責任があるし、2人も猛反省しているから、戻ってくる時は、Sクラスの仲間としてまた温かく迎えてあげて欲しい。 頼む」
そう言ってアルドは生徒たちに向けて深く頭を下げた。
それは彼にとって、一種の責任のとりかたであり、生徒を守る教師としての意志のあらわれだった。
そんなアルドの行動に教室内には少しの動揺が走るが、すぐにそれは収まり、
「分かってますよ、先生」
「頭をあげてください、アルド先生!」
一部の生徒から派生するように、Sクラスの生徒達の多くがアルドの意思に理解の声を送った。
「ありがとう……。 君たちのような生徒を持てて僕は誇りに思うよ」
そんな生徒達の温かい言葉にアルドは安堵した表情を浮かべ、誇らしげにそう返した。
そうして、休み明け初日のホームルームは終了した。
◆◆
「急に呼び出してしまってすまない」
アルドはホームルームの後、エルフィアとラフィー、そしてシルバの3人を学園での自室、副講師長室に呼び出していた。
ただ、エルフィア達もまたアルドにどうしても聞きたいことがあったため、むしろ自分たちの方から話に行こうとしていたところだった。
「あの…呼び出しの理由ってユウのこと、ですよね?」
エルフィアがそう聞くとアルドは「うん、その通りだ」と頷く。
「君たちはたぶん気づいていると思うけど、ユウが王立病院で治療中というのは真っ赤な嘘だ。 表向きに体裁を整えるためにそういうことになっている」
「でしたら、マスターはいつ、あたし達のところに帰ってくるんでしょうか……」
ラフィーが心配そうに訊ねる。
「ユウは今───」
アルドはユウの居場所と詳しい目的をラフィー達に説明した。
そしてそれは自分がお願いしたことであることを。
「上手くいっていれば恐らく今日明日には王都へ戻ってくる予定になっているはずだ」
「ほんとですかぁ!」
「明日には会えるのね……」
ラフィーはぱぁっと明るい表情を浮かべ、エルフィアは安心したように胸をなで下ろした。
「レイシアの不安もそろそろ限界だったしなァ、これで何かが良くなればいいが……」
「状況が変わるかどうかはレイシアくん次第だろう。 だけど、ユウがしようとしていることは決して無駄にはならないと僕は信じている」
強い眼差しでアルドはそう言った。
「そうですね!」
「オレらはとにかく信じて待つしかねェってこった」
「……そう、よね」
ラフィーとシルバが共感する中、エルフィアは少し複雑そうに胸に手を起きながら繕うように頷いていた。
「大丈夫ですよ、フィア」
「ほんと、こんないい女を置いてくなんてひでェ野郎だよな。 オレが一発ぶん殴っといてやろォか」
ラフィーはそんな彼女の背中をさすり、シルバは優しくその肩に手を乗せた。
「ありがとう2人とも……大丈夫よ」
エルフィアは2人に感謝しつつ安心させるように笑ってそう言った。
それはややぎこちなかったが、繕った笑顔ではないように2人には思えて安堵した。
「本当に2人とも、良い友人をもったものだね……」
アルドは聞こえないくらいの小さな声で嬉しそうにそう呟いた。
「どうかしましたか?」
なにかを言ったように思え、そう訊ねるラフィーに、アルドは「いいやなんでもないよ」とそのままの面持ちで首を横に振り、
「それより、改めてシルバくんは上位保持者入りおめでとう。 それにエルフィアくんも、序列上位入着、おめでとう。 2人とも本当に素晴らしい活躍だった」
そう言ってアルドは個人的に序列戦を戦い抜き、上位にくい込んだエルフィアとシルバを改めて労った。
◆◆
「さぁ、着いたぞニーナ」
「……ほんとうに、夢みたい」
車椅子に座るニーナにそう声をかけると、彼女は眼前に広がる華やかで賑やかな街並みを広く遠く見渡し、目を輝かせながら感嘆の声を零した。
「ここが───王都だよ」
オルセンの村を出発してからまる6日。
ついに俺とニーナの2人は、王都へと到着したのだった。




