第144話 反撃②
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『条件の達成を確認しました』
その声と共に、時間がひっそりと静止した。
俺の意識だけが、はっきりと、そしてぽつりと別の世界へ投げ出されてしまったような俯瞰的な感覚がある。
先程までこんがらがっていた頭の中はとてもクリアで、苦痛に軋んでいた身体は自分のものではないみたいに軽い。
このような状況が、感覚が、一体何を意味しているのか、俺はよく知っている。
ミルザさんの知識と経験則からして、極めて重要なタイミングでのスキルの取得、そして固有スキルの発現の時に起こる現象だ。
今までだと、『可能性』のスキルを得た時を含めて三度。
今回で四度目となる。
どうしてこのタイミングだったのかは、考えずともはっきりしていた。
俺は拳を再度握り締め直すと、声はついにそのスキル名を口にする。
『固有スキル、強化反撃が取得可能です』
強化反撃……ミルザさんの作ったスキル一覧ノートにさえも記載がなかったスキルだ。
だが、固有スキルということからも、このスキルが俺専用のものなのだと自然と理解出来た。
そして声はこのスキルの能力を端的に、淡々と説明する。
その内容が自分でも驚く程ストンと腑に落ち、頭の中に刻み込まれた。
まるで、元々その内容を分かっていたかのように。
そして声は最後にお決まりの文句で俺に問いかける。
『────取得しますか?』
念押すような口調のその言葉に、俺はふっと微笑を零した。
だってそんなことは、言われずとも決まっているのだから。
そう考えると、声の主も少しだけ微笑んだように思えた。
同時、とても長く、ほんの一瞬だった静止時間は凍解し、とうとう動きだす───。
すると、動き出した時間の中で真っ先に目に映ったのは、顔を真っ赤にし、怒り心頭といった形相のアーサだった。
「な、なに立ち上がってんだ! てめぇみてぇなクズは大人しく地に這いつくばってればいいんだよっ!」
しかし、そんなふうに怒号を散らすやつの様子には、明らかな動揺が透けている。
有り得ない、こんなはずじゃないとでも言うように。
それを悟られまいとしたのか、或いは気が付かない振りをしようとしたのか、アーサは「はんっ!」と、余裕ありげに鼻で笑って見せると、
「どうせほとんど動けねぇんだろう!」
苦し紛れな嘲笑を浮かべ向けながら、強い焦燥の混じる声で叫んだ。
そして、手に持っていた片手剣を大きく振り上げる。
「これで終わりだぁぁ!」
そう叫びながら、俺の頭上目掛けて、剣をがむしゃら振り下ろした。
その場から一切動く気配を見せず、剣を避けようともしない俺を見て、アーサは自身の勝利を確信したのか、安堵したようにニヤリと笑む。
だがしかし、次瞬その剣撃が、俺に到達することはなく、代わりに鈍い鋼音がスタジアム内に響いた。
「は……」
アーサはそう息を零しながら、何が起きたのか分からないというように呆然と目を見開く。
俺がそんなやつの顔を睨みつけてやると、アーサはようやく、自身の剣が俺の振るった剣に弾かれたことに気が付き、酷く顔を歪めた。
奥歯を噛み締め、額には脂汗と、何本もの青筋が浮かんでいる。
「……ざっけんな」
アーサはぽつりとそう呟くと、俺に指をさしてきた。
「ざっけんなよまじで! なんで動けてんだよ、てめぇは!」
声を荒らげ、怒り任せにそんな叫喚をあげる。
「全部上手くいってたはずだ! てめぇの心ももう折れてたはずだろうが! 終わってたはずだろうが!」
ひたすらに喚き散らすアーサの様子は、まさしく、自分の思い通りにならないことに苛立ちを覚える、みっともないガキのそれにしか見えなかった。
だがしかし、今ここで交わすべきは安い言葉でも、ましてや煽りあいなどでもない。
だからこそ俺は、奴にこう言ってやる。
「そんなの、今考えることじゃないだろ?」
今この場で交えるべきは、磨いてきた剣技とその研鑽、そして己の矜恃なのだから。
「さぁ、剣を構えろ晴人。 ───決着をつけるぞ」
俺はアーサに、元親友に剣先を向けそう告げた。
この戦いと……そして過去の因縁に終止符を打つために。




