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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第12章 〜孤高の魔女〜
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第161話 ニーナ・アイセン

 

 私の名前は、ニーナ・アイセン。


 オルセンという小さな村に住む、しがない村娘だ。


 ひとつ、普通じゃないことがあるとするならば、私は1人ではなにもすることができないということ───


『あなたのせいで私、こうなってるのよ! この右腕も右脚も、もう二度と動かない! もう二度と弓を引くことも出来ない! 私が王都の学園に行くのが夢だって知ってたでしょ! こんな身体じゃ行けるわけない! あなたが! 私から全部奪ったのよ!』


 ……やめて。


『この、魔女!』


 そんなこと言うつもりじゃ……。


 親友が泣いている……私が、泣かせてしまった……。



「……ごめん、なさい」


 そんなうわ言とともに、私は目を覚ました。

 こぼれた懺悔の言葉はきらきらと輝く鮮やかな朝日の中へ消えていく。

 瞼がとても熱かった。

 また、あの夢だった……。

 私は左腕で顔を覆った。


 それからしばらく、カーテンの隙間からこぼれる日光に当てられて、私はごそごそと体を起こした。

 いつもの朝、私の日常か始まる合図。


 右半身が動かないというのは想像以上に不便なもので、身体を起こすのも一苦労いる。

 さすがそろそろ慣れてきてはいるけれど、まぁ正直こんなことに慣れたくはなかった。


「レイシア……」


 彼女は今、どうしているのだろう。

 元気にしているのだろうか。

 最近はずっとそんなことばかり思っている。


 いつものようにそんなことを考えながらぼぉっと窓の外を眺めていた時だ。



「あれ、誰だろう?」



 見覚えのない人物が村の広場の方を歩いていたのが見えた。


 若い男の子だ。 歳はちょうどレイシアと同じくらいか、もしくはそれよりも下くらいだろうか。

 はっきりとは見えなかったが、凛とした顔立ちと佇まいが格好よく、結構タイプの男の子だなと思った。

 ただそれよりも、なんとなく他の人にはないような不思議な雰囲気を纏っていて、気になった。


「ニーナ、起きてる?」


 頬の暖かさを感じながら、ふわりと少年のことを眺めていた時、母が扉をノックした。


「お、起きてるよー」


 なんとなく気まづくなってぎこちない返事を返す。

「入るわね」の一言とともに、母が木製のタイヤの着いた車椅子を持って部屋に入ってきた。


 いつもの朝である。


「どしたの? 顔、ちょっと赤いわよ?」


「え!? な、なんだろう? 今朝暑かったのかも」


 左手をはたはたとして顔に風を送る。


「ほんと? 体調悪いなら言いなさいね。 さ、朝ごはんもう出来てるから、はやく起きちゃいなさい」


 母はそう言いながら車椅子を押してベッドへ歩み寄る。


「分かった」


 左半身をフル稼働させて、体を車椅子の方へ寄せていく。

 慣れたとはいえ、毎朝これはなかなかしんどい。


 ベッドの隅まできたら、左足だけ地面につけて軸足をつくり、左腕を車椅子の手すりにかけながらゆっくりと体をずらして座る。


「んしょっと」


 私にとってはこれだけでも重労働だ。


 慣れるまでは父が母がいつも私のことを抱えて車椅子にのせてくれていた。


「はい、じゃあいくわよ」


 ただ、やはり自分では車椅子を動かすことが出来ないので、母に車椅子を押されダイニングへと向かう。

 そういえば、あの男の子は一体誰だったのだろう。


 車椅子に揺られながらふと先程ちらりと見かけた少年のことを思い出していた。



 ◆◆



「ここがオルセンの村か…」


 王都を出発してから約1週間、ついに俺はレイシアの故郷、オルセンへと到着していた。


 たしかに小さい村だが、話に聞いていたよりは栄えている気がした。

 だが、自然豊かでなんとなく雰囲気はカーロ村に似ている気もした。

 まぁあの村にいい思い出はないが、前世の都会に比べれば、非常にのどかでいい空気だった。

 そんなことを思いつつ村の中へ足を踏み入れる。


 村の周りには小さく簡易な木製の柵があるのみで、特に入場制限や関税がかけられている様子もない。


 恐らく門であろう2本の丸太をくぐり抜けた。


 時間が朝ということもあって、家の中にいるのか村人が見当たらない。

 不審と思われることを覚悟してきょろきょろと辺りを見渡しながら村の中に歩いていくと、俺に気づいたのか40代くらいの物腰柔らかそうなおっさんが奥の家から出てきた。


