第154話 レイシア①
すいません遅れました!
今回は短めです。
学内序列戦が終わってから、ミシェド学園は2週間の休養期間に入った。
ハードスケジュールで進行されていた序列戦での疲労を考慮してのことだそうだ。
そして今日はその1日目。
俺は学園の副講師長室へ足を運んでいた。
木製の扉をノックすると、乾いた音の向こうから「どうぞ」と、爽やかな男性の声が聞こえてくる。
「失礼します」
そう言って、扉をくぐると奥の机で紙にペンを走らせるアルドの姿があった。
彼は俺が入ってきたのに気づくと、手を止めすっと微笑みかけてくる。
「やぁ、ユウ。 その後、体の調子はどうだい?」
「お陰様で、すっかりよくなりました」
「元気そうでなによりだよ。 まぁ僕は何も出来なかったわけだけれど」
アルドは少し申し訳なさそうに笑いながら、ぼそっとそう呟いて席を立つと、部屋の中央にあるソファへと移る。
そして俺にも座るように促してきたので、俺も席に着き、小ぶりな長机を挟んで向かい合った。
「それで、今日はどうしたんだい?」
「はい、聞きたいことがあってきたんですが、少しお時間頂いてもいいですか?」
「もちろん構わないよ。 それに、何となく察しはついていたしね」
「え…?」
アルドは机に備えられていた2つのティーカップに紅茶を注ぎながらそう言った。
そして、片方のカップを俺の方に差し出してくると同時、まさしく今日の核心をつく名前を口にした。
「レイシア・コルヌス、についてだろう?」
それを聞いて、俺は一瞬戸惑いを隠せなかった。
そして俺の表情を見て、アルドは「どうやら、当たりみたいだね」と呟く。
「僕も昨日の決勝戦は拝見させてもらったよ。 ……レイシアくんの様子がおかしくなったのは、僕も認知している」
「アルド先生もやっぱりそう思いますか」
「あぁ。 ただ、だからと言って勝敗に口を出す権利は誰にもないけどね」
アルドが言っていることは全くもってその通りだ。
例え、あの時レイシアが何かしらの影響を受けて、本調子を出せなかったのだとしても、そこに誰かが口を挟むことは出来ない。
メンタルの維持も戦闘において重要な要素なひとつだからだ。
きっとアルドは万が一俺がレイシアの試合のやり直しや勝敗の変更を申し立てるようなことがないように釘さしたのだろう。
だかしかし、だからといって、それは俺たちが何もしない理由にはなり得ないのだ。
「もちろん、それは分かっています。 だけど、知りたいんです。 レイシアのこと」
俺は知らない、レイシアのことを。
学園入学を叶えてくれた恩人を、学園に来て始めてできた友人のことを。
そして何より、ずっと引っかかっていたことがある。
特別推薦枠試験が終わった時、アルドが言っていたあの言葉。
「孤高の魔女……。 前に言っていた、あれは多分レイシアのことなんですよね?」
意を決してそう訊くと、アルドは静かに「あぁ」と頷く。
その表情には、前にレミエルが見せた慈愛のようなものもあったような気がした。
「今から話すことは、多分レイシアくんが最も君に知られたくないことだ。 それでも聞くかい?」
アルドはそう聞くが、俺に迷いなどない。
俺は彼の目を真っ直ぐと見て、力強く頷いてみせた。
するとアルドはクスリと笑い、レイシアが学園にくるまでのことを話し始めた。




