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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第11章 〜学内序列決定戦〜
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第136話 宣戦布告

 



 突然背後から何者かに声をかけられ、ぎこちなく振り返ってみると、そこに立っていたのは間違いなく、あの男だった。



「アーサ……」



 その名を呼びながら、顔が引き攣るのが自分でも分かった。


 エルフィア、ラフィー、続いてシルバも怒りと嫌悪の色を表情に浮かばせる。



「……何の用だ」



 俺はアーサを睨みつけ、そう言った。


 これまで一切干渉してこなかったアーサの突然の接触。


 そもそも、奴の不干渉自体が違和感だらけだったが、このまま何事も済むのならそれでもいいと思っていた。


 だが、このタイミングでの接触と言い、やはりそういうわけにもいかないらしい。


 しかし、アーサはそんな俺達の様子を見ると「ちょ、ちょっと」と、慌ててたように笑って、



「そんな警戒すんなって。 別に何かするつもりとかねぇって。 後ろの御三方も、な?」



 予想外にもそんなことを口にしてきた。


 しかし、俺含め、当然誰もそんな言葉を信じるはずもない。


 何が、警戒するな、だ。


 アーサはそれが通ると本気で思ってるのか?


 そんな考えを代弁するようにシルバが一番最初に口を出した。



「おいおい勇者様よォ? てめェ、自分がオレらにどう思われてるか、分かって言ってんのかァ?」



 呆れたような、怒ったような態度で一歩前へ出て、アーサへ詰め寄ろうとする。


 というか、その台詞と態度だと、傍から見ればシルバの方が悪役っぽいが。


 ただ、この場であんまり騒ぎ立てたくは無い。


 それに見たところ、多分アーサも()()特に何をする気もないのは本当らしいしな。


 もちろん俺のために怒ってくれるのは、嬉しいことだが、今はそうするべきではない。


 それをアーサも分かっているのだろう。


 そう考え、俺は「いい」と言って、シルバに待ったをかけた。



「いいのかよ? こいつは……」


「いいんだ、今は。 ありがとな」



 不服そうに眉を顰めるシルバと、今にも毒を吐きそうなエルフィア、ラフィーを宥め、俺は1歩前に出た。



「で、何だ? 要件だけ手短に言え」



 正直、顔も見たくないが、このままという訳にもいかない。


 俺が渋々とそう返すと、アーサは「あはは」と、困ったような笑みを浮かべ、



「まぁそう邪険にしないでくれよ。 久しぶりに話すんじゃんか」


「無理言うな」


「冷たいなぁ。 ただ俺は、対戦の前にひとこと挨拶しとこうと思っただけなんだって」


「は……?」


「トーナメント表は見たろ? 俺とお前、同じブロックだったじゃん」


「だったらなんだ? 勝利宣告でもしに来たか? それに、当たるとしても決勝だ」


「まぁまぁ、そういう固いことは一旦置いといてさ。 もし当たったら、お互い頑張ろうなって、そう言いたかったんだって」


「なんだよ、それ?」



 そう言わずにはいられない。


 俺を貶めた張本人であるアーサが、そんな真っ当な理由で俺に接触してくるなんて、どうにも違和感がありすぎる。


 ただ、アーサの様子を見た感じ、特段嘘を言っているようにも思えない。


 そんな風に疑っていると、アーサはまたしても思いもかけないことを言い出す。



「……俺もさ、やりすぎたって反省してんだ。 あの頃はまだガキだった。 お前が俺の事を許せないのも納得してる。 だから、これまで関わらないようにしてきた」


「……」



 理解が追いつかない。


 こいつは一体何を言っているんだ。


 この男が反省?


 あんなに楽しそうに俺を裏切っておいた分際で、今更それを信じろとでも?


 ざけんなよっ!!


 腹の奥底から、怒りが込み上げてるくる感覚があった。


 だが、今は堪えろ。 暴走するな。


 今にも怒鳴り立ててしまいそうな自分に、必死でそう言い聞かせ、奥歯をくいっと噛み締め、拳を固く握った。


 怒りと葛藤する俺を他所にアーサは続ける。



「でもよ、こうして対戦するかもってなったからには、俺も真剣にお前と向き合いたいんだ。 だから一言話しておきたかった。 それに、昔の恨み辛みとか持ち込んでも、絶対いい試合にはならないだろ?」



 だから、どの口でそんなことを言えるってんだ!


 自分が俺に何をしたのか本当に理解してんのか!?


 口走りそうになるのを必死で堪える。



「……つまり、お前は真剣勝負がしたいから、昔のことは水に流せって言うのか?」


「もちろん無理にとは言わねぇさ。 対戦の間だけでいいんだ。 その後はどれだけ俺を恨んでくれても、嫌ってくれても構わないし、俺からは、一切お前に干渉しないと約束する。 絶対にだ」


「……」



 本当に、怒りを通り越して呆れ果てた。


 そのせいで、幸か不幸か、少しだけ込み上げた怒りが収まり、冷静に状況の整理ができてしまった。


 不可解な点は多々ある。


 ずっと感じている違和感は拭えない。


 仮にアーサの言葉が本当だとしても、俺がこいつを許せるはずもないし、怒りは増大する一方だ。


 だが、今のところは特に実害がないのも事実。


 それに、確かに奴の言うことにも一理ある。


 恨み辛み、憎しみを勝負の場に持ち込むのは、決して良いこととは言い難いし、俺にとっても良くないと理解している。


 サイオスも言っていた。


 負の感情は時に強い力を発揮させることもあるが、同時に視野を酷く狭めてしまう、と。


 真偽のところは定かではないにしろ、奴は真剣勝負を申し出ているのだ。


 完全に拭えはしないだろうが、ただ憎しみや怒りだけに任せて戦っても、俺の為にもならない。


 というかそもそも最初からそのつもりもない。


 それは仮に、アーサの言葉が全部嘘で、いざ対戦すると言うことになった時、何かを仕掛けてきたとしてもだ。


 俺は、ミルザやサイオス、俺を支えてくれる人達、そして自分自身に恥じない戦いをする。


 これだけは何があっても揺らいだりしない。


 まぁ、あいつに言いくるめられているみたいで釈然とはしないのだが。


 そんなふうに考えながら、俺は深い溜息をついた。



「……分かった。 その申し出だけは受けてやる。 本当に、正々堂々と戦う気があるならな」



 頷きそう返事をした。


 するとアーサは「あぁ!」と安堵したように笑い、自分の席へと戻っていった。



(あいつ、何を企んでやがるんだ?)


 奴の背を眺めながら、俺は内心そんなことを考えた。


 その時、同時にアルドが教室に入ってきて、俺達も自分の席に戻り、ざわついていた教室内は一斉に静まったのだった。




 ───学内序列決定戦まで、あと一週間。




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