「おーい、そこの君ー!」


 小走りでこちらに近づいてくる。


「見ない顔だが、村の人間、ではないよな?」


 少し怪訝そうな表情でそう聞いてきたので、俺は慌てて「申し訳ありません!」と謝罪する。


「俺はユウ・クラウスと申します。 この村に少し用があり、立ち寄らせて頂いたのですが……勝手に入ってしまいすいません」


 そんな俺の謝罪に対し、おっさんは「いやいやいや」と、苦笑しながら手と首を振る。


「大丈夫だよ。 別に責めてるわけじゃないんだ。 この村はとくに入村税とか制限とかかけてないからね。 ただ、お客さんは珍しくてね。 ちょっとびっくりしただけさ」


 おっさんの表情が柔らかくなり、俺もほっと一息ついた。


「僕はアラン。 アラン・マクレイ。 一応この村の村長代理をしてるんだけど、まぁ見た通り普通のおっさんだから、そう構えなくていいよ」


 なんだか凄い親近感があるな。

 ニコッと笑う彼を見てそう思った。


「それで、用って?」


「はい。 アランさんはレイシア……レイシア・コルヌスさんを知っていますか?」


 そう聞くとアランは少し驚いたような表情を見せたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。


「あぁ、もちろん。 彼女のことは村のみんなが知っているよ。 それに、感謝もしている」


「そうですか、良かった……実は───」


 俺は彼の言ったことにほっと胸をなでおろしつつ、オルセンに来た目的と経緯を話した。


 レイシアの過去、現状、彼女が抱える悩み。

 そして、その最大の要因となっているであろう、ニーナ・アイセンに会いに来たということ。


 少し話した後、立ち話もどうかということで、続きとより詳しいことはアランの家で話すことになった。


 家には奥さんと10才くらいの小さな娘さんがいたが、話している間は別室に行ってもらっているらしく、少し申し訳なかった。


「そうだったのか、いいやそうだったろう……彼女には本当に申し訳ないことをした」


 俺の話を聞き終えると、彼は目を閉じ、心底申し訳なさそうにそう零した。

 そこには後悔のようなものもあるように思えた。


「それでクラウス君は、王都からはるばるオルセンまで来てくれたんだね」


「はい。 まぁ余計なお世話かもしれませんが……」


 苦笑いする俺に対しアランは「いや」と言葉を挟む。


「本当なら僕たちの方からあの子のところへ赴いて、伝えなきゃならなかったのさ。 ただ、今更どんな顔していいか分からなくて、ずるずるとここまで来てしまったんだ。 本当に情けない話だけどね」


「……」


 そんなことない、とは言わなかった。


 彼はその後もふつふつと語った。


 毎月のように送って貰っているレイシアからの仕送りのおかけで助かったということ。

 けれどその厚意に対して手紙のひとつも返せていないこと。

 しばらく仕送り金には手をつけていないこと。

 盗賊から村を守ってくれたことにとても感謝していること。

 直接会って謝りたいということ。


 レイシアに対する感謝や、謝罪の気持ち、後悔の念、さまざまなことを話した。


「あ、申し訳ないね。 僕の方が話を聞いてもらっちゃって」


 静かに話を聞いてる俺を見てアランは申し訳なさそうに笑う。


「いえ、この村の人からその話が聞けてとても安心しました」


 全くその通りで、オルセンの人がちゃんとレイシアのことを見て、考えて、想ってくれていることを知ることができただけでもここまで来た甲斐があったというものだ。


 雰囲気がにているということも相まって、やはりどうしてもカーロ村と比べてしまう自分がいる。


 オルセンとあの村は関係ないというのに……。


「そうだ、クラウス君はアイセンさんに会いたいんだったよね」


「え、ええ」


 そう声をかけてくる少し気後れしつつ返事する。


「向こうも多分今は朝食時だし、後で案内するよ」


「ありがとうございます! よろしくお願いします」


「あぁ。 じゃあ僕らも朝食にしようか。 クラウス君も食べていってよ」


 アランの誘いもあり、やや恐縮しながらも彼のお言葉に甘えて朝食をとらせてもらった。


 そして、アランの家で1度着替えさせてもらい、俺はついにニーナ・アイセンのもとへ向かうこととなった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりの更新ありがとうございます! レイシア編の続きからですが、やっぱりニーナさんも後悔していたようですね。 ところでユウさん一人で来ているということは今武器などは持っていないのでしょうか…
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