第145話 決着(vsアーサ)
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「クソっ、舐めんじゃねぇぇ!!」
俺の言葉と態度に挑発され、アーサは怒り狂ったように剣を構え直し咆哮した。
そしてぐっと腰を低くすると、激しい勢いで俺の寝首をかかんとして進撃する。
「それでいい……」
やつのその行動を見て俺はそう呟いた。
次瞬、降りかかるアーサの縦一閃を俺は下から突き上げるように剣で弾く。
重い一撃の激突に、火花が散ると共に、鈍い音と振動が腹の底まで響いた。
間髪入れず再びひとつ、またもうひとつ剣撃を交え、その後お互い後ろに軽く飛び距離をとる。
「はぁはぁ……」
アーサの息が上がっている。
焦りや怒りのせいもあるだろうが、これまで剣の修練をあまりしてこなかったのか、剣を振る動きが大きく、無駄が多すぎるからだろう。
だがしかし、状態が良くないのはやつの方だけではない。
「うっ……」
強い目眩と体の痺れに俺は思わず呻き声をこぼす。
先程の停止時間で、俺は自分の身体に毒が回っていることに気がついた。
魔法の気配はなかったから、恐らくだが、魔法障壁付与剤か何かに毒が混じっていて、それを気付かぬ間に摂取していたのだろう。
だから、先のタイミングで残りのSPを使い『毒耐性』のスキルを発動しておいた。
今まともに動くことが出来ているのは、そのスキルとあとは、あのスキル……『強化反撃』のおかげだ。
新たに得た固有スキル『強化反撃』の効果は、戦闘時間や被ダメージに応じてステータスが上昇するというものだ。
つまりは、戦闘時間が長くなればなるほど、大きなダメージを受ければ受けるほど、上昇幅は増加する。
ただし制限時間は10分と短い。
それまでアーサに受けたダメージと、毒による体内の消耗で、現状かなりの恩恵を受けることができていると言える。
だが『毒耐性』もスキルレベルが低く、あくまで耐性であり解毒ではないため、そこまで過信はできない。
次に動きが留まることがあれば、また同じように全力で動ける保証はないだろう。
「長くはもたないな……」
小さくそう呟き、俺はひとつ深呼吸をした。
それは決意の意も込めてのものだ。
ゆっくりと肺に空気を入れ、すっと吐き、意識を研ぎ澄ませる。
するとややぼやけていた視界はクリアになり、目眩と体の痺れも弱まった気がした。
見るとアーサの方も息が整ったらしく、構えた剣は雷を纏い、今にもこちらへ飛びかかって来そうなほど前のめりになっている。
俺も下半身に力を入れた。
足裏でぐっと土を踏み込む。
一呼吸分の沈黙が降り落ちた。
次瞬、お互い同時に懐へ飛び込まんとして肉薄する。
「らぁっ!」
先に剣を振るったのはアーサだった。
右肩から下ろす鋭い斜め切り。
動きにまだ多少の無駄はあるが、先程より重く、精度の高い一撃だ。
どうやらアーサも気持ちを切り替えたらしいということは、その表情からも分かった。
しかし、雷の剣は簡単には受けられない。
俺はギリギリのところでその剣撃を回転しながら避けた。
ブンっと空を切る重低音が鳴ると同時、俺は回避したそのままの勢いをもって横一閃を打つ。
「ぐっ……!」
アーサは俺の一撃に苦悶の表情を浮かべながら呻吟するが、その吹き飛びざま手を伸ばすと、
「……包囲稲妻!!」
その魔法名が口に出された瞬間、俺の周りを雷の輪が囲った。
そしてアーサが拳を握るとその輪はすぐさま収縮する。
「……!」
俺は咄嗟に上に飛んで回避しようとするが間に合わず、雷の輪に足首を捕らえられ、全身に電撃が走る。
「うぐぁぁ!」
全身が燃えるように熱く、服の一部は煙を上げて焦げていた。
しかし、ここで立ち止まる訳にはいかない。
俺は倒れそうになるところを何とか踏ん張り『瞬足』を使って、既に立ち上がろうとしていたアーサとの距離を一気につめる。
「……はっ!?」
突然目の前に現れたように見えた俺に、アーサは目を大きく見開いた。
しかしすぐさま回避行動を取り、俺の斜め切りはやつの脇腹を掠っていく。
「くっ!」
体勢が崩れた。
俺はそれを見て、矢継ぎ早に次の剣閃を打ち込みに行くが、アーサは驚くべき速さで体勢をたてなおし、完璧に俺の剣を防いだ。
「……っ!」
するとやつの剣を纏っていた雷撃が俺の金属剣に感電し、剣がとんでもなく熱くなる。
そしてじわりと俺の体にも電流は流れていく。
こうなることを知っていたから、俺はやつの剣を頑なに避けていた。
だからこうなることも予定内だ。
俺は立ち所に剣を放り捨て、腰の短剣に手を伸ばした。
「……!?」
突然武器を捨てた俺を見て、アーサは驚愕といった表情を浮かべる。
どういうつもりだと言わんばかりに。
そこに出来た僅かな隙をも俺は見逃さない。
短剣を抜くと同時にやつの腹部に蹴り打ち込み、再び体勢を崩させた。
そしてそのまま逆足でもう一歩地を踏み込み、短剣を振りかざす。
長剣に比べて短剣はリーチが短い分、速度は上がる。
この一撃にアーサは回避することも受けることも出来ず、短剣はやつの首元を直撃する。
「がっ……!」
だが早くなる分、威力は大幅に減少してしまうために、急所を直撃しても魔法障壁が破れない。
だから終わるまで何度でもやるのだ。
一瞬の隙も見せず与えず、とにかく速く、速く!
俺は続けて、二撃……三撃と短剣を振るう。
「……くそっ!」
アーサはこの速さを上手く捉えることが出来ず、そんな不平を呟いていた。
俺もそうだが、やつの体力もそろそろ限界が近い。
それは、今の動きが先程に比べて明らかに鈍くなっていることからも容易に予想が着く。
そして、先に限界を迎えたのは……
───ピキッ……
何かにヒビが入るような音がした。
その音が何であるかに直ぐに気がついて、アーサが苦し紛れの咆哮をあげる。
「くそ! くそぉっ……!! なんでだよっ!」
しかしそんな声も虚しく、とうとうその時は訪れる。
「終わりだぁぁ!」
俺は最後になるであろう一撃を振り下ろした。
全身全霊を込めて。
その時目に入ったアーサの表情は、敗北を悟ったのか、酷く呆然としていた。
───バリィィィインッ!!
魔法障壁の砕け散る衝撃音が、スタジアム内を反響した。
同時に、審判役の戸惑うような声も鳴り響く。
「そ、そこまでっ! 勝者……ユウ・クラウス!」
その合図の声が消えゆくと、スタジアム内に歓声など起こるはずもなく、なんとも言えないどんよりとした空気が漂っていた。
 




