第139話 因縁の戦いが幕を開けて
先週はお休みしてしまい申し訳ありませんでした!
俺の初戦が終わった後は特に何事もなく、試合観戦をしながら予選トーナメント2日目は終了した。
翌日の3日目。
この日はシルバとエルフィアの二回戦が行われた。
結果的に、2人とも無事勝利を収め、予選トーナメント第26ブロックと72ブロックの決勝進出を決め、3日目も終了。
そして遂に迎えた予選トーナメント最終日となる4日目。
まずは序盤に俺の二回戦。
相手は1年Aクラスの男子生徒。
ほとんど記憶にはないが、確か元クラスメイトの奴だ。
今日中に決勝もあることを考えると、スキルの使用はできるだけ控えたかったが『身体能力強化』だけは使うことになってしまった。
ただそのおかげもあって、体力の消耗は最低限抑えつつ勝つことができたのは大きかった。
俺の決勝の相手は、恐らくあの男、アーサ・ライルボードだ。
俺の試合の順番と時間的に、まだ1度も彼の試合を見ることが出来ておらず、その実力は未知数だが、勇者という天職に加えて、今年の入学試験首席合格の実績。
単純な実力勝負をしても、確実に難敵になってくるだろう。
同じ勇者でも、メルクと同列視していれば間違いなく足元を掬われる。
それに、あの男の性格からして、やはり想像してしまう。
実際、純粋な勝負になるとも限らないということを。
そんな俺の懸念など他所に、予選トーナメントは順調に進んでいき、俺の二回戦の後、程なくしてシルバの予選26ブロック決勝が行われた。
やはり決勝と言うだけあって、会場内の観客はこれまでの予選とは比べものにならない数が集まっている。
シルバの相手は3年のロック・バイラーという先輩だ。
一回戦二回戦と余裕をもって勝ち上がってきたシルバも、この相手にはかなりの苦戦を強いられており、戦況は極めて拮抗していた。
というのもレイシア曰く、この3年生、去年は怪我で序列戦を欠場したために、予選トーナメントからの出場となった人らしいのだ。
シルバの二回戦がおわったあと、ちょうど彼の試合を観戦したのだが、見たところアルドと同じグラディウス流大剣術を扱っているようだった。
それに対して今回、シルバは槍を使っての格闘戦術に切り替えている。
シルバが近接格闘のみで戦えば、ロックのリーチの長い大剣術に圧倒的な武があるからだ。
とは言え、お互い全く譲らない展開が続き、試合時間は30分を裕に越え、模擬戦としては比較的長期戦となった。
結果としては、僅差でシルバの方に軍配が上がることになった。
ただ、残念ながら負けとなったロック先輩も、あれほどの実力ならば、本戦トーナメント出場権の残り枠を間違いなく取りに行けるだろう。
そして、息を切らしながら戻ってきたシルバの表情には全くもって余裕がなく、
「マジで負けたかと思った……」
一言静かにそう呟いて、ぐたりと椅子に座り込んでいたが、何はともあれ、こうしてシルバの本戦トーナメント出場が決定した。
次はエルフィアの予選72ブロック決勝だ。
相手は同じ1年Sクラスのレオナ・フォードという女生徒。
エルフィアと同じく魔法を主体とした戦法だ。
二人とも魔法の質が非常に高く、かなりハイレベルな魔法戦だった。
魔法対魔法による戦いは基本的に、手数、威力、そして魔力量で勝負することになる。
近接戦闘になることはまずなく、お互い常に一定の距離を保ちながら戦うのだ。
ただ例外もあり、身体強化系の魔法に優れた者であれば、近接での魔法戦を仕掛けることもあるらしい。
どちらにせよ、魔法を主戦法として扱う者のほとんどが必ず防御魔法から修練する。
もちろん、防御に専念しているだけではただ魔力が尽きるのを待つのみで勝つことは出来ない。
そのために、手数と威力で相手を防御に専念させ、自分が防御に使うための魔力をどれだけ攻撃に転換できるか、というのが魔法戦の重要なポイントのなってくる。
そして、その上で肝心なのはやはり魔力量になるというわけだ。
それ故、ハイレベルな魔法戦ほど、長期戦になりやすい。
今回のエルフィア対レオナの試合も例に紛れず、かなり長い戦いとなったが、最終的にはエルフィアが勝利し、本戦出場権を獲得することになったのだった。
その後、他のブロックの決勝も続々と終了していき、時計が17時にさしかかろうかといった頃、遂に俺の予選決勝を迎えた。
「やっぱこうなるよな……」
控え室で装備を整えながら、俺は1人、ため息混じりにそう呟いた。
決勝の相手は予想通りあの男、アーサ・ライルボード。
恨み辛みは無しで正々堂々と戦う……今回は奴のその提案に乗ってやろうと思っていたが、今になって、やはり脳裏にはチラついてしまう。
────じゃあな、元親友くん?
俺を裏切り陥れ、満足そうにニタリと笑った、あの悪魔のような表情が。
「───っ……はぁはぁ……」
当時のことを思い出し、呼吸が乱れる。
憎しみと怒りで、腸が煮えくり返るような感覚を味わい、吐き気がした。
脂汗が額にじんわりと滲む。
「あぁくそ……だめだ、落ち着け」
首を小さく横に振りながら、目をぎゅっと瞑り、一息深呼吸をした。
痛くなったような気がする頭を片手で抑える。
「くそ……さっきまではなんともなかったのに」
どうして今更になって、こんな気分になってしまうのか。
なんとも言えない焦燥感が押し寄せてくる。
しかし、このままでいる訳にもいかない。
「今は気にしてても仕方がない。 集中しろ。 大丈夫。 俺は強くなった。 あの時とは違うんだ」
気持ちを切り替えようと再び頭をぶんぶんと振り、自分に強くそう言い聞かせる。
そしてもう一度深呼吸をして、一通り落ち着いたことを自覚すると、俺は椅子から立ち上がり、控え室からスタジアムへと入場した。
しかし、この時の俺は気がついていなかったのだ。
いや、気づかない振りをしていたのかもしれない。
自分の身体が、まだ臆病に震えていたことに───
 




