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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第11章 〜学内序列決定戦〜
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第140話 異変

 


 入場口脇の『魔法障壁付与剤』を流し込むように飲み干し、空瓶を戻すと、俺はいよいよスタジアムフィールドへ乗り出した。


 夕暮れ時で、空は少し赤みがかっている。


 対戦相手はまだ入場しておらず、中央には審判役が待機していた。


 スタンドを見渡せば、試合を観戦しに来た学生観客達が全席を埋め尽くすほどにひしめいている。


 その数は、これまでのシルバやエルフィア、他の予選決勝とも、まるで比にならない。


 恐らく時間的な要因が大きい。


 予選トーナメントももう終盤。


 大半の生徒が今日までの試合日程を全て終え、時間に余裕ができた頃だ。


 そこでこの予選決勝は、観戦者にとっえはまさにお誂え向きと言えるだろう。


 出場者が学園では知らない人はいないであろうあの、勇者アーサ・ライルボードなのだから。


 多くの生徒が彼目当てに足を運んだに違いない。


 フィールド中央へと向かう足が何だか少し、重たい気がした。


 そんな感覚を味わいながらも、中央付近の方へ到着すると、待機していた審判役は、対戦表と思しき用紙を見下ろし、俺の本人確認を取る。


 その後、俺の武装と、魔法障壁の正常な展開を確認して「問題ないね」と頷いた。


 あとは対戦相手を待つだけと言ったちょうどその時、


「────おい、来たぞ!」


 スタンドのどこかで、誰かが興奮したように叫んだ。


 次瞬、俺の向かい側ゲートから入場してきたその人影がフィールドヘ落ちると、会場内は一斉に歓喜の声に包まれる。


 奴は晴朗な様子で微笑みながら、スタンドへ向けて手をひらひらと振り返した。


 その男は、予選第85ブロック決勝、俺の対戦相手───アーサ・ライルボードだ。


 アーサはゆったりとフィールド中央に着くと、俺に向かって手を挙げた。



「よ。 お前も勝ち上がってきたみたいだな」


「……あぁ」


「んだよ、観客が多いからって緊張してんのか?」


「別に……」



 こんな状況でも陽気なアーサに対して、俺はどうしても生返事になる。


 そんな言葉を交わした後、審判役が俺に対しても行ったようにアーサの本人確認等を済ませた。


 対戦の準備が整ったところで、アーサは俺の方へ1歩寄ってきて、手を差し出してくる。



「よっしゃ、そんじゃよろしくな。 手加減も恨みっこもなしだぜ?」


「……」



 俺は躊躇いつつも、ぎこちなくその手を取った。


 これは単なる対戦前の握手のはずだと、そう思っていた。


 しかしその時、どういう訳か、とてつもなく嫌な感覚が全身を震わせた。


 背中を逆なでられたような不気味な気配。


 まるで本能が警鐘を鳴らしているかのように、脈拍と呼吸が速まる。


 先の控え室の時よりさらに酷い。


 だが、きっと俺はその元凶が今どこにあるのか分かっていたのだろう。


 無意識だったのか、アーサがこの場に到着してから、俺は奴の顔を一切見ていない。


 否、見ようとしていなかった。


 今も、俺の視線は頑なに自身の手に張り付いている。


 それでも……いや、だからこそ俺は見なければならない。


 そうしなければ、きっとこの因縁の戦いは始まらないから。


 思い立ち、俺は恐る恐ると、視線を上げた。



「……っ!」



 視界に映りこんだ()()に、俺は目をかっと見開き、息を飲む。


 ほんの一瞬だけだったが、そこには、俺を裏切り陥れたあの時と同じ、あるいはそれ以上の邪悪な微笑が、ニタリと不気味に浮かび上がっていたような気がした。


 しかし次の瞬間、



「……どうしたよ? 顔、真っ青だぞ?」



 アーサは特に何事もなかったかのようにケロリとした様子でそう言って、俺の顔を覗き込んできた。


 そこにはやはり、先程見たようなどす黒い表情は見受けられない。


 もしや見間違いだったのではないか、そう思わせるほど、本当に一瞬、瞬き1度にも満たない間のことだったのだ。


 だが、あれは決して見間違いなどではない。


 その確信が俺にはあった。


 アーサに次いで、審判役の講師が「大丈夫かい?」と、心配そうに訊ねてくる。



「……いや、別になんでもないです」



 俺は極めて冷静を取り繕い、2人に対してそう返した。


 先の動揺をアーサに悟られる訳にはいかない。


 付け入られる隙を見せるな。


 戦いはもう始まっているのだ。



「それならいいいんですが……」



 俺の返事を聞いて審判役はそう呟くと、俺とアーサに初期位置に着くよう指示を入れてきた。



「じゃあ2人とも、位置に着いてください」


「はい」


「うっす」



 その指示に従い、俺達はお互いに背を向け、一定の距離を空ける。


 そして向かい合う形を取り、両者武器を構えた。


 審判役もフィールド中央から離れ、自身の持ち場に着くと、アーサへの声援で湧いてた観覧席に静かにするよう指示を入れた。


 状況的に考えれば、この場は今、俺にとって圧倒的にアウェイな空間であることには違いないだろう。


 だが、そんなことはまったくもって問題にならない。


 こんな空気感、何度だって味わってきた。


 俺はとにかく、目の前の敵に集中するだけだ。


 奴の武器は見たところ俺と同じ片手直剣。


 俺の使うものよりは若干長いだろうか。


 サブ武器は特になし。


 恐らく、戦法は剣と魔法の両刀スタイル。


 魔法属性は雷。


 開幕は、魔法を打つ隙を与える前に速攻をかけて、剣の方の実力を確認したい。


 できることならそのまま連撃で押し切れれば理想だが。


 ただ、厄介なのは、奴の単なる戦闘力のみに警戒を置くわけにはいかないということだ。


 先の不敵な微笑。


 間違いなく、何かしらの悪どい手段を用いてくるはず。


 それが分かるまでは迂闊な動きは出来ない。


 が、とりあえず今は開幕速攻に集中だ。


 正攻法以外の攻撃にも警戒しつつ、何かあれば適宜対応する。


 ───大丈夫、大丈夫だ……。


 頭の中で、作戦の確認をし、あとはひたすら自分の気丈夫を自身に言い聞かせた。


 審判の指示のおかげで、会場内は既に静寂に包まれている。


 その静寂を切り裂くように、審判役は開始前の決まり文句を言った。



「それでは、予選トーナメント第86ブロック決勝、1年、アーサ・ライルボード対、1年、ユウ・クラウスの試合を開始します───」



 俺は剣をギシリと握りしめ、1つ深呼吸を挟むと『身体能力倍増』スキルを発動する。


 再び、刹那の沈黙が会場内を支配した。


 そしてついに、開始の合図が放たれる。



「───始めっ!」



 声はスタジアム内を響き渡り、この予選決勝の開始を告げた。


 その声が放たれたと同時に、俺は足に力を込めスプリントしようとする。


 しかし────



「あ、れ……?」



 何故だか全身に全く力が入らず、とてつもない目眩(めまい)と共に、視界がぐらりと揺らいだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ユウさん始まった瞬間めまいがしたみたいですがどうしたのでしょうか?どうやらアーサと握手したときに悪寒したということはやはりアーサが何かしたみたいですが・・・どこまでもクズですね・・135話…
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