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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第11章 〜学内序列決定戦〜
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第138話 一回戦②

前話137話で試合の時間がおかしかったので少し手直しを加えました。

宜しければご確認して頂ければ幸いです。

 



「この中から選ぶのか……」



 初戦直前、俺は控え室で武器選びをしていた。


 予選トーナメントでは学園側が指定、用意したもののみを使用しなければならない。


 よって出場者は、試合前の控え室で適宜使用したい武器を選ぶのだ。


 一応ルール上、選べる武器の数に制限はなく、指定されたものであればいくつでも試合で使用することができる。


 控え室には、剣、槍、弓、盾、さらに魔法効率上昇用の杖まで、様々な武具や防具が用意されていた。


 剣だけでも、短剣から大剣、細剣など結構な種類が取り揃えられている。


 ざっと物色してみて、その中から丁度良さそうな長剣を手に取った。


 拳を軽めに開閉しながら柄の握り心地を確かめ、剣を少しだけ振る。



「……いい感じ」



 刃は当然なまくらだが、品質の高い金属素材で程よい重力感があり、個人的な使用感としてはかなり良好と言える。


 一応他の剣も少し試してみたが、最終的には、やはりその長剣と、あともう1つ予備の武器として、かなり小型の短剣を選んだ。


 身軽さを優先するために盾や防具は装備しない。


 長剣を横側、短剣を背中側の腰に装備し、俺は控え室からスタジアムフィールドへと向かった。


 途中、入場口の脇に模擬戦用の『魔法障壁付与剤』が用意されており、ルール通り、入場の前にそれを飲み干し、からの瓶を元の場に戻してからフィールドへ入場する。


 中央には、審判役の講師と俺の対戦相手らしき者が待っていた。


 両者に向かって「よろしくお願いします」と挨拶をしながら中央へと合流する。


 目の前の対戦相手。


 確か、2年のデイル・オリバーだ。


 緑色の短髪、筋肉質の長身。


 ぱっと見たところ、武器は盾装備の片手剣。 一体どんな戦法でくるのか。


 そんな風にデイルの情報を探っていると、突然彼が話しかけてきた。



「お前が噂のユウ・クラウスか」


「噂……ですか?」



 噂……噂ねぇ。


 正直だいたい検討が付く。


 そして、デイルは次の瞬間、検討どおりのことを、予想通りの態度で口走った。



「お前、無職なんだってな?」



 言いながら、彼はニヤリと笑う。


 その笑みは正しく嘲笑の類であり、侮辱であり、俺の事を下に見ている証拠だ。


 こんな態度はもう何度も見てきた。


 だから返す言葉ももう決まっている。



「だったら……なんだって言うんです?」



 俺は睨みつけそう言ってやった。


 すると、そんな俺の態度の何が可笑しかったのやら、デイルは「ははっ」と吹き出して、



「否定しないってことはほんとなんだな!」


「……」


「まじ、一体どんなせこい手段使えばこの学園に、それもSクラスなんかに入れるのか、是非とも教えて欲しいね」


「……じゃあ、自分で確かめてみるといいですよ」


「は?」



 なんのことだと、理解が追いついていない様子のデイルを気にすることもなく、俺はそのまま、腰に下げていた長剣を抜く。



「別に、笑いたければ笑えばいい。 ただ、試合が終わった後、笑えているかは知りませんけど」



 俺が煽るように笑ってやると、その態度が気に入らなかったようで、デイルは「ちっ」と舌を打ち、あからさまに不機嫌な面持ちを浮かべる。


 そして「ふん」と苛立ち気味鼻を鳴らし、



「いきがるなよザコが。 直ぐに終わらせてやる」



 そんなふうに悪態をつきながら、デイルも剣を抜いた。


 すると、両者が武器を手に取ったのを見計らった審判役の講師が、俺とデイルの間に一定の距離を空けるように指示する。


 ルール上では、対戦相手がお互いに規定で決められた距離をとってから試合開始しなければならないからだ。


 そして、審判は俺とデイルの間に距離が空いたことを確認すると、



「それではこれより、予選トーナメント1回戦、第8スタジアム、第43試合、1年Sクラス、ユウ・クラウス対、2年Cクラス、デイル・オリバーの試合を開始します」



 試合開始前の文言を言い終え、ついに試合開始の合図がスタジアムに轟いた。



「始め!」



 その合図とともに、俺の学内序列決定戦、初戦は始まった。



「おらぁぁぁ!」



 次瞬、デイルは叫びながら凄まじい勢いで俺の方へ突進してきた。


 どうやら彼の戦法は開幕速攻系。


 盾を前に突き出すことで、カウンターを予防し、リーチの長い剣で突きを打ち込むってところか。


 武装からして天職は恐らく剣士系統。


 その速さを見ても、既に身体強化系と剣術スキルは展開済みだろう。


 かなり手際はいい。


 だが、それならば、俺のやるべきこともまた決まってくる。



