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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第10章 〜望まぬ再会〜
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第121話 予想通りの展開③

 




「お前も知ってんだろ? そいつが無職だってこと」



 メルクが俺を睨みつけながら指を指してそう言うと、シルバは横目に俺の顔を見た。



「……あァ」


「だったら───!」



 だったら、なぜそのことを知りながら、シルバは俺を庇うのか。

 メルクは多分そう言いたかったのだろう。



 俺も初めはそう思っていた。

 だから、昨日の夜、俺はあんなことを言ってしまったのだ。



 だけど……。



「───だからなんだってんだァ?」



 メルクの言葉を遮るようにして、シルバは挑発的な口調でそういった。



「ユウが無職だから、オレが味方するのはおかしい、とでも言いてェのか?」


「……あぁそうだ! どいつもこいつも、なんでこんな、何もできねぇ無能のクズをっ!」


「そうか、わからねェか」



 シルバがそう呟き、呆れたように深い溜息を吐いていた。


 きっと、先程の俺と同じ感覚を覚えているのだろう。



 本当にこいつらはどうしようもない連中だと。


 相手すること自体が、程度の低い行為なのだと。



 それでも、シルバは俺が侮辱されていたことが相当頭にきていたらしく、苛立った態度を取り直していた。



「……クズだ無能だ。 ユウのことを、てめェはそう言ったなァ」



 言葉に含まれた威圧感が増し、勢いに押されるようにしてメルクはまた1歩後ずさる。



「だがなァ、少なくともてめェらみたいな、何の信念も、矜恃もねェ烏合の衆が、どんだけ束になっても、ユウには勝てねェよ。 絶対ェにな」


「……この俺が、そんなやつに劣るだと?」



 シルバの口から力強く放たれた言葉に対して、拳を固く握り締め、メルクが小さく、しかし怒りに満ち満ちた声音で呟いた。



「あァ、それも相当なァ」



 シルバは依然、挑発腰の態度でそう返す。



 すると、それまではシルバに対してずっと弱腰だったメルクが一変して癇癪を起こした。



「ふざけんじゃねぇ! 俺が……勇者であるこの俺が、そんな奴に劣るはずがねぇだろうが!」



 しかし、激高するメルクを見るやいなや、シルバは「あァ」と、何かに納得するように溜息を吐く。



「やっぱそういう事かァ」



 そう呟くと、突然彼はくつくつと笑いだした。


 ただそれは、単純な面白さから来る笑みではない。


 メルクに対する滑稽味を存分に含んだ、嘲笑冷笑の類のものだ。



「……な、なんだよ?」



 シルバの振る舞いに奇怪そうな表情をするメルクだが、なにか嫌な予感でもしていたのか、その顔色はどこか焦っているようにも思える。



「いやァ、くだらねェことしてんなァと思ってなァ」



 メルク達から、息を飲み込む音が聞こえた気がした。


 くだらないこと、そのことに何か心当たりでもあったのだろうか。



「そういやァ、てめェらがユウに突っかかってた理由って、なんだっけかァ?」


「は、はぁ? 何を今更。 俺達はそいつの不正入学を暴くために───」


「───ちげェよなァ? そんなのただの詭弁、体のいい言い訳だろォ?」


「……っ!」


「自覚してるんだろォが、敢えて教えてやるよ」



 メルクの額には先程とはうって変わり、青筋ではなく、汗が浮かび滲んでいた。


 その様子は、明らかな焦りを表している。



 そしてシルバは、そんな彼らに満を持して、最後の一撃をたたき込む。



「てめェらがやってんのはなァ、しょうもない劣等感と、醜い嫉妬からくる、ただのくだらねェ八つ当たりだろうがァ!」


「……」



 シルバの一言に、俺を罵倒していた時の威勢はどこへ消えてしまったのやら、メルク達はあっさりと黙り込んでしまっていた。


 それはまさに、言い返す言葉もない、図星をつかれたと、自ら公言することを意味する態度だ。



 図星をつかれれば誰だって動揺する。


 はっきりと自覚している、隠せていると自負しているなら尚更のこと、

 今の彼らのように、思考が停止し、すっかりと黙りこけてしまう。



「直近だと、昨日のあの2人のことだろうなァ。 あれァ傑作だった」



 クスリと馬鹿にするように笑うシルバに、俺はなんのことかと首を傾げたが、本人達は早々に彼の言うことを理解したらしく、恥ずかしそうに顔を赤くしていた。



「ユウに八つ当たりすることで、その羞恥心を晴らそうとしたんだよなァ? 違うかァ?」


「そ、それは……!」


「なんだァ? 言い返すことがあるのかよォ? なんなら拳で語ってくれてもいいぜェ。 てめェら程度なら、オレ1人でも俄然負ける気がしねェがなァ」


「……」



 メルクは悔しそうに奥歯を噛み締め、拳を握り締めながら口を噤んでいる。


 シルバには全てを見透かされてしまっていることをようやく悟ったのか。



 しかし、ここで引き下がるかに見えたメルクだったが、俺に対して何か物申した気に鋭い眼光を向けてきた。



 再び俺に牙を剥いたメルクの睨み目と目が合った瞬間、



 ───あ、この後の展開が何となく読めた……



 そして、俺の脳裏に浮かんだ考えを、全肯定するように、メルクが噤んでいた口をゆっくりと開く。



「───なら、決闘だ……」



 やっぱりか……。


 小さく聞こえてきたメルクのつぶやき声に、俺は内心でそう呟かずにはいられなかった。



「そこまで言うんなら、証明して見せろよ」



 メルクが俺を指さした。



「俺と決闘しろ、ユウ・アッシュリッド!」



 そう叫び、俺に決闘を申し込んできたメルクに対して、シルバは「はァ?」と。青筋を浮かべながら彼を睨みつける。



「てめェ、この期に及んで───!」


「───いいぜ」



 しかし、俺はシルバの返し言葉を遮るようにしてそう言った。



 決闘を持ちかけてくることこそが、彼らの本来の目的だったのかもしれない。



 そして、それは俺もどこかで予感していて、俺自身それを望んでいたのかもしれない。



 なにはともあれ、メルクが持ちかけてきた決闘を、勝負を無視できるほど俺は大人じゃなかったらしい。


 むしろ、この決闘を正当な腹癒せの機会だとさえ思ってしまっていた。



 そんなことを考えながら、俺は1歩前へ出る。



「その勝負、受けてやるよ。 もしも俺が勝ったら、二度と俺に関わるな」


「いいぜ? だが、もしも、てめぇが負けたら……てめぇにはこの学園を自主退学しろ」


「───っ! てめェ!」


「まさか逃げたりしないよなぁ?」と、見下すように付け加えたメルクにシルバが怒鳴りを上げた。



 それでも俺の中には、引き下がる選択肢など既に無く、



「……分かった」



 僅かな逡巡の間を空けながらも、俺が了承するとメルクは閉めたと言わんばかりに、ニヤリと下卑た笑みを浮かべた。



「成立だ。 日時は今日の放課後。 場所は多目的エリアの模擬戦用ミニスタジアム」


「いいだろう」



 俺が了承の意を込めてそう返すと、メルクは「ふんっ」と、鼻で笑い、



「せいぜい首洗って待っとけや」



そう吐き捨てて、俺とシルバに背中を向けると、心做しか逃げるように、教室の方へ戻って行った。



 そして、俺を取り囲んでいた外野の連中も、メルクの後に引き続くようにして、ぞろぞろと歩き去って行った。






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