「ふっ!」



 突進で一瞬のうちに距離を詰めてきたデイル。


 予想通り、盾の後ろから突き出されてきた剣先。


 俺はそれを素早く右側に避け、間髪入れずに敢えて盾に剣を打ち込む。


 当然、その盾はカウンター対策のためのものだ。


 俺の攻撃はほとんどダメージにはなっていないだろう。


 だが────



「くっ……!」



 ただ一点に集中させた俺の一撃は重く、デイルは盾を弾かれながら、滑るように後退した。


 ダメージは防げたとしても、存外盾から伝わる振動は大きいものだ。


 身体の軸はぶれ、一瞬の間だけ体幹は安定を失う。

 鍛えていればそうなることもなかろうが、どうやらデイルは違っていたらしい。


 俺の一撃を受けてもたつく彼の表情には、先程までのような余裕は一切なく、驚愕と焦りの色が滲んでいた。


 予想外のことが起きれば必ず次の判断が遅れる。


 その隙を俺が見逃すはずがない。



 ────瞬発力強化!!



 スキルを発動し、瞬時な軸足に力を込めると、地を思いっきり蹴り、次は俺の方がデイルに向かって突進した。


 突然として目の前に現れたかに見えたであろう俺の姿に、デイルは苦渋の表情を浮かべ、慌てて盾を構える。


 しかし俺は体を捻り、左から横凪を入れる。

 盾を持っているのは左手。


 体勢がまだ完全に戻りきってない今の状態なら、盾で防ぐことは不可能。



「くそっ……!」



 デイルはなんとか苦し紛れに右手の剣で俺の剣撃を防ごうとするが、今の体勢の悪さからして弾き返せるはずもない。


 そもそも彼の剣は、俺の剣に比べて薄く細く軽い。


 盾で攻撃を防ぎ、カウンターで突きを打ち込むような戦法ならば当然の武器選択だろうが、今はそれが仇となったのだ。



 直撃は避けたものの、俺の剣を受け止めきれず、デイルは「うぐっ」と呻きをあげながら、横向きに吹き飛び、地をころげた。


 だが、これで終わりであるはずもない。俺は倒れ込むデイルへすかさずもう一度突撃し、追い打ちを仕掛ける。



「ま、待って……!」



 デイルは必死にもがきなら、泣きそうな目をかっと見開いて、追撃に詰めいる俺にたんまをかけてくるが、決着はまだついていない。


 俺は構わず剣を振り上げる。



「ごぁっ!」



 既にデイルには反撃する気力も抜けてしまっていたようで、追撃は完全に直撃した。


 それでもまだ魔法障壁は途切れていない。


 二撃、三撃……と、俺はひたすら追撃に追撃を重ねていく。


 戦意を喪失した相手に対して、ここまでやるのはどうも気が引けたが、勝負は終わらせなければならない。


 そして、六撃目を加えたその時、ついにデイルの魔法障壁は悲鳴をあげた。



「バリィィィンッ!」



 魔法障壁が割れ散る音がスタジアム内に響き渡る。


 それはすなわち試合終了の証明。



「そこまで! 勝者、ユウ・クラウス」



 審判のその言葉と共に、俺の学内序列決定戦、予選トーナメント一回戦は、無事、俺の勝利となったのだ。


 試合が終了した後、俺は倒れ込むデイルの元へ歩み寄った。



「対戦、ありがとうございました」



 そう言って微笑みかけ、手を差し出す。


 するとデイルは「……っ」と歯を噛み締め、気まずそうに俺から目を逸らした。



「……なんでお前は、俺を笑わないんだよ」


「別に笑いませんよ」


「ふつう笑うだろ! 俺は負けたんだ! 散々馬鹿にしたお前に……」


「どんな相手だろうと、戦った相手には敬意を払うものでしょう」


「本気で言ってるのかよ。 こんなクズにも敬意を払うってのか。 復讐したいとか考えないって、そう言うのか……?」


「そうですよ」



 その返答を聞くとデイルは俯かせていた顔をあげ、俺と目を合わせた。


 そしてしばらく俺の目を見て突然「まじかよ……」と、力なく笑い出した。


 きっとそれは自身の愚かさを悔いる自虐の笑みなのだろう。



「あぁほんと、さっきまでの自分が恥ずかしすぎて死にそうだ」



 デイルはそう呟いて俺の手を取った。


 取った手を引きあげ、立ち上がらせるとデイルは「ありがとう」と言って、心底申し訳なさそうな表情を浮かべる。



「今更こんなこと言っても、軽薄に聞こえるかもしれないが……本当にすまなかった」


「大丈夫です、もう気にしてませんよ」


「ありがとう……」



 デイルの表情がほっと安堵したように解れる。



 正直、彼はいい方だ。


 自分の非を理解し、恥を知り、謝罪が出来る人間なのだから。


 もちろん最初は少しムカつきもしたが、もう何度も言われてきて慣れていた事だし、彼は謝罪もしてくれた。


 今、彼に対して抱いているのは対戦してくれたことへの感謝と敬意のみだ。



「次の試合も頑張れよ。 陰ながら応援してる」


「ありがとうございます」



 最後にそんな言葉を交して、握手した。


 こうして真に、俺の学内序列決定戦、記念すべき初戦は幕を閉じたのだった。





更新遅れてしまい申し訳ありませんでした!